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Photo: Ayano Tomozawa

2026/04/01(水)Vol.539

英国ロイヤル・バレエ団2026年日本公演
現地取材:平野亮一の『ジゼル』
2026/04/01(水)
2026年04月01日号
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バレエ

Photo: Ayano Tomozawa

英国ロイヤル・バレエ団2026年日本公演
現地取材:平野亮一の『ジゼル』

桜の開花も告げられ、春らんまん気分で英国ロイヤル・バレエ団日本公演を待ち遠しく感じている日本のバレエ・ファンの皆さまに、ロンドン在住の舞踊ライター、實川絢子さんの現地取材による『ジゼル』の魅力をお届けします。実際に舞台から得た印象やインタビューから浮き彫りにされる平野亮一の『ジゼル』への視点は、彼が日本の舞台に登場する日への期待をますますふくらませます。

古典に現代を映す、平野亮一によるアルブレヒトの新解釈

今年2月、ロイヤル・バレエの『ジゼル』を観劇した際、平野亮一が演じたアルブレヒトは、さまざまな意味で衝撃的だった。約10年前、ファースト・ソリスト時代にこの役でデビューした際は、ロマンティックな貴公子としての優雅な身のこなしが印象的だったが、今回のアルブレヒトは、まったく異なる存在感を放っていた。
平野が描くアルブレヒトは、マントを翻して恋人の死を嘆く表層的な悲劇の主人公には収まらない。自らの浅はかな行いによってジゼルを失い、その喪失の重みを全身で受け止め、上に立つ者としての責任を身をもって知る――それは、『ジゼル』という作品が、アルブレヒトの成長物語として鮮やかに立ち上った瞬間だった。
インタビューで平野は、アルブレヒトという役について、個性を出しにくい他の王子役に比べて、自分なりに物語を付け加える余地のある役だと語った。アルブレヒトは本当にジゼルを愛していたのか、それとも単なる遊びだったのか。従来の二項対立的な議論を超え、平野はさらに踏み込んだ解釈を示している。
「第1幕のアルブレヒトは、まだ子どもです。自分の好きなものは与えられ、欲しいものがあれば奪うような、位の高い人物で、城での生活には刺激がなく、気晴らしに変装して外へ出る。はじめは遊びで、決して真剣ではなかった。ジゼルのために家を捨てる覚悟もないし、彼女の母が語るウィリの伝説も、どこか他人事として聞いていたはずです」
しかし、その軽率な遊びが思いがけない死を招き、伝説が現実として自らに降りかかる。「こんなことで人は死ぬのか、という衝撃――自分勝手な行動の結果としての死の重みと、自らの罪の大きさは、中身がまだ子どもであるアルブレヒトだからこそ、非常に重かったと思います」

『ジゼル』サラ・ラム(ジゼル)、平野亮一(アルブレヒト)
(英国ロイヤル・バレエ団2018年公演より)
Photo: Helen Maybanks / ROH

ジゼルが命を絶つ場面から、アルブレヒトの内面的な成長の旅が始まる。「ウィリとなったジゼルに救われたことで、自分の小ささや考えの幼さに気づき、上に立つ者としての責任を学んだのだと思います」。平野は、ジゼルの愛、そして死を、アルブレヒトにとって統治者としての分岐点となる出来事と解釈したのだ。
命の重さを知ったアルブレヒトは、その後どのような選択をするのか。「これから自分を痛めつけて生きるのか、それとも、力や財を持つ立場を自分勝手に使うのではなく、他者のために、民を思いやり守るために力を使うのか。アルブレヒトはこの気づきを通し、成長して大きな一歩を踏み出したのだと思います」。
さらに平野は、権力を持つ者がその力の使い方を誤り破滅していった昨今のニュースにも触れ、この物語が現代社会と響き合う普遍性を持つことを示唆した。

