この2月、東京バレエ団《レジェンズ・ガラ》で『月に寄せる七つの俳句』は17年ぶりに復活を遂げます。昨年12月には"レジェンド"の一人である振付家ノイマイヤー自身が来日し、3日間にわたるキャスティング・オーディションを実施。その結果見事主役の座を射止めたのが平木菜子です。名門ハンブルク・バレエ団で活躍し、2021年に東京バレエ団へと移籍した平木に本公演への想いをダンス評論家の上野房子さんが聞きました。
――平木さんは小学生の頃から数々のコンクールで優勝し、海外の複数の学校からスカラシップのオファーを受けていましたが、なぜ、ハンブルク・バレエ学校に入学したのですか。
平木:ロイヤル・バレエ学校やサンフランシスコ・バレエ学校からもオファーを頂き、ジョン・クランコ・バレエ学校で研修したこともありました。でも、その頃に通っていたバレエ教室の先生がハンブルクで勉強したことがあり、学校の様子を聞いていたので、いちばん惹かれていたのはハンブルクでした。最初は2週間の滞在でしたが、自分の心と街とバレエが通い合う感じがして、留学するなら、ここだな!と直感しました。
――どのようなところに"通い合う感じ"を覚えたのでしょうか。
平木:街の雰囲気やレッスンの内容がしっくりきましたし、「Ballettzentrum(=バレエ・センター)」という、ジョン(ノイマイヤー)の発案で設立された付属施設の存在も大きかったです。ここには、バレエ学校や寮だけでなく、バレエ団やユースバレエの本拠地も入っていて、各々のダンサーが幾つもあるスタジオを共用しています。そこに足を踏み入れた瞬間、不思議なパワーと温かさに包まれたんです。
――現地で見たバレエ団の公演は、いかがでしたか。
平木:ダンサーのレベルが本当に高く、音楽と体が一体となり、一人ひとりのパワーが何倍にもなってこちらに押し寄せてくるようでした。こんなダンサーになりたい、このバレエ団に入りたいという気持ちが、ますます強くなりました。
――フルタイム課程に編入した平木さんは、厳しい選抜を突破し、バレエ団の一員となります。平木さんが実際に参加されたノイマイヤーさんの創作の様子について、ぜひお聞かせください。
平木:ダンサーからたくさんのアイディアを引き出しながら、創作を進めるイメージです。たとえばジョンが、ここでジャンプしたらどうかなと提案すると、ダンサー達が自由に動いてみる。さらにジョンがアイディアを加え、作品を形にしていきます。最終的な判断をするのは彼ですが、ダンサー自身が動くことも大切です。『ガラスの動物園』(2019年初演、主演はアリーナ・コジョカル)で私が演じたのは、主人公の焦燥感を象徴するタイプライターを打つタイピストの役。実際のタイピストの動きを想像しながら、タイプを打ちまくりました。
――ところでハンブルクの皆さんは、"巨匠ノイマイヤー"を"ジョン"と呼んでいたのですか?
平木:もちろんです。彼は天才的な振付家で、ダンサーも指導者もスタッフも彼に尊敬の念を抱いていますが、一緒にいる時間が長く、距離感も近いので、私たちはファミリーのような関係になっていました。
――2021年にハンブルクを離れた経緯を教えていただけますか。
平木:ハンブルク・バレエ・ファミリーの一員として活動することを、心からエンジョイしていました。ところが、コロナ禍の影響でロックダウンが長く続き、劇場も閉鎖......。私たちはいつでも公演を再開できるようにリハーサルをしていたのに、ドイツの活動制限は厳しく、予定されていた公演が何度も直前に中止され、先の見えない状況が続きました。私は精神的に辛くなってしまい、ジョンにも相談して日本に戻ることにしました。
――東京バレエ団でも〈ファミリー〉の一員という感覚は持てましたか。
平木:ハンブルク・バレエ団の来日公演に参加した時に顔なじみになっていた方たちがいましたし、ダンサーの皆さんも温かく迎えてくれました。先生方はとても親身で、各々のダンサーの癖や個性を理解した上で、その人に合った注意やアドバイスをしてくださる。誰もがバレエを愛していて、良い舞台を創ろうと同じ方向に向かっていることを実感できました。
――ノイマイヤー作品『月に寄せる七つの俳句』で、初の主役に選ばれました。
平木:オーディションの時にジョンに再会し、彼にハグしてもらい、鳥肌が立ちました。それだけで十分に幸せだったのに、彼の帰国後に主役に選ばれたと発表され、私、泣いてしまいました!
――詩的な情景が連なる作品に主演するにあたり、意識していることは何でしょうか。
平木:私が演じる役は、幼さの残る少女として登場、恋をして大人の女性になり、最後には幻影のように雲の上を漂う存在になります。40分の作品の中で、このキャラクターの変化をしっかりと見せなくてはなりません。女性としての存在感を演じ切ることが、何より大事だと思っています。
――東京バレエ団で多彩な作品を踊った経験を通して、改めて発見したノイマイヤー作品の魅力はありますか。
平木:他の振付家の作品では、手足のポジション、音の取り方まで細かく決められていることが多いのに対し、ノイマイヤー作品にはフリーな部分が多く、自分でその役を作り上げるセンスが問われます。カウントのない曲も使われているので、どこでどのように動くかを自分で決めながら舞台を作っていく難しさがあり、同時にこの自由さが表現の幅を大きく広げ、観る人の心を震わす、そこがノイマイヤー作品の魅力だと改めて感じています。日々、体調に気を配り、舞台で全てを出し切りたいです。
取材・文:上野房子(ダンス評論家)
2026年
2月27日(金) 19:00
2月28日(土) 14:00
3月1日(日) 14:00
会場:東京文化会館(上野)
※配役については下記をご覧ください。
https://thetokyoballet.com/performance/tbgala2026/
S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000 U39シート=¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり