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2024/02/21(水)Vol.488

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』衣裳デザイナー
イローナ・カラス インタビュー
2024/02/21(水)
2024年02月21日号
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英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』衣裳デザイナー
イローナ・カラス インタビュー

英国ロイヤル・オペラ『リゴレット』の新演出は、制作開始当初から演出家オリヴァー・ミアーズのもと、衣裳や美術、照明などの制作スタッフがアイデアを出しながらつくりあげたそうです。ここでは、衣裳を担当したイローナ・カラスに、制作の過程や衣裳デザイナーとしての視点を聞きました。

「この『リゴレット』の衣裳で、歴史的な要素と現代の流行とを組み合わせたことの狙いは、観客を"騙す"ことにあります」

――まずはイローナさんの経歴を教えてください。

イローナ・カラス(以下カラス)チェコ共和国で生まれ、人形劇の劇場で舞台の仕事を始めて、その後ロンドンの大学で衣裳デザインを学びました。衣裳デザイン全般を教えてくれる大学ですので、卒業生は演劇、オペラ、ダンス、それに映画やテレビなど、さまざまな分野に進んでいきます。私はオペラの道を選び、やがてフリーランスのデザイナーとして、ヨーロッパ各地のオペラハウスで衣裳を手掛けるようになりました。英国ロイヤル・オペラとの仕事は、この『リゴレット』が初めて。2023年11月公演の『イェフタ』が2作目の仕事になります。

――演出のオリバー・ミアーズさんとは、『リゴレット』が初めての仕事だったのですか?

カラス:いえ、彼がアイルランドのオペラハウスにいた頃にご一緒したことがありました。『リゴレット』とは全く毛色の違う喜劇的オペラの『愛の妙薬』です。これはその後ノルウェーでも上演されたので、ご存じの方もいるかもしれませんね。ほかにも何作かあって、私たちは良いチームなのではないかと思っています。

――英国ロイヤル・オペラの『リゴレット』の衣裳は、伝統とモダンが融合した、非常にユニークなものだと思います。創作過程はどのようなものだったのでしょうか。

カラス:とても楽しかったですよ。というのも、特定の時代に即した衣裳にする必要がなく、歴史的な要素と現代の流行とを組み合わせることができたから。組み合わせたことの狙いは、観客を"騙す"ことにあります。『リゴレット』は古い時代の物語であると思って観に来た観客は、幕が開いた瞬間から「何か違う」と感じると思いますが、「モダンな世界にいるのだ」と分かるのは最初のシーンが終わる頃。そうした効果を出すためにあえて、観客がエリザベス朝を思い浮かべそうなスタイルやシルエットを使いつつ、腕や脚の露出を多くするなど、エリザベス朝にはなかったデザインにしているんです。ファッションと戯れているようで、本当に楽しかったですね。

第1幕より Photos: Helen Murray/ ROH

――とはいえ数が多いので、やはり大変なこともあったのでは?

カラス:たしかに作業量は膨大でしたが、ちょうどコロナ禍だったので、時間はたっぷりあったんです。みんな仕事がなくなったなかで、取り組むべきことのあった私はラッキーだったのかもしれません(笑)。毎日こればかりやっていたわけではありませんが、かけた時間としては4カ月ほどでしょうか。その間じゅう楽しかったことを覚えています。

――ほかにもこのプロダクションならではの特徴があれば教えてください。

カラス:やはり、歴史的な要素とモダンな要素とを組み合わせていることに尽きると思います。オペラの衣裳は特定の時代に即していなければいけないことが多く、ここまでの自由が与えられることはそうないんです。言い換えるなら、創造上の自由がこのプロダクション最大の特徴だと思います。

――衣裳デザイナーの立場から、この『リゴレット』の見どころを挙げるなら?