平野亮一
Photo: Ayano Tomozawa

今回の舞台でもう一つ印象的だったのは、サラ・ラムとの阿吽の呼吸によるパートナーリングだ。特に第2幕では、ジゼルがいつ着地したのか分からないほどの、シームレスで浮遊感に満ちたリフトが際立っていた。
「サラとは10年以上一緒に踊り続けてきたので、お互いの理解と信頼は人一倍です。彼女がどう見せたいのか、そのこだわりも分かっている。だからサラとなら、どんなことにもすぐ対応できると思います」
『ジゼル』では、バレエ団最年長のサラの負担をなるべく減らし、彼女が可能な限り体力を保てるよう工夫しているという。「これほど自分のことを信頼してくれているダンサーだからこそ、その信頼に応え続けたい。今も、これからも、彼女が引退するその日まで支えていきたいと思っています」。
また、「サラには少しか弱い部分があるのがとても魅力的です。だからこそ、その対比として、弱い者につけ込むアルブレヒトのあくどく自己中心的な性格が、より鮮やかに浮かび上がるんだと思います」と語り、二人の間のバランスとパートナーシップが役解釈を際立たせる点にも触れた。

『ジゼル』サラ・ラム(ジゼル)、平野亮一(アルブレヒト)
(英国ロイヤル・バレエ団2018年公演より)
Photo: Helen Maybanks / ROH

現在、平野はロイヤル・バレエスクールで教師資格取得のためのコースを受講中だ。昨夏の日本での指導経験にも触れながら、「何を、なぜ行うのかを自ら考えることが、役作りや表現につながる」と力説。その言葉からは、今回の入念に練り上げられたアルブレヒトの役作りにも通じる、〈芸術〉としてのバレエのあり方を後進に伝えていこうとする責任感がにじみ出ていた。
平野のアルブレヒトは、単なる型通りの〈王子〉像には収まらない。同時代に生きる私たちに、人間的な深みをもって迫る稀有なパフォーマンスである。こうした表層にとどまらない解釈は、ロイヤルで25年にわたり経験を積み重ねてきた42歳の平野だからこそ到達し得た境地だろう。
「先にはもっと先がある。芸術には無限の可能性があるということをお見せしたい」――そう語る平野がロンドンの地で結実させたひとつの成果が、一人でも多くの日本の観客に届くことを切に願う。

平野亮一
Photo: Ayano Tomozawa

取材・文:實川絢子(在ロンドン・舞踊ライター)

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英国ロイヤル・バレエ団 2026年日本公演
『リーズの結婚』/『ジゼル』

公演日

『リーズの結婚』

7月3日(金) 18:30
7月4日(土) 13:00
7月4日(土) 18:00
7月5日(日) 13:00
7月5日(日) 18:00

会場:川口総合文化センター リリア
    フカガワみらいホール(メインホール)

[公演日時と予定される主な配役]
7月3日(金) 18:30
リーズ:マリアネラ・ヌニェス
コーラス:ワディム・ムンタギロフ

7月4日(土) 13:00
リーズ:アナ・ローズ・オサリヴァン
コーラス:スティーヴン・マックレー

7月4日(土) 18:00
リーズ:マヤラ・マグリ
コーラス:マシュー・ボール

7月5日(日) 13:00
リーズ:高田 茜
コーラス:カルヴィン・リチャードソン

7月5日(日) 18:00
リーズ:フランチェスカ・ヘイワード
コーラス:マルセリーノ・サンベ

指揮:ホセ・サラサール
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

『リーズの結婚』入場料[税込]

S=¥29,000 A=¥26,000 B=¥23,000
C=¥18,000 U25シート=¥7,000
*親子割引[S,A,B席]あり

『ジゼル』

7月10日(金) 18:30
7月11日(土) 13:30
7月11日(土) 18:30
7月12日(日) 12:00
7月12日(日) 17:00

会場:NHKホール

[公演日時と予定される主な配役]
7月10日(金) 18:30
ジゼル:マリアネラ・ヌニェス
アルブレヒト:ウィリアム・ブレイスウェル

7月11日(土) 13:30
ジゼル:サラ・ラム
アルブレヒト:平野 亮一

7月11日(土) 18:30
ジゼル:ナターリヤ・オシポワ
アルブレヒト:リース・クラーク

7月12日(日) 12:00
ジゼル:金子 扶生
アルブレヒト:ワディム・ムンタギロフ

7月12日(日) 17:00
ジゼル:高田 茜
アルブレヒト:セザール・コラレス

指揮:マーティン・ゲオルギエフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

『ジゼル』入場料[税込]

S=¥32,000 A=¥26,000 B=¥23,000
C=¥18,000 D=¥14,000 E=¥10,000
U39シート=¥9,000 U25シート=¥7,000
*親子割引[S,A,B席]あり