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『眠れる森の美女』 Photo: Tristram Kenton / BRB <br>『シンデレラ』 Photo: Bill Cooper / BRB

2025/03/05(水)Vol.513

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団2025年日本公演
おとぎ話が題材の2作品、魅力のポイント
2025/03/05(水)
2025年03月05日号
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バレエ

『眠れる森の美女』 Photo: Tristram Kenton / BRB
『シンデレラ』 Photo: Bill Cooper / BRB

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団2025年日本公演
おとぎ話が題材の2作品、魅力のポイント

2018年以来7年ぶりとなる英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の来日! 今回上演される2作品『眠れる森の美女』と『シンデレラ』は、いずれもよく知られたおとぎ話を題材としています。それぞれの魅力をロンドン在住の舞踊ライター實川絢子さんに紹介してもらいました。

BRBの財産というべき『眠れる森の美女』

ピーター・ライトは、1975年から1995年までの20年間バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB/旧サドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団)の芸術監督を務めた、英国で最も尊敬される古典バレエの演出家の一人。そんなライトによる『眠れる森の美女』は、1984年の初演以来、BRBにおいて40年以上にわたって上演されている、同団の財産ともいうべき重要なレパートリーである。ライト版の演出は、マリウス・プティパによる伝統を尊重しつつも、英国らしい明確でドラマティックな物語展開、洗練された振付と深みのある心理描写で観客を魅了する。

1. プティパの伝統をアップデートした洗練された振付

振付においては、1890年に帝政ロシアのマリインスキー劇場で初演されたプティパ振付の『眠れる森の美女』を基盤としつつ、チェケッティ・メソッドに基づいた無駄のないラインが特徴の品格あるスタイルを取り入れた。プロローグの妖精の踊りを見ると、洗練された技巧が反映され、プティパの振付が20世紀的な感覚で巧みにアップデートされていることがわかる。

2. 丁寧に描かれるオーロラの成長物語

また、ライトはオーロラの成長を3つの段階に分けて丁寧に描写。第1幕の誕生日の場面では、未来への希望に満ちた無垢な16歳の少女を、第2幕では王子の夢の中に幻影として現れる崇高な女神のような存在を、そして第3幕では結婚式での堂々たる貴婦人の姿を見事に表現し、オーロラという一人の女性の成長物語が鮮やかに描き出される。

アリーナ・コジョカル演じるオーロラ姫(BRB2018年日本公演より)
Photo: Kiyonori Hasegawa

3. マイムで演じられるリラの精

また、物語の進行の鍵となるリラの精とカラボスの対比も特徴的。多くの版においてリラの精は踊る場面の多い役だが、ライト版では原典同様マイムのみの威厳にあふれるキャラクター・ロールとなっており、カリスマあふれるカラボスとの対立がドラマに深みを与えている。

トーリ・フォーサイス=ヘッケン演じるリラの精
Photo: Tristram Kenton / BRB

4. フィリップ・プラウズによる格調高い舞台美術

フィリップ・プラウズが手がけた美術と衣裳は、アーシーな色調を基調としたデザインが魅力。贅沢に使用されたレースやドレープ、陰影を強調する照明が観客を幻想的なおとぎ話の世界へ誘う。
クラシックバレエの伝統美を保ちつつ、心理的な深みと視覚的な豪華さを兼ね備えたライト版の『眠れる森の美女』。BRBのダンサーたちが体現する究極のロイヤル・スタイルに酔いしれることができるだろう。

Photo: Tristram Kenton / BRB

"生身のキャラクター"にこだわった『シンデレラ』

BRBの前芸術監督であり、ライトやアシュトンら英国バレエの伝統を引き継ぐ振付家、デヴィッド・ビントリー。ビントリー版『シンデレラ』は、「現代の観客が共感できる生身のキャラクター」にこだわって誕生した、独創的な解釈が魅力のバレエ作品である。

1. 母親への愛の象徴である靴

『シンデレラ』といえば、ガラスの靴が有名であるが、ビントリー版における靴は単なる小道具ではなく、物語の鍵として登場する。裸足でボロボロの服を着た第1幕のシンデレラは、唯一の宝物である母の形見の靴を貧しい老婆に差し出し、この美しい行為こそが、物語を動かす魔法を引き起こす。老婆の正体はシンデレラの亡き母親の精霊。終幕、シンデレラが王子に再会する場面でその靴が再登場し、母親への愛と王子への愛が交わる瞬間が描かれる。

