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Photo: Shinji Hosono

NEW2026/01/21(水)Vol.534

『月に寄せる七つの俳句』座談会 
ジョン・ノイマイヤー×斎藤友佳理×高岸直樹×木村和夫
2026/01/21(水)
2026年01月21日号
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Photo: Shinji Hosono

『月に寄せる七つの俳句』座談会 
ジョン・ノイマイヤー×斎藤友佳理×高岸直樹×木村和夫

2月開催の《レジェンズ・ガラ》は、トリプル・ビルの3作がいずれも東京バレエ団にとって価値ある作品として話題を集めていますが、なかでも『月に寄せる七つの俳句』は17年ぶりの再演! レジェンドの一人であるジョン・ノイマイヤーと初演の際の出演者、木村和夫、斎藤友佳理、高岸直樹による座談会で語られた、作品の誕生について、今回の再演に向けてなどをご紹介します。

「月に寄せる七つの俳句」はこうして生まれた

――今回『月に寄せる七つの俳句』が17年ぶりに再演されます。初演は1989年、36年前になります。ノイマイヤーさんにとって、東京バレエ団との初めての仕事だったんですね?

ノイマイヤー:当時のことはよく覚えています。東京バレエ団から新作バレエを依頼され、ずっと日本の伝統文化に関心を抱いていた私は、まがい物の日本を描くのではなく、本物の日本文化に対する自分の想いを表現したいと考えました。俳句はとてもシンプルな言葉の組み合わせから成り立ちますが、人はそのなかにたくさんの意味を込めることができる。それはダンスとよく似ています。ダンスも情報をはっきり伝えるものではなく、その行間にある言葉を感じ取っていくものだからです。そこで俳句を主題に決めました。朗読される俳句の言葉とダンスとを結びつける考えが生まれ、選句に統一感を与えるため、本当にたくさんの俳句を読んで探しました。そのなかで月という言葉に頻繁に出会ったのです。月は季節を暗示し、感情を暗示し、また何らかの雰囲気を暗示します。私は月というひとつの主題で作品を創るのがいいのではないかと考え、7つの俳句を選びました。7という数字も美しいと思いますし、月というシンボルもとても美しい。
この作品の構成を考えたとき、日本には月を眺めて愛でる「月見」という伝統があることを知り、とても魅了されました。月を眺めるのに最高の場所は水面だとある本で読み、水を表すために「水面に映る夜空」と呼ぶ群舞を創って、そこからバレエを始めることにしたのです。作品の中心となるダンサーは「月を見る人」ですが、月そのものも必要でした。当時の東京バレエ団にはまだバレエ団に入りたてのとても若いダンサーがいました。身体のラインが美しく、表現は明晰だけれど、でもけっしてやりすぎることはない。とてもピュアな踊り。それが(木村)和夫だったのです。彼に月を踊ってもらうことに決めました。(斎藤)友佳理と(高岸)直樹は別の作品で2人の踊りを見ていましたから、「月を見る人」のメインは2人にお願いすることにしました。

ノイマイヤー振付『月に寄せる7つの俳句』
Photo: Ryu Yoshizawa

魔法にかかったような体験

木村:ぼくはそれまでコール・ド・バレエしか踊ったことがなかったので、ノイマイヤーさんに選んでいただいた「月」は本当に初めてのチャンスでした。たぶん色とか何も付いていない感じだったんじゃないかなと思います。本当にノイマイヤーさんに言われるまま、見たままに鏡のように素直に返していった感じでしょうか。経験があったら自分の色をいろいろ出したがると思うのですが、当時のぼくは何もなさすぎるくらいになかった。本当にゼロだったから(笑)

ノイマイヤー:素晴らしかったですよ。

ノイマイヤー振付『月に寄せる7つの俳句』
Photo: Kiyonori Hasegawa

高岸:ぼくはノイマイヤーさんがいつも考え込んでいた姿を鮮明に記憶しています。ぼくたちがいつも悩ませていたというか、日本人の文化なのかもしれないですが、当時はリハーサルで「言われるまで動くな」というところがありました。それでノイマイヤーさんが「もっと自分から動いて」と言ってくださったのをすごくよく覚えていて、もっとノイマイヤーさんの想像力を掻き立てられるようなことをしておけばよかったな、といまになって思うことがあります。

