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Photo: Kiyonori Hasegawa

NEW2026/11/04(水)Vol.553

演奏会形式オペラ『ノルマ』
音楽とベッリーニが生んだ魅力
2026/11/04(水)
2026年11月04日号
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オペラ

Photo: Kiyonori Hasegawa

演奏会形式オペラ『ノルマ』
音楽とベッリーニが生んだ魅力

2027年6月の演奏会形式『ノルマ』にむかって、今回は作品の魅力に焦点を当てて考察します。音楽評論家の奥田佳道さんに、『ノルマ』というオペラそのものの解説に加え、この作品が遺したエピソード、そして今回の公演への期待など、幅広くご紹介いただきました。

オペラ好きには「理想のノルマ」「私のノルマ」がある

古典的な、しかし今なおほほ緩むフレーズを思いつくまま書かせていただく。クライバーの『ばらの騎士』、ジョルジュ・ドンの『ボレロ』、ゼッフィレッリの『アイーダ』『ボエーム』。歴史的な歌い手、ご贔屓のアーティスト、バレエダンサーとあの演目......。声高に申すまでもなく、歌舞伎、落語界にもたくさんのキャッチがある。

いま、ソプラノならば、2018年のザルツブルク音楽祭で『サロメ』を歌い演じ「ザルツブルクの女王」となり、今年(2026年)の同音楽祭での『カルメン』デビューも賞賛を博したアスミク・グリゴリアンだ。旅の思い出で恐縮だが、筆者も近年彼女の『トゥーランドット』、バルトークの『青ひげ公の城』とツェムリンスキーの『フィレンツェの悲劇』をウィーン国立歌劇場で体感。作品や役柄にふさわしい歌のラインを創る技、決してあざとくない立ち居振る舞い、共演者と相乗効果を上げる圧巻の存在感を味わった。図らずもチケットの争奪戦にも参加したわけだが。

青ひげ公の城

『青ひげ公の城』(ウィーン国立歌劇場2026年公演)
Dmitry Golovnin (Guido Bardi), Asmik Grigorian (Bianca), Christopher Maltman (Simone) © Wiener Staatsoper / Marcel Urlaub

グリゴリアンはウィーン国立歌劇場で最も愛されている歌い手のひとりで、と記すと、ミラノ・スカラ座、ニューヨークのメトロポリタン・オペラ、ロンドンの英国ロイヤル・オペラ、ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場、あるいはバイロイト音楽祭の関係者やファンから「劇場名が間違っていませんか、うちでしょう」とお叱りを受けそうだが、そんなディーヴァのなかのディーヴァが、東京でついに『ノルマ』を歌うことになった、となれば、開演前から興奮してしまっても許されるのではないか。

20世紀半ばのオペラ上演史、録音史のキャッチのひとつに「マリア・カラスのノルマ」があった。「カラスの清らかな女神よ」でも構わない。いや、あるいは歌い手のところに「サザーランド、カヴァリエ、レナータ・スコット」を入れたい練達のファンもおいでだろう。21世紀に入ってからはグルベローヴァ、バルトリ、ヨンチェヴァもそれぞれの流儀を駆使して歌い、その都度ファンは盛り上がった。

ノルマ

マリア・カラス主演『ノルマ』LP(ミラノ・スカラ座1960年収録)

ノルマ

エディタ・グルベローヴァ主演『ノルマ』DVD(バイエルン国立歌劇場 2006年収録)

ノルマ

ソーニャ・ヨンチェヴァ主演『ノルマ』DVD/Blu-ray(英国ロイヤル・オペラ 2016年収録)

要は熱心なオペラ好きみんなに「理想のノルマ」「私のノルマ」があるわけだが、今「ノルマ」といえば、2025年2月にアン・デア・ウィーン劇場(2022年から正式名称 MusikTheater an der Wien)で満を持してこの役を歌ったグリゴリアンだ。さあ、今をときめく「グリゴリアンのノルマ」が東京のステージで実現する。
その前に。

ショパン、リスト、ワーグナーをも魅了したオペラ『ノルマ』

1831年にミラノ・スカラ座で初演されたベッリーニのオペラ『ノルマ』は、ベルカント・オペラ(美しい歌唱法によるオペラ)の最高傑作であり、前述のように時代時代のディーヴァ(歌姫)が渾身の舞台を披露、録音を遺してきた。

オペラが描くのは、支配者のローマ人代官ポリオーネ(テノール)と、被支配部族の巫女(みこ)ノルマの禁断の愛。ポリオーネは、子供までもうけた巫女の長ノルマを捨て、若い巫女アダルジーザ(メゾソプラノ)に走る――。

というわけで、禁断の愛「以上」に、若い巫女アダルジーザとの三角関係がオペラの主軸で、それゆえに悩み、内に外に烈しく揺れ動くノルマの心情が見どころ、聴きどころとなる。

