NEW2025/05/07(水)Vol.517
2025/05/07(水) | |
2025年05月07日号 | |
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バレエ英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 |
Photo: Johan Persson
いよいよ来月に迫った英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団日本公演。ロンドン在住の舞踊ライター、實川絢子さんの現地取材によるインタビュー・シリーズ3回目は芸術監督のカルロス・アコスタです。
「カンパニーは今、非常に良い状態にあります。」そう語るのは、2020年1月にバーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)の芸術監督に就任したカルロス・アコスタ。就任早々コロナ禍という予期せぬ状況に直面しながらも、カンパニーを着実に進化させてきた彼に、監督として初の日本公演を前に話を訊いた。
「監督就任後初のシーズンを急遽オンラインに切り替えなければなりませんでしたが、当時BRBにはストリーミングの設備すらなく、まずはその基盤づくりから取り掛かりました」とアコスタは振り返る。公演の中止やスケジュールの白紙化という前例のない事態に直面する中で、「アーティストとしての私たちの使命は、いかに観客のモチベーションを高め、繋がりを維持するかということでした。劇場が閉鎖されると知り、公園や美術館、ジムなど、どんな場所でも上演可能なレパートリーを急遽考案しました。私たちは前に進み続けるしかありませんでした。そして何よりも、彼らの安全を守ることが最優先でした」。
この未曾有の危機を乗り越えたことで、カンパニーはまるで家族のような絆をより一層深めた。同時にアコスタは〈新生BRB〉の構築に向け、大胆な変革を進めていく。
アコスタが掲げた変革のビジョンは明快だった。「私が目指したのは、〈卓越した技術を持つダンサー〉(virtuoso)が集うカンパニーを作ることでした。それは、単にクラシック・バレエの技術に秀でているだけではなく、クラシックからコンテンポラリー、時には床を転がるような動きまで、一つの技法から別の技法へとシームレスに移行できるハイブリッドなダンサーを意味します」。
こうした21世紀的な〈virtuoso〉としてダンサーを強化すべく、アコスタは振付家の選定にも徹底的にこだわり、レパートリーもこれまでにない進化を遂げた。「着任当初は、ダンサーたちの中にはラディカルなコンテンポラリーの動きに慣れていない者も多くいました。ですが、新たに取り入れたレパートリーを通じて、少しずつコンテンポラリーにおけるバランス感覚を身に付け、今では床を転がったり、背骨を丸めたり、引き上げられた身体やエレガンスとは対照的なポジションをとることも〈異質〉なことではなくなりました」。
新たなレパートリーの中でも特に話題となったのが、2023年秋に初演された『ブラック・サバス―ザ・バレエ』。バーミンガム出身の伝説的ヘヴィメタル・バンド、ブラック・サバスをテーマに、ラウル・レイノソ、カッシ・アブランチェス、ポントゥス・リドベリという3人の新進振付家を起用した全3幕の作品は、これまでのクラシック・バレエの枠を大きく超える試みだった。
アコスタは力強く宣言する。「私が目指すのは、現代のカンパニーであり続けることです。クラシック・バレエの遺産を守る一方で、今日そして未来に向けて語りかける芸術的な表現を舞台上で生み出す、そのバランスを取ることが重要だと考えています」。
今回の日本公演でBRBが上演する2作品は、まさにアコスタ体制下で一人ひとりが〈virtuoso〉として進化を遂げたカンパニーの層の厚さを存分に堪能できる、同団の十八番とも言えるクラシック・バレエ作品である。
まず、ピーター・ライト版『眠れる森の美女』は、BRBの前身であるサドラーズ・ウェルズ・バレエ団の時代から40年以上にわたって上演されてきた、「カンパニーにとって宝物のような作品」。「この作品は、私たちのレパートリーの中でも最も伝統的なクラシック・バレエ作品ですが、ライト版はまさに唯一無二の『眠れる森の美女』です。舞台美術も、まるで宮殿の中に入り込んだような美しさ。技術的にも非常にチャレンジングなレパートリーですが、カンパニーのダンサーたちの成長を促す最高のトレーニングの機会にもなります」。
また『シンデレラ』(2010年初演)は、BRB前芸術監督デヴィッド・ビントリーによる人気作。「この作品もまた、唯一無二の『シンデレラ』です。特筆すべきは、ジョン・マクファーレンによる、豪華でスケールの大きな舞台美術。舞台上に生き生きとしたリアリズムを作り出し、観る者はまるで作品の中に入り込んでしまったような錯覚に陥るほど。目の前でマジカルな変化が起こり、物語の世界へと誘います」。
また、徹底的な実力主義を採用しているというアコスタ。今回の主演ダンサーたちへの信頼も厚い。「私は常に、最高のダンサー、最高の動きと演技ができる、最高のテクニシャン/アクターを求めています。入団したばかりのダンサーであっても、実力さえあれば、主役を踊るまでに5年も待たせるようなことはしません」。また、カンパニーの多様化を推進するため世界各地からダンサーを迎えており、「中でも、平田桃子、栗原ゆう、水谷実喜、伊藤陸久、淵上礼奈、杉浦優妃の日本出身ダンサーたちのカンパニーへの影響力は絶大です」と絶賛する。
「ダンサーとして何度も訪れてきた日本に、今回初めて芸術監督として再来日しますが、日本のバレエファンの皆さまに、今のBRBの姿を披露できるのを楽しみにしています」と語るアコスタ。BRBが誇る伝統のレパートリーを通じ、進化を遂げたカンパニーの〈今〉が感じられる舞台となることだろう。
實川絢子(在ロンドン、舞踊ライター)
6月20日(金) 18:30
6月21日(土) 14:00
6月22日(日) 14:00
[予定される主な出演者]
オーロラ姫:アリーナ・コジョカル[ゲスト・アーティスト](6/20, 6/22)、 栗原ゆう(6/21)
王子:マチアス・ディングマン(6/20, 6/22)、ラクラン・モナハン(6/21)
会場:東京文化会館(上野)
指揮:ギャヴィン・サザーランド
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
6月27日(金) 19:00
6月28日(土) 14:00
6月29日(日) 14:00
[予定される主な出演者]
シンデレラ:平田桃子(6/27, 6/29)、 ベアトリス・パルマ(6/28)
王子:ウィリアム・ブレイスウェル[ゲスト・アーティスト](6/27, 6/29)、マックス・マズレン(6/28)
会場:東京文化会館(上野)
指揮:ポール・マーフィー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
―平日料金
S=¥26,000 A=¥23,000 B=¥20,000
C=¥17,000 D=¥14,000 E=¥10,000
U25シート=¥5,000
【堺公演】
7月2日(水) 18:30
会場:フェニーチェ堺 大ホール
オーロラ姫:セリーヌ・ギッテンス
王子:ヤシエル・ホデリン・ベロ
演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■入場料[税込]
S=¥22,000 A=¥18,500 B=¥15,000 C=¥9,000
【名古屋公演】
7月5日(土) 14:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
オーロラ姫:セリーヌ・ギッテンス
王子:ヤシエル・ホデリン・ベロ
演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■入場料[税込]
S=¥22,000 A=¥19,000 B=¥15,000 C=¥10,000 D=¥7,000 U25シート=¥5,000