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Photo: Shoko Matsuhashi

NEW2026/03/18(水)Vol.538

東京バレエ団『かぐや姫』再演
「日本最古の物語が、現代と響き合う」
2026/03/18(水)
2026年03月18日号
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Photo: Shoko Matsuhashi

東京バレエ団『かぐや姫』再演
「日本最古の物語が、現代と響き合う」

"世界に発信する日本のバレエ"をコンセプトに、東京バレエ団がNoism Company Niigataの芸術総監督の金森穣に依頼して誕生した全幕バレエ『かぐや姫』。1幕ごとに初演するというユニークな試みのもと、2021年の創作開始からあしかけ3年で全3幕が完成しました。そして今年5月、約2年半ぶりに再演されます。〈上野の森バレエホリデイ2026〉の一環で、改修工事が予定されている東京文化会館の、休館前ラストの公演でもあります。公演に先駆けて公開されたリハーサルの様子と、囲み取材で語られた内容をご紹介します。

心地よい緊張感と不思議な静けさのリハーサル
最適解を見出すための物理の実験のよう

3月上旬の夕方、東京バレエ団の大スタジオでは、金森穣と演出助手の井関佐和子、かぐや姫とその恋人の道児を踊る秋山瑛と大塚卓が、第1幕のパ・ド・ドゥをリハーサルしていた。ダイナミックなリフトを組み合わせた振付が、流れるように展開していく。金森が秋山をリフトしたり、井関が腕の位置を示したりと、金森と井関が振付の一部を実際にやってみせるため、言葉による指示は最小限。ドビュッシーの『月の光』が流れる空間は、心地よい緊張感と不思議な静けさが漂っていた。
パ・ド・ドゥ中盤、かぐや姫が飛びついて道児がキャッチする場面のこと。空中に浮いた秋山の脚が、大塚の体に巻き付くタイミングを遅らせるよう、金森が指示を出すと、秋山は脚の落下速度を自在にコントロールしながら、振付家の要望に応える。まるで秋山だけ、万有引力の法則から逃れているかのような、驚きの瞬間だった。秋山が反らした背中を大塚が片手で支える難易度の高いリフトは、慎重にバランスを調整しながら練習を重ねていた。

『かぐや姫』リハーサルより
Photo: Shoko Matsuhashi

リハーサルの後半は第2幕のパ・ド・ドゥ。音楽は同じく『月の光』だが、第1幕がピアノ版を使っているのに対し、第2幕は管弦楽版が使われる。かぐや姫のシューズもバレエシューズからポワントに代わり、二人の目線はいっそう近づく。ムーヴメントをいかに滑らかに繋げるかを追求する過程で、上げる脚や回転する方向が変わることもあり、クリエーションの現場を目撃することができた。
全体を通して、タイミングとフローの最適解を見出すための物理の実験を行っているような印象を受けた。そもそも月の引力は、地球に計り知れない影響を与えているのである。『かぐや姫』のリハーサルが物理学の要素を示すのは、偶然ではないのかもしれない。

『かぐや姫』リハーサルより
Photo: Shoko Matsuhashi

「創作という行為は、全く未知のものを創っているのに、まるで何かを予見していたかのような展開になることがあります」(金森)

約1時間の公開リハーサルに続き、金森と東京バレエ団団長斎藤友佳理が質問に答えた。

――豊富なレパートリーを持つ東京バレエ団において、本作の位置付けは?

斎藤:海外公演に行くと、日本人の振付家の作品について質問されることが度々ありました。東京バレエ団はモーリス・ベジャールの2つの全幕作品(『ザ・カブキ』『M』)をレパートリーに持っていますが、『かぐや姫』はそれに続く作品として、バレエ団の顔となってくれるのではないかと思います。私が知る限り、ドビュッシーを使った全幕バレエは本作が初めてなので、(作曲家の出身地である)フランス、そしてヨーロッパ各地で上演したいという夢があります。さらにその先に望むのは『かぐや姫』が海外のカンパニーによって演じられることです。

――全幕が完成した時の印象は?

