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Photo: Kiyonori Hasegawa

NEW2026/10/21(水)Vol.552

演奏会形式オペラ『ノルマ』
演奏会形式の魅力
2026/10/21(水)
2026年10月21日号
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オペラ

Photo: Kiyonori Hasegawa

演奏会形式オペラ『ノルマ』
演奏会形式の魅力

東京文化会館の改修休館により、首都圏でのオペラの上演機会が制限されるなか、オペラ・ファンにとって、世界のトップ歌手を迎える2027年6月の演奏会形式『ノルマ』は待ち遠しい開催といえるでしょう。ただ、演奏会形式? 舞台がないのは...... と思うなかれ。演奏会形式オペラの魅力について、音楽評論家の室田尚子さんにひもといていだだきました。

オペラは、音楽がドラマを描いていくもの

オペラが「総合芸術」といわれるのは、ドラマがあり、音楽がそれを描き、舞台で上演するという、「文学」「音楽」「美術」という芸術ジャンルがすべて含まれているからだ。劇場に足を運んでオペラの舞台を鑑賞する経験は、例えばオーケストラの演奏会とはまったく違うものといえる。また、最近では世界中の舞台の動画が当たり前に見られるようになっているので、「初めてのオペラ鑑賞はYouTube」という人も少なくないかもしれない。いずれにしても、オペラとは「観るもの」という感覚は、多くの人にとってごく当たり前のものとなっているだろう。しかし、数十年前を振り返ってみると、オペラに最初に触れるのがラジオかレコードという時代は確かにあった。私たちはまず、耳からオペラを知っていたのである(だからこそ、初めて舞台に接した時の感動は、またひとしおだったのだが)。

反論を恐れずにいうならば、オペラは第一義的に「音楽」である。よく、オペラとミュージカルの違いはなんですか、という質問を受けるのだが、私はいつもこう答えることにしている。

「オペラは、音楽がドラマを描いていくものです」

晴れ渡った青空、光り輝く木々、咲き誇る薔薇の花...... そうしたものが実際には目の前になくても、オーケストラが奏でられる時、確かにそこにそれらが現れる。恋をした心が歌われる時、その喜びや不安を感じるのは、言葉があるからではない。声そのものが恋の喜びを描いているのだ。逆にいえば、そのような演奏でなければ、いくら豪華な舞台装置や衣裳で着飾っていても、「オペラを観た」という満足感は得られない。音楽が描き出すドラマ。それこそがオペラだ。

舞台装置や衣裳、演出のない「演奏会形式」のオペラ上演は、そのことをもっともよく私たちに教えてくれるスタイルである。ひと口に「演奏会形式」といっても、まったく動きのないものから、アクティングエリアのようなものが設けられているものまで様々な方法があるが、共通しているのは、音楽を隅々まで存分に堪能できるということだ。特に、劇場ではピットの中に入っているオーケストラが舞台上にいることで、単なる「歌の伴奏」ではない、オーケストラ自体の表現というものをつぶさに聴くことができるのは、演奏会形式の醍醐味のひとつである。作曲家によっては驚くほど細やかなオーケストレーションが施されている作品があり、それを改めて知ることができるのも、このスタイルの強みだ。また、演技がないか、あっても最小限に抑えられていることで、歌唱自体の力がよりダイレクトに伝わってくるのもいい。劇場ではどうしても視覚に多くの情報を頼ってしまいがちだが、演奏会形式では耳がより鋭敏に様々なことを聴きとることができる。一言でいえば「歌の力」を目一杯浴びることができるのである。

今回上演されるベッリーニの『ノルマ』は、ベルカント・オペラの名作として知られるが、他のベッリーニの作品と比べても特に「声」の扱いに特徴のある作品だ。初演でタイトルロールのノルマを歌ったジュディッタ・パスタは非常に広い音域を持ち、特に中低音が充実していたと伝えられる。「ベルカント」の名にふさわしい旋律美を保ちつつ、ドラマティックな表現も求められる難役だ。相手役のポリオーネもハイCは出てくるものの、ベルカントにつきもののアジリタはなく、太くドラマティックな声で歌われる役で、史上初の「テノール・ロブスト(英雄的テノール)」といわれている。今回の公演でノルマを歌うのは、今、世界中から注目を集めるソプラノのアスミク・グリゴリアン。2025年にアン・デア・ウィーン劇場でロール・デビューを果たして絶賛された。ポリオーネを歌うディミトリー・ポポフも、力強さと甘美さを兼ね備えた歌声で期待のテノール。そして、アダルジーザは、2026年5月にバイエルン国立歌劇場で奇跡の代役劇を演じてみせたシャノン・キーガンが、正式なロール・デビューを果たす。指揮は、アン・デア・ウィーン劇場の『ノルマ』を指揮したフランチェスコ・ランツィロッタ。東京フィルハーモニー交響楽団と二期会合唱団がどう応えるのかも楽しみなところだ。

音楽が描き出すドラマを耳で味わう、演奏会形式のオペラ『ノルマ』。世界的スターを得て、2027年6月、東京にやって来る。

文・室田尚子(音楽評論家)

公演概要
演奏会形式『ノルマ』

【予定される公演日程】
2027年
6月23日(水)、6月26日(土)
*開演時間調整中
会場:都内
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:東京二期会

【予定される出演者】
ノルマ:アスミク・グリゴリアン
ポリオーネ:ディミトリー・ポポフ
アダルジーザ:シャノン・キーガン
オロヴェーゾ:ドナート・ディ・ステファノ

指揮:フランチェスコ・ランツィロッタ