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Photo: Brescia - Amisano / © Teatro alla Scala

NEW2026/01/07(水)Vol.533

ミラノ・スカラ座
2025/26シーズン・オープニング レポート
2026/01/07(水)
2026年01月07日号
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オペラ

Photo: Brescia - Amisano / © Teatro alla Scala

ミラノ・スカラ座
2025/26シーズン・オープニング レポート

ミラノ・スカラ座2025/26シーズン開幕の様子を、演出家の田口道子さんによるレポートでご紹介します。

没後50年ショスタコーヴィチ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』

12月7日ミラノの守護聖人サン・アンブロージョの祝日に2025年もミラノ・スカラ座のシーズンがオープンした。シーズン・オープニングは毎年、政界財界の要人や大スターが招かれ、華やかな祭典という雰囲気なのだが、今シーズンは少々様子が違うように感じた。それは社交界的な華やかさより、文化的な祭典であることが強調されていたからではないだろうか。
オルトンビーナ新総裁の元での初シーズンは大成功を収めた。毎年オープニング初日は注目の的となり、特に新演出などは観客からのブーイングで批判されるので緊張感が溢れているのだが、今年は幕切れと共に大きな拍手が鳴り続いた。チケットの売り上げ収入は史上最高額と総裁は大いに満足している様子だった。

『ムツェンスク郡のマクベス夫人』(ミラノ・スカラ座2025年12月公演より)
Photo: Brescia - Amisano / © Teatro alla Scala

演目は2025年が没後50年になる作曲家ショスタコーヴィチの『ムツェンスク郡のマクベス夫人(Lady Macbeth of Mtsensk)』だ。ミラノ・スカラ座の音楽監督として最後のシーズンであるリッカルド・シャイーの指揮によるスカラ座管弦楽団の演奏は見事だった。奇しくもスカラ座で最後にこの作品を上演したのは1992年だが、その公演の指揮者は来シーズンから音楽監督に就任するチョン・ミョンフンだった。

私はこのオープニングの数日前に上演された30歳以下を対象にした公演を鑑賞することができた。これは10年近く前から若い世代をオペラ劇場へ誘う目的で始められた。初めはゲネプロ(舞台での最終総稽古)が公開される形だったが、今ではオープニングの前公演(アンテプリマ)として稽古ではなく本公演が行われている。今年の入場料は20ユーロ(約3.500円*)でオープニングの特別チケット3,200ユーロ(約560,000円*)とは比較にならない安さである。20代の若者たちがドレスアップしてオペラを鑑賞する機会を得ることは貴重な経験となるに違いないと思った。(*1ユーロ=175円として)
不用意にスカラ座の正面入り口から入場した私は身分証明書の提示を求められたが、幸いなことにホワイエにいた総裁秘書に助けられ、無事入場することが出来た。

『ムツェンスク郡のマクベス夫人』(ミラノ・スカラ座2025年12月公演より)
Photo: Brescia - Amisano / © Teatro alla Scala

一応あらすじは読んでいったが、ロシア語の上演を理解するのは難しかった。まずはショスタコーヴィチの音楽に興味をそそられ、3時間半に及ぶ長時間ずっと舞台に集中することができた。ヴァシリー・バルカトフの演出は物語を映画風に、時代は1950年代に移されていたものの、ほぼ原作通りに展開していた。見ていてハラハラするような性的な描写もそのままで刺激的だったが、オープニングの観客がどのような反応を見せるのか非常に楽しみになった。

7日の公演は国営放送RAIでライヴ中継された。今度は字幕もついていたため、内容が良く理解できた。スカラ座ならではの素晴らしい舞台だった。

『ムツェンスク郡のマクベス夫人』(ミラノ・スカラ座2025年12月公演より)
Photo: Brescia - Amisano / © Teatro alla Scala

"事件"は2回目の公演、10日に起こった。第1幕が終わったところで指揮者シャイーが体調不良を訴えたのだ。もともと心臓疾患を持つシャイーは最近ではオペラを指揮する回数を減らして健康管理に努めていたという。休憩が15分間延長されシャイーは第2幕を振り終えたが、その休憩中に救急車で病院に搬送される事態になってしまった。劇場は代理の指揮者を立てることをせず、この日の公演は第2幕までで中断された。
シャイーは一晩の入院で翌日は自宅に戻り、13日の公演は無事に終えることができたが、とても心配な出来事だった。

リハーサル中のリッカルド・シャイー(右)と演出家ヴァシリー・バルカトフ(左)
Photo: Brescia - Amisano / © Teatro alla Scala

取材・文:田口道子(演出家)