2025/12/17(水)Vol.532
| 2025/12/17(水) | |
| 2025年12月17日号 | |
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| 「ドン・ジョヴァンニ」オペラリッカルド・ムーティ |
Photo: 筆者提供
リッカルド・ムーティと『ドン・ジョヴァンニ』といえば、日本のファンにとっては2026年4、5月のオペラ公演への期待ということになりますが、ここではミラノで開催されたマエストロが力を注ぐイタリア・オペラ・アカデミーの模様を田口道子さんのレポートによりご紹介します。課題は『ドン・ジョヴァンニ』!
2015年にラヴェンナでリッカルド・ムーティ イタリアオペラ・アカデミーが創設されてから10年になった。イタリアばかりでなく日本でも2019年(『リゴレット』)、2021年(『マクベス』)、2023年(『仮面舞踏会』)、2024年(『アッティラ』)、2025年(『シモン。ボッカネグラ』)と5回のアカデミーが実現した。イタリアでは2021年からプラダ財団の全面協力のもと、1年おきにミラノで開催され、多くの若手指揮者がマエストロ・ムーティの薫陶を受けている。
今年はモーツァルト作曲、ロレンツォ・ダ・ポンテ台本の『ドン・ジョヴァンニ』が取り上げられ、11月19日から30日までの間に6日間の公開レッスンと受講生指揮によるコンサートが行われた後、30日はマエストロ・ムーティ指揮によるコンサートで最終日が飾られた。
なぜオーストリア人のモーツァルトの作品がイタリアオペラなのか? との疑問に対してマエストロは「前年に書かれた『フィガロの結婚』と『ドン・ジョヴァンニ』、そしてその後に書かれた『コジ・ファン・トゥッテ』はロレンツォ・ダ・ポンテの台本によるイタリア語の三部作です。もちろんモーツァルトは若い時からイタリアで勉強してイタリア語によるオペラ作品を書いていますが、この三部作はイタリア語のニュアンスと音楽が完全に一致しています。これはモーツァルトがいかにイタリア語に精通していたか、またイタリア人以上に台本を深く解釈していたかの証であると思います。私はこの三部作はイタリアオペラであると理解しています」と断言する。
さて、今年は300人以上の受講応募者の中から20名近くがマエストロの直接のオーディションを受けた。毎回4名か5名が選ばれるのだが、何とも落とし難いほどの優秀な若手が多かったとのことで結局イタリア、ポーランド、ルーマニア、アイルランド、韓国、ドイツからの各1名ほか中国からの3名の9名が受講生に選ばれた。
レッスンは午前10時30分からコレペティトールと歌手、12時から13時までが若手指揮者とオーケストラと歌手、そして休憩をはさんで16時から18時30分まで若手指揮者とオーケストラと歌手のレッスンが公開され、600名の客席はほぼ完売状態だった。18時30分までは公開だが、これで終わりではなく18時30分から歌手のレチタティーヴォのレッスンが非公開で行われた。聴講している私もかなり疲れたが、マエストロの超人的なエネルギーには驚くばかりだった。
マエストロはスコアの一つひとつの音にどのような意味があるかを忍耐強く説明し、オーケストラのパートごとに重要性を持たせる。するとどの楽器の音も命を吹き込まれたように輝いて聴こえてくるから不思議だ。またそれぞれの場面の音型も意味を持っていることが明らかになって来る。下降している音型がどんどん低い調性になっていくのは地獄へ落ちて行く前触れであるなど、今まで考えることもなくただ聴いていただけの音楽が何と興味深く感じられることか。来年4月の東京での公演が益々楽しみになってきた。
11月27日は受講生指揮によるコンサートだった。受講生のコンサートはレチタティーヴォを抜かして演奏された。9人が代わる代わる指揮をするとオーケストラの響きも微妙に違って聴こえてくる。まさに音楽は生き物という感じがして面白かった。
そしていよいよ11月30日にマエストロ・ムーティ指揮による全曲演奏が行われた。何カ月も前からチケットは完売していた。しかし、正直なところこのコンサートは満足いくものではなかった。プラダ財団が旧倉庫を改装して仮設したコンサートホールの床はカーペットが敷きつめられ、立派な客席のソファーはビロードのカバーで音響的には最悪の条件である。そのため、ステージ上はマイクが乱立しオーケストラも歌手も合唱もマイクを通した音声しか聴くことが出来なかったのだ。東京文化会館での公演が益々待ち遠しく感じられた。
東京での公演はチケットが最高席が59,000円と聞いた時、個人的には高いと思ったのだが、このコンサートは200ユーロ(38,000円)ということを考えると本格的なオペラ公演で、しかもマエストロが厳選した世界の有数の歌劇場で活躍している歌手が揃うことを考えると決して高すぎることはないと思った。スカラ座はオープニングのチケットは3,200ユーロ(1ユーロ=190円で換算すると608,000円)する。ここまで円安が続くとヨーロッパでのコンサート巡りも容易ではない。
取材・文:田口道子(演出家)