開催目前となった〈上野水香オン・ステージ〉。A、B2つのプログラムにはゲストや東京バレエ団との共演を含め、上野水香の魅力が発揮されます。舞踊評論家の高橋森彦さんによる2つのプログラムの魅力をご紹介します。
〈上野水香オン・ステージ〉がふたたび還ってくる。2023年の初回は上野水香の令和3年度(第72回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞記念だった。次いで、2024年、令和5年 秋の褒章における紫綬褒章受章を祝し2年連続開催された。恵まれた肢体、卓越した技量、抜群の華を兼ね備え、キャリアを重ねなお進化/深化し続ける上野水香が観客に捧ぐ贈り物だ。3度目の開催を迎えるのは喜ばしい。
上野水香は全公演でモーリス・ベジャール振付『ボレロ』に主演するが、選ばれし者しか踊ることは許されない。ラヴェルの同題曲と共に、"メロディ"と称される舞踊手が赤い円卓上で独り踊る。次第に周りの"リズム"(群舞)と共振し、興奮はやがて頂点へ。
上野は東京バレエ団入団まもない2004年に初めて"メロディ"を踊り、ベジャールに直接指導を受けた。以後、踊るたび趣の異なる表情を見せるが、ことに2021年の〈HOPE JAPAN〉は記憶に残る。パンデミックからの文化芸術を通した復興を使命とする全国公演に際して、身命を賭し祈るように踊った。その無我の踊りから湧きあがるエネルギーに接し、見る者はいま生きることについて思いをめぐらせ、鼓舞される。上野はアーティストとしてさらなる深化を遂げ、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞する原動力ともなった。
そこからさらに深化する。〈上野水香オン・ステージ〉でも毎回一期一会の『ボレロ』を踊るが、今回果たしてどのような境地を示すのだろうか。この目でしかと見届けたい。
上野はバレエ・ブラン(白いバレエ)も踊る。
Aプロでは『白鳥の湖』第2幕よりを披露。クラシック・バレエの代名詞で、チャイコフスキーの名曲と共に繰り広げられる名場面だ。舞台は湖畔。憂さ晴らしに狩りに出た王子と、悪魔によって白鳥に変身させられ夜の間しか人間の姿に戻ることができない王女オデットの運命の出会い。上野のオデットは、類まれな美しい脚先をはじめとする全身から姫の哀しみを痛切に物語る。
Bプロではロマンティック・バレエ不朽の名作『ジゼル』第2幕よりに出演。夜の森を舞台に、ウィリ(死霊)となったジゼルが、現世で愛したが裏切られたアルブレヒトに再会する。上野は東京バレエ団入団後の2008年に満を持してジゼル役に挑み清新な演技を見せたが、円熟の域にあるいま向き合う舞台も得難いだろう。
両作品で共演するのが、貴公子中の貴公子であるフリーデマン・フォーゲル(シュツットガルト・バレエ団)。上野と同じモナコの名門バレエ学校プリンセス・グレース・アカデミー出身ということもあって、気脈を通じているようだ。2009年の『ジゼル』全幕以来実に17年ぶりの共演だが、互いが培ってきた舞台経験が掛け合わさって、いかなる化学反応を起こすのか期待が高まる。
古典名作といえば『パキータ』をA・B両プロで上演。同作の大元はスペインを舞台にした全幕バレエで、1846年にパリ・オペラ座において初演された。今日ではロシアでマリウス・プティパが改訂した結婚式のグラン・パがしばしば上演される。主役男女の踊りを中心に、ソリスト、コール・ド・バレエ(群舞)も含む踊りが華やかだ。
ここでは、新たな黄金時代を迎えている東京バレエ団のダンサーたちに注目したい。主役のエトワールを2組が競演。秋山瑛&宮川新大は心技体いずれも充実し、共演を重ねてきただけに輝かしい舞台となるはず。涌田美紀&池本祥真も実力者で、切れ味鋭いテクニックを繰り出しつつ端正に魅せるだろう。
上野がAプロで踊るベジャールの『ルナ』は総タイツ姿で神秘的に踊られる。昨春踊った際に好評を博しており、より研ぎ澄まされた踊りとなるだろう。
若き日の上野を自作に重用し、世界的キャリアを歩む道へと導いたのが、20世紀バレエの巨匠ローラン・プティだ。Bプロでは、プティの『レダと白鳥』を上野とフォーゲルが踊る。ギリシア神話に想を得た、傑作の誉れ高い創作だ。
フォーゲルが踊る『モペイ』はコンテンポラリーダンスの鬼才マルコ・ゲッケの振付で、背中を中心とするユニークな動きの連続にぐいぐいと引き込まれる。
上野水香の現在が詰まった特別公演であると同時に、古典からベジャールの名作、現代の秀作まで多彩な演目に親しめる。東京バレエ団のクオリティの高さも折り紙付き。バレエの醍醐味が詰まった、堪えられない公演になるだろう。
文:高橋森彦(舞踊評論家)
2026年
3月20日(金・祝)17:00 Aプロ
3月21日(土)14:00 Bプロ
3月22日(日)14:00 Aプロ
会場:東京文化会館(上野)
S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000 U39シート=¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり
3月25日(水) 18:30
会場:福岡市民ホール 大ホール
入場料[税込]
S=¥15,000 A=¥13,000 B=¥11,000
※福岡公演のNBSでの取扱いはございません。
3月26日(木) 18:30
会場:フェスティバルホール
入場料[税込]
S=¥15,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥2,000
[予定される主なプログラム]
東京公演Aプロ:「白鳥の湖」第2幕より、「パキータ」、「ルナ」、「モペイ」、「ボレロ」
東京公演Bプロ:「ジゼル」第2幕より、「パキータ」、「レダと白鳥」、「モペイ」、「ボレロ」
福岡公演:「白鳥の湖」第2幕より、「ブエノスアイレスの夏」、「ドン・キホーテ」(抜粋)、「ボレロ」
大阪公演:「ジゼル」第2幕より、「ブエノスアイレスの夏」、「パキータ」、「ボレロ」
ゲスト・アーティスト:フリーデマン・フォーゲル [東京公演のみ]
※上演作品と出演者の詳細は公式サイトをご覧ください。
※音楽は特別録音による音源を使用します。