斎藤:本当にこの作品を創ってもらってよかった、バレエ団、そしてダンサーたちにとって、絶対必要な作品になるという手応えを感じました。また(井関)佐和子さんが、私たちと(金森)穣さんとのパイプ役を果たしてくれました。改めて感謝を伝えたいと思います。

斎藤友佳理芸術監督(左)と金森穣
Photo: Shoko Matsuhashi

――前回からアップデートされた点は?

金森:初演は時間の制約がある中で大きなエネルギーを注ぎ、無から作品を生み出します。どんな作品にも共通しますが『かぐや姫』も初演を経て「ここはもっとこうしたい」というアイデアが溜まっていきました。それらをもとにブラッシュアップしています。

――ダンサーの成長や変化について

金森:最初の頃は、どこまで心を開こうか、どこまで受け止めようかと、お互い手探りでしたが、全幕が完成したところで、ようやく分かり合えたと思います。その後しばらく時間が空きましたが、過去のクリエーションを経験したダンサーは理解が深まっているので出発点が違う。前回の課題をクリアしたいという思いが感じられます。ダンサーとの関係性はより深まっていると思います。

『かぐや姫』リハーサルより
Photo: Shoko Matsuhashi

――前回帝を踊った大塚が、今回は道児を踊る。この二つの役に求めるものは?

金森:かぐや姫と影姫にも通じるものですが、道児と帝も陰陽のように一人の人物の二面性を暗示している部分があります。片方は宮廷に生まれて帝に、もう片方は村に生まれて道児に育った、そんな親和性のある二人です。帝を踊った(大塚)卓が今回道児を踊るのは自然で、卓は両方を表現できるダンサーだと期待しています。一つの役を異なるキャストが、自らの個性を生かして演じることは、物語バレエの醍醐味でもあるので、いろいろな道児や帝があっていいと思います。

――近年大きく変化している世界情勢を踏まえ、再演に影響を与えたものは?

金森:創作という行為は、全く未知のものを創っているのに、まるで何かを予見していたかのような展開になることがあります。『かぐや姫』は初演の頃から、思ってもみないかたちで社会情勢を反映することがあり、個人的にショックを覚えることもありました。あえて演出を変えようとしなくても、社会と作品が響き合っていく部分はあります。同時に、私自身が問題として感じること、訴えたいこと、共有したい疑問も、今回新たに演出に入ってくると思います。

金森穣
Photo: Shoko Matsuhashi

金森は過去に、かぐや姫は何らかの罪を贖うために、人間の世界で愛と孤独を体験する物語だと語っている。本作の制作と時を同じくして、世界各地では複数の武力侵攻が勃発しているが、人間の「業」の目撃者でもある主人公は、本公演で何を呼び起こし、どのような祈りと共鳴するのだろうか。日本最古の物語が現代と響き合う瞬間を、ぜひ劇場で体感してほしい。

取材・文:隅田 有(舞踊評論家)

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東京バレエ団×金森穣
『かぐや姫』全3幕

公演日

5月5日(火・祝) 13:00
5月5日(火・祝) 18:30 *
5月6日(水・休) 14:00

会場:東京文化会館(上野)

*音楽は特別録音の音源を使用します。

入場料[税込] ※東京公演

S=¥16,000 A=¥13,000 B=¥10,000
C=¥8,000 D=¥6,000 E=¥4,000
U25シート=¥3,000
U39シート= ¥4,000
*ペア割引[S,A,B席]あり
*ホリデイファミリーシートあり

[予定される主な配役]
かぐや姫:秋山 瑛(5/5昼、5/6)、足立 真里亜(5/5)
道児:大塚 卓(5/5昼、5/6)、 柄本 弾(5/5)
影姫:沖 香菜子(5/5昼、5/6)、 金子 仁美(5/5)
帝:池本 祥真(5/5昼、5/6)、 生方 隆之介(5/5)
翁:岡崎 隼也

*開演前にプレトークを開催します。詳しくはこちらをご確認ください。
  • 日時:5月5日(火・祝)18:30公演 開演前
  • 対象者:5月5日(火・祝)18:30公演チケット購入者
  • 登壇者:金森 穣 ほか