ヴィンチェンツォ・ベッリーニは1801年11月、イタリア、シチリア島のカターニャに生れた。ナポリで学び、10代の頃から宗教音楽や交響曲、協奏曲などを書く。ほどなくサン・カルロ劇場などの支配人でロッシーニとのコラボレーションでも音楽史に名を刻むドメニコ・バルバイアに見いだされ、劇場街、貴族のサロンの寵児となる。一言で申せば、ロッシーニに続くオペラ作曲家として歩み始める。

そのオペラ創作に寄り添ったのが、ベッリーニの主要オペラの台本を手がけたフェリーチェ・ロマーニ。イタリア・オペラ史に燦然と輝く台本作家である。ベッリーニは1835年9月、拠点としていたパリ近郊で33歳の若さで召されるが、ロマーニとの出逢いもあり、『カプレーティとモンテッキ』(1830年ヴェネツィア、フェニーチェ座初演)、『夢遊病の女』(1831年ミラノ、カルカーノ劇場)、『ノルマ』(1831年ミラノ・スカラ座)、『清教徒』(1835年パリ、イタリア劇場)を紡ぐ。悲劇を際立たせる流麗な旋律美、狂乱の場がベッリーニ・オペラの代名詞となる。

以上のような解説はたいていの本やネットに掲載されているが、小生が最も愛する史実は、鍵盤の詩人ショパン(1810~1849)と鍵盤の鬼才リスト(1811~1886)のベッリーニ好き。ワルシャワにいた頃からイタリア・オペラに魅了されていたショパンは、パリでベッリーニと親しく交友。ショパンのテンポ感、ルバート、装飾音とベッリーニのベルカント唱法の関連を論じたエッセイや論文も枚挙にいとまがない。ショパンが友人や弟子に語ったとされる言葉「ベッリーニのオペラを聴きなさい」も有名だ。

いっぽうリストはリストで、ベッリーニのオペラ主題に基づくトランスクリプション(編曲)やパラフレーズ(再構成)をいくつも書く。リストはベートーヴェン、シューベルト、ワーグナー、ヴェルディも好きで素敵なピアノ曲がたくさんあるが、ベッリーニを忘れてはいけない。

そしてもうひとり。何かとイタリア・オペラに批判的だったワーグナー(1813~1883)が『ノルマ』だけは高く評価していたことを思い出す。『ノルマ』は、烈しくも美しいロマンティック・オペラの世界を予告していたのだ。

演奏会形式でも映える『ノルマ』の見せ場、魅せ場

オペラ『ノルマ』に戻せば、舞台はローマ帝国支配下のガリア地方。支配を受けているドルイッド族(ドルイド教)のリーダー、オロヴェーゾが部族の解放を唱えるところから始まる。オロヴェーゾはノルマの父親である。

支配者ポリオーネが仲間と現れ、この頃は巫女の長ノルマではなく、若い巫女アダルジーザに夢中だ、と話す。ノルマが現れ、あのアリア「清き女神」を歌う。ノルマは、アダルジーザからローマ人代官との恋の悩みを打ち明けられる。その相手がポリオーネであることを知り、驚くノルマ。

ノルマは、ポリオーネとの間にもうけた二人の子どもを道連れにして自分も死のうとするが、そんなことはできない。ノルマはローマ人との闘いを宣言する。

ローマの代官ポリオーネは捕らえられた。しかしノルマは彼を殺すことができない。彼女はポリオーネに、アダルジーザを諦めるようにと諭す。しかしポリオーネは受け入れない。

絶望したノルマは、掟(おきて)に背いたことを皆に告白。子どもを父親に預けて、自ら死を選ぶ。その姿を見たローマの代官ポリオーネも火刑台に身を投じる──。

神に祈るアリア、劇的な二重唱といった歌ばかりでなく、オーケストラとコーラスに見せ場、魅せ場が多いベッリーニの『ノルマ』は、コンサート形式で映える。もちろん指揮者、オーケストラ、コーラスに人を得た場合だ。

フランチェスコ・ランツィロッタ

フランチェスコ・ランツィロッタ

2027年6月、東京で初めて『ノルマ』を歌うグリゴリアンらを高みに導く指揮者の名前にも胸ときめく。新時代のイタリア・オペラを牽引するマエストロ、フランチェスコ・ランツィロッタ。2025年2月、アン・デア・ウィーン劇場で「グリゴリアン初のノルマ」を指揮したのが誰あろうランツィロッタなのだ。父はチェリスト(ローマのRAI交響楽団)。チェロ、ピアノ、そして作曲をよくしてから指揮に進んだランツィロッタは、ベルカント・オペラにおけるオーケストラの重要性をしばしば口にする。東京フィルハーモニー交響楽団との交歓が待ち遠しい。

文:奥田佳道(音楽評論家)

公演概要
演奏会形式『ノルマ』

【予定される公演日程】
2027年
6月23日(水)、6月26日(土)
*開演時間調整中
会場:都内
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:東京二期会

【予定される出演者】
ノルマ:アスミク・グリゴリアン
ポリオーネ:ディミトリー・ポポフ
アダルジーザ:シャノン・キーガン
オロヴェーゾ:ドナート・ディ・ステファノ

指揮:フランチェスコ・ランツィロッタ