ノイマイヤー:初演の映像が残っていますが、3人ともとても美しかった。振付が美しく見えるのは、ダンサーがその動きを自分自身が振付けたかのように感じて踊ったときだと思います。私の声ではなく、自分自身の声で感じたままに踊ってほしい。3人それぞれが自分だけの想いを踊りに乗せ、自分ならではの動きを見せてくれたのが、あの『月に寄せる七つの俳句』の舞台だったと思っています。

斎藤:私はリハーサルの最初「月を見る人」の1人で、わあーッて声を出して登場する役でした。舞台上で声を出すのは初めての経験で本当にびっくりしたんですけれど、ジョンさんと一緒にリハーサルしていくうちに、国も言葉も全然違うのに、表面的な部分でなく、その「間」の情感とか、ストレートに心に訴えかけてくるものがあって、それが自分にとって至福の瞬間でした。「寒月や 石塔の影 松の影」のところで、私と直樹くんだけが残ることになって「何があるんだろう?」と思っていたら、私たちがパ・ド・ドゥを踊ることになった。最後の場面も男性2人のパ・ド・ドゥで終わると佐々木忠次さん(当時の東京バレエ団代表)からは聞いていたのですが、途中から私も加わることになって本当にびっくりしました。ジョンさんの作品にある情感の部分は、私にとっては創られるときに本当にみんなが魔法にかかってしまうような体験なんです。

ノイマイヤー振付『月に寄せる7つの俳句』
Photo: Ryu Yoshizawa

アルヴォ・ペルトからの美しい手紙

ノイマイヤー:音楽に関しても、ひとつ素敵な話があるのです。『月に寄せる七つの俳句』のなかでもっとも重要な曲のひとつがアルヴォ・ペルトの「ドライクラングスコンツェルト」です。『月に寄せる七つの俳句』初演後のある時点で、彼は「ドライクラングスコンツェルト」に満足できなくなり、以後の演奏を禁じました。2010年にハンブルク・バレエ団が上演する際は、私はペルトと親交がありましたから、彼に「使わせてください」と直接懇願して、許可が下りたような状況でした。2018年の世界バレエフェスティバルでアッツォーニ、リアブコ、レヴァツォフの3人が「小言いふ 相手もあらば 今日の月」の場面を踊ったときは、使用許可が下りず、バッハに置き換えることになりました。もちろんバッハの音楽も美しいのですが、やはりこの場面の振付が生まれた音楽とは別物です。今回の再演に当たって、私はふたたびペルトにアプローチすることにしました。息子さんに手紙を送って、この音楽がいかに重要かを説明し、許可を求めたのです。振付にとって、我々の感情的な反応にとって、このバレエのアイデアにとって、この音楽がどれだけ必要不可欠であるかを伝えました。ペルトはかつて私にとても美しい手紙をくれたことがあって、そのなかで彼は私のことを自分の音楽を感じとって振付けるにふさわしい人間だと言ってくれていました。ずっと返事を待っていたのですが、私たちにとって幸運なことに、日本に向かう3日前に「ふたたび使ってかまわない」という返事が届いたのです。

斎藤:本当によかった! 私たち3人、みんなこの『俳句』でスタートしているんだと思います。だから、今度の再演では、私と直樹くんとカズくんと、(佐野)志織先生の4人で力を合わせて作品の心を伝えていきたいと思っています。

取材・文:浜野文雄(新書館「ダンスマガジン」編集委員)

* このインタビューは公演プログラムに掲載する内容の一部です。全文、およびその他の写真については会場で販売する公演プログラムにてお楽しみいただけます。

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公演日

2026年
2月27日(金) 19:00
2月28日(土) 14:00
3月1日(日) 14:00

会場:東京文化会館(上野)

※配役については下記をご覧ください。
https://thetokyoballet.com/performance/tbgala2026/

入場料[税込]

S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000 U39シート=¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり