2025/06/04(水)Vol.519
2025/06/04(水) | |
2025年06月04日号 | |
TOPニュース バレエ |
|
バレエ英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 |
Photo: Johan Persson
開幕目前となった英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団日本公演。ロンドン在住の舞踊ライター、實川絢子さんの現地取材によるインタビュー・シリーズ最終回はイタリア出身のプリンシパル、ベアトリス・パルマです。
2024年に英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)のプリンシパルに昇進した注目のイタリア出身ダンサー、ベアトリス・パルマ。BRBの日本公演で『シンデレラ』のタイトルロールを演じるパルマに、作品や日本公演への意気込み、彼女のダンサーとしてのこれまでの歩みについて話を訊いた。
「デヴィッド(・ビントリー)の振付は本当に天才的なんです。シンデレラの成長物語としてのハートフルな場面もあれば、義姉と義母とのコミカルな場面もあり、1つのバレエの中にさまざまな芸術性が盛り込まれています。ジョン・マクファーレンの舞台美術と衣裳がまた素晴らしくて、目を奪われます」とパルマは語る。
第1幕では、生々しいじめなど、シンデレラの悲惨な境遇が描かれる。「かなりダークで残酷ですが、観客にシンデレラの感情に共感してもらい、舞踏会のシーンでの彼女の変化を一層際立たせるためには不可欠な要素です。でも、そんな苦しい状況にあっても、一人でいる時に〈もし自分に違う人生があるとしたら?〉と想像する場面があって、そこで彼女の内面の美しさと優雅さを表現したいと思っています。たとえ今物事がうまくいっていなくても、いつかきっと未来が開ける、と自分を信じる強さが彼女にはあります」。
第2幕の舞踏会でのシンデレラの登場シーンは、パルマのお気に入りの一つだ。「皆の視線が階段の上のシンデレラに集中し、照明が明るくなるにつれて、キラキラと輝くシンデレラが階段を下りていく素敵なシーンです」。
もう一つのお気に入りのシーンは、第3幕最後の場面転換のシーン。「シンデレラの足に靴がピッタリ合うと、背景のキッチンが消え、スモークと星が出て、現実からおとぎ話の世界へと移っていきます。最後に夕日の中を歩いていくエンディングも、まさに〈ハッピーエンド〉そのもの。本当に魔法のような瞬間です」。
日本公演で共演するマックス・マスレンとは、昨夏婚約したばかり。「実はこれまで二人で踊る機会はあまりなかったので、日本で一緒にこの作品を踊ることは、二人の一生の思い出になると思います。王子役は形式的になりがちですが、彼はとても人間的でリアルな表現をするので、観客の皆さんも感情移入がしやすいのではないかと思います」。
2024年はプリンシパル昇進、私生活での婚約と人生における大きな出来事が相次ぎ、幸せいっぱいという様子のパルマだが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかったという。「実は私は、身長が低かったために、ミラノ・スカラ座バレエ学校を最終学年で退学になってしまったんです。フランス式の教育を受けたので、そこに英国式の教育が加われば強みになるだろうと思ってイングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールに移りましたが、卒業を前にオーディションを沢山受けて、そこでも苦労しました。バーレッスンの段階で身長で落とされてしまい、センターでの踊りを見てもらうことすらできず、本当に辛かったですね。でも私は、バレエが大好きだったので、いつか必ず道が開けると信じ続けました。それは、シンデレラにも重なる部分かもしれません。最初の仕事は、ちょうど小柄なダンサーを探していたトルコの小さなバレエ団で、そこで3年間ソリストとして踊ってようやく自信を取り戻すことができました。もともとBRBのレパートリーに惹かれていたので、そこから一念発起してBRBのオーディションに挑戦して、今があります。だから、若いダンサーたちがこの話を聞いて少しでも励みになれば嬉しいです」。
BRBの雰囲気についても熱く語る。「このカンパニーには本当に強い団結力があるんです。ツアーが多くて、皆で過ごす時間が長いせいか、嫉妬や競争よりもむしろ、お互いを支え合う文化が根付いています。特に公演直前に誰かが怪我をしても、全員でカバーし合うような温かい雰囲気があって、本当にありがたいことだなと感じています」。
カルロス・アコスタ芸術監督の新体制になって、レパートリーの変化とともに新しい自分を発見し、日々進化しているというパルマ。「コンテンポラリー作品にも沢山挑戦するようになり、最初はこんなの無理!と思った作品も、振付家の指導を受けながら乗り越えて、自分でも驚くような動きができるようになりました」。
「前回2018年の日本公演の時はまだコール・ド・バレエで、『眠れる森の美女』のフロリナ王女や『リーズの結婚』のニワトリ役を踊りました。今回日本の皆さんの前でシンデレラ役を踊れるのが本当に嬉しいです!」。
バレエへのまっすぐな情熱と、自分の可能性を信じ続ける粘り強さによって、葛藤ののちに自分の居場所を見つけたパルマ。シンデレラにも重なる彼女のパフォーマンスに期待したい。
實川絢子(在ロンドン、舞踊ライター)
6月20日(金) 18:30
6月21日(土) 14:00
6月22日(日) 14:00
[予定される主な出演者]
オーロラ姫:アリーナ・コジョカル[ゲスト・アーティスト](6/20, 6/22)、 栗原ゆう(6/21)
王子:マチアス・ディングマン(6/20, 6/22)、ラクラン・モナハン(6/21)
会場:東京文化会館(上野)
指揮:ギャヴィン・サザーランド
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
6月27日(金) 19:00
6月28日(土) 14:00
6月29日(日) 14:00
[予定される主な出演者]
シンデレラ:平田桃子(6/27, 6/29)、 ベアトリス・パルマ(6/28)
王子:ウィリアム・ブレイスウェル[ゲスト・アーティスト](6/27, 6/29)、マックス・マズレン(6/28)
会場:東京文化会館(上野)
指揮:ポール・マーフィー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
―平日料金
S=¥26,000 A=¥23,000 B=¥20,000
C=¥17,000 D=¥14,000 E=¥10,000
U25シート=¥5,000
【堺公演】
7月2日(水) 18:30
会場:フェニーチェ堺 大ホール
オーロラ姫:セリーヌ・ギッテンス
王子:ヤシエル・ホデリン・ベロ
演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■入場料[税込]
S=¥22,000 A=¥18,500 B=¥15,000 C=¥9,000
【名古屋公演】
7月5日(土) 14:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
オーロラ姫:セリーヌ・ギッテンス
王子:ヤシエル・ホデリン・ベロ
演奏:ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
■入場料[税込]
S=¥22,000 A=¥19,000 B=¥15,000 C=¥10,000 D=¥7,000 U25シート=¥5,000