カラス:観客の皆さんの目はやはり豪華な衣裳に向きがちで、そこに作り手のこだわりがあると思われる方が多いと思うのですが、私たちがこだわっているのはむしろ細かい部分。それはどの作品にも言えることで、今回もリゴレットの道化師の衣裳以上に、彼のスーツやネクタイの色に気を配っています。自然と目に飛び込んでくるものではないでしょうが、注意深く見ていただくと、セットや照明との相性まで考えられていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

第2幕のリゴレット
Photo: Helen Murray/ ROH
第3幕のリゴレット
Photo: Helen Murray/ ROH

――こうした新制作の際、もちろん演出家やコンセプト次第でもあるとは思いますが、衣裳デザイナーというのはどの段階から創作に加わるものなのでしょうか。

カラス:おっしゃる通りチーム次第ですが、私たちの場合は、演出家から照明デザイナー、振付家、セットデザイナー、衣裳デザイナーまで、全員が最初の時点から、常に集まってアイデアを出し合いながら進めていきます。アイデアを整理し、良し悪しを判断するのは演出家ですが、私たち全員がその判断に貢献しているんです。オペラにおいては、たとえば照明と衣裳のどちらが重要ということはなく、どれも同等に重要で、そしてすべてが溶け合っていなければならない。常に作品を良くすることを第一に考えて意見を出し合える私たちは、本当に良いチームだと思います。

――オペラの衣裳にとって、最も大切なことは何だと思われますか?

カラス:物語に忠実であることです。オペラの衣裳デザイナーは、手の込んだ衣裳で出演者を着飾ることが仕事だと思われがちですが、衣裳はその人を素敵に見せるためではなく、物語を伝えるためにあるんです。ですから演劇や映画の衣裳デザイナーと同じように、私たちもまずはその役を表現するために何が必要かを考えます。映画のようなリアリティは求められませんから、もちろん誇張することはありますが、見つめているのは常にその役の内面。もしその役が質素な衣裳を求めていれば、それに従うことが必要だと思っています。

――では、本作においてもそのように?

カラス:その通りです。マントヴァ公は分かりやすい人物なので、衣裳は彼の裕福ぶりと虚栄心を表せればいいのですが、リゴレットの場合はもっと複雑。道化師の衣裳は彼の職業を表すものとして、ほかの衣裳は彼が悲しみを抱えた一人の父親に見えるようにデザインしています。どこにでもいる普通の父親だから、スーツとコートと帽子姿なんです。またメイクについても、彼が職業柄、長年にわたって顔を白く塗ってきたことを考えて、スーツ姿の時も少し顔色を悪くしています。

――最後に改めて、日本の皆さんにメッセージをお願いします。

カラス:私たちのチームが一丸となって完成させ、その出来に大いに満足している『リゴレット』を、そのままの形で日本に持って行きます。ぜひ楽しみにしていてください。

(2023年秋、ロンドンにてインタビュー)

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英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』全3幕
『トゥーランドット』全3幕

公演日

ジュゼッぺ・ヴェルディ
『リゴレット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
6月22日(土)15:00 神奈川県民ホール
6月25日(火)13:00 神奈川県民ホール *横浜平日マチネ特別料金
6月28日(金)18:30 NHK ホール
6月30日(日)15:00 NHK ホール

[予定される主な出演者]
マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ
リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ
ジルダ:ネイディーン・シエラ

ジャコモ・プッチーニ
『トゥーランドット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:アンドレイ・セルバン
6月23日(日)15:00 東京文化会館
6月26日(水)18:30 東京文化会館
6月29日(土)15:00 東京文化会館
7月2日(火)15:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
トゥーランドット姫:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
カラフ:ブライアン・ジェイド
リュー:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

入場料[税込]

S=¥72,000 A=¥62,000 B=¥48,000
C=¥38,000 D=¥32,000 E=¥22,000
U29シート=¥10,000 [全公演対象]
U39シート=¥18,000 [6/22(土)『リゴレット』、6/26(水)『トゥーランドット』限定]
※サポーター席=¥122,000 [寄付金付きのS席 S席72,000円+寄付金50,000円]

横浜平日マチネ特別料金[6/25(火)限定]
S=¥49,000 A=¥42,000 B=¥35,000
C=¥30,000 D=¥25,000 E=¥20,000
U29シート=¥8,000 [全公演対象]
※サポーター席=¥99,000 [寄付金付きのS席 S席49,000円+寄付金50,000円]