平田桃子演じるシンデレラ
Photo: Bill Cooper / BRB

2. シンデレラの夢を具現化するジョン・マクファーレンの舞台美術

ビントリー版『シンデレラ』において、舞台美術はダンスと同等に重要な要素。舞台美術家ジョン・マクファーレンによる壮麗な舞台美術は、シンデレラのマジカルな「変身」を見事に具現化する。シンデレラが閉じ込められていた台所という現実的な空間から、魔法によって美しく変身し、星空の下の幻想的な舞踏会に向かう場面は圧巻。観客は、シンデレラと一緒に、彼女の見たひとときの夢を目撃することになる。

Photo: Bill Cooper / BRB

3. 音楽性豊かなビントリーの振付

ビントリーは、音楽に対する鋭い感性で知られる振付家。シンデレラが変身する場面では、星の精たちによる群舞が、音楽に合わせてまるで魔法の粉が舞い上がるかのように展開。また、シンデレラと王子のパ・ド・ドゥでは、音楽の盛り上がりに合わせて、難易度の高いリフトやパートナリングが織り交ぜられ、視覚的に美しいだけでなく、それぞれのキャラクターの感情の昂まりを余すことなく伝える。

Photo: Bill Cooper / BRB

4. 生身のシンデレラ像と真のハッピーエンディング

ビントリー版の最大の特徴は、登場人物がリアルな生身の人間として描かれている点。3幕での王子との再会後、シンデレラがすぐにプリンセスとして変身せず、裸足のみすぼらしい姿のままで王子と踊るというシーンは、彼女の内面の美しさを強調するもの。形式的な結婚式ではなく、心温まる抽象的なハッピーエンドとして描かれるこのシーンは、観客に深い感動を与える。
おとぎ話の要素はそのままに、現代の観客が共感できる新しい視点を提供するビントリー版『シンデレラ』。壮大なスケールの舞台美術とともに、総合芸術としてのバレエの醍醐味を存分に味わえることだろう。

實川絢子(在ロンドン、舞踊ライター)

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英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団2025年日本公演
『眠れる森の美女』/『シンデレラ』

公演日

『眠れる森の美女』

6月20日(金) 18:30
6月21日(土) 14:00
6月22日(日) 14:00

[予定される主な出演者]
オーロラ姫:アリーナ・コジョカル[ゲスト・アーティスト](6/20 ,6/22)、 栗原ゆう(6/21)
王子:マチアス・ディングマン(6/20, 6/22)、ラクラン・モナハン(6/21)

会場:東京文化会館(上野)

指揮:ギャヴィン・サザーランド
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

『シンデレラ』

6月27日(金) 19:00
6月28日(土) 14:00
6月29日(日) 14:00

[予定される主な出演者]
シンデレラ:平田桃子(6/27,6/29)、 ベアトリス・パルマ(6/28)
王子:ウィリアム・ブレイスウェル[ゲスト・アーティスト](6/27,6/29)、マックス・マズレン(6/28)

会場:東京文化会館(上野)
上演時間:約2時間30分(休憩2回含む)

指揮:ポール・マーフィー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

入場料[税込]

―平日料金
S=¥26,000 A=¥23,000 B=¥20,000
C=¥17,000 D=¥14,000 E=¥10,000
U25シート=¥5,000


【堺公演】

『眠れる森の美女』

7月2日(水) 18:30

会場:フェニーチェ堺 大ホール

オーロラ姫:セリーヌ・ギッテンス
王子:ヤシエル・ホデリン・ベロ

演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団

■入場料[税込]
プラチナ=¥24,000 S=¥22,000 A=¥18,500 B=¥15,000 C=¥9,000

【名古屋公演】

『眠れる森の美女』

7月5日(土) 14:00

会場:愛知県芸術劇場 大ホール

オーロラ姫:セリーヌ・ギッテンス
王子:ヤシエル・ホデリン・ベロ

演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団

■入場料[税込]
S=¥22,000 A=¥19,000 B=¥15,000 C=¥10,000 D=¥7,000 U25シート=¥5,000