来る11月、東京バレエ団が14年ぶりに上演する『オネーギン』。バレエ団初演から今回までをみると、この作品が東京バレエ団にとって格別な意味をもつことがあらためて浮かび上がります。舞踊評論家の高橋森彦さんに紹介していただきました。
ジョン・クランコ振付『オネーギン』は、プーシキンの原作による全3幕のドラマティック・バレエ。世界の主要なバレエ団がレパートリーとして踊り継いできた、クランコの代表作の一つで、東京バレエ団にとっても格別な意味を持つ作品である。
東京バレエ団と『オネーギン』の物語の始まりは、創立25周年を迎えた1989年にさかのぼる。モーリス・ベジャールは、『舞楽』『火の鳥』とジョン・ノイマイヤーの『月に寄せる七つの俳句』を踊った斎藤友佳理(現団長)の踊りを高く評価し、東京バレエ団創立者の佐々木忠次に、斎藤が『オネーギン』のタチヤーナを踊るよう勧めた。2年後の1991年、斎藤は〈世界バレエフェスティバル〉で抜粋を踊ることになり、オーケストラ付きの最終リハーサルも終えていた。しかし、全幕を踊ったことのない踊り手が一部を踊ることは著作権の関係上許可が下りず、本番で踊ることはかなわなかった。
それから19年後の2010年5月、東京バレエ団は全幕を初演することになった。上演に際しては、著作権を管理するジョン・クランコ財団が定めるトライアウトが行われ、斎藤も参加。タチヤーナ役に配役された。本番では、オネーギン役の木村和夫と共演した。都会から来た青年に淡い恋を抱く少女から、やがて公爵夫人となり、かつて恋したオネーギンの求婚を毅然と拒むまでを、鮮烈に踊り演じた。その舞台は観客に大きな感動をもたらし、メディアからも称賛を浴びた。初演では3組が主演を務め、吉岡美佳と高岸直樹、田中結子と後藤晴雄も、それぞれタチヤーナ、オネーギンを踊った。東京バレエ団にとっても歴史的な公演となった。
2012年9月~10月に再演。斎藤は初演に続き木村と組んでタチヤーナを踊った。複雑なリフトでも呼吸は緊密に合い、踊りと感情がより豊かに感じられた。もう一組、吉岡の主演回には、クランコゆかりのシュツットガルト・バレエ団からオネーギン役にエヴァン・マッキー、レンスキー役にアレクサンドル・ザイツェフを招き、こちらも注目を集めた。公演最終日、神奈川県民ホール公演をもって、斎藤は現役に別れを告げた。
2015年、斎藤は東京バレエ団の芸術監督に就任した。2016年にはブルメイステル版『白鳥の湖』、2019年には斎藤版『くるみ割り人形』、2023年には同『眠れる森の美女』を手がけ、チャイコフスキー三大バレエを新制作。さらに近現代の優れた作品も導入し、新世代のダンサーたちを育ててきた。こうして踊り手の層が着実に厚くなるなか、その先に見据えていたのが、ふたたび『オネーギン』を舞台に戻すことだった。自らが踊ってきた『オネーギン』の深いドラマ性を、次世代へとつなぎたい――。それこそが、斎藤が芸術監督として歩んできた道の先に掲げていた、大きな目標だった。
その思いが、2026年11月、ついに実現する。14年という月日は、新たな世代のダンサーたちが経験を重ねるために必要な時間だったといえるだろう。今こそ挑むにふさわしい、まさに「旬」(斎藤)の時を迎えた。2022年、2024年にはクランコ振付『ロミオとジュリエット』を上演し、クランコ作品への理解を深めてきたことも、このたびの『オネーギン』へとつながっている。
今回は、舞台美術・衣裳にミラノ・スカラ座のプロダクションを使用。新たな装いで登場する『オネーギン』は、これまでとは異なる雰囲気を見せるに違いない。東京文化会館の休館に伴い、新国立劇場オペラパレスで上演されることも、新鮮な印象をもたらすだろう。長年、斎藤が思い続け、育ててきた『オネーギン』が、いま新世代のダンサーたちによって、どのように舞台に立ち上がるのか。劇場で見届けたい。
取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)
11月6日(金) 19:00
11月7日(土) 13:00
11月7日(土) 18:30
11月8日(日) 13:00
指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
会場:新国立劇場 オペラパレス
S=¥18,000 A=¥14,000 B=¥11,000 C=¥8,000
D=¥6,000 U35シート=¥4,000
*ペア割引[S,A席]あり
*親子割引[S,A席]あり
[予定される主な配役]
オネーギン:柄本 弾(11/6、11/7夜)、宮川 新大(11/7昼、11/8)
タチヤーナ:沖 香菜子(11/6、11/7夜)、秋山 瑛(11/7昼 、11/8)
レンスキー:大塚 卓(11/6)、池本 祥真(11/7昼、11/8)、生方 隆之介(11/7夜)
オリガ:工 桃子(11/6)、足立 真里亜(11/7昼、11/8)、中島 映理子(11/7夜)
グレーミン公爵:安村 圭太(11/6、11/7夜)、樋口 祐輝(11/7昼、 11/8)