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『リゴレット』装置デザイナー:サイモン・ホールズワース

2024/03/06(水)Vol.489

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』装置デザイナー
サイモン・ホールズワース インタビュー
2024/03/06(水)
2024年03月06日号
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『リゴレット』装置デザイナー:サイモン・ホールズワース

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』装置デザイナー
サイモン・ホールズワース インタビュー

演出家オリヴァー・ミアーズとともに英国ロイヤル・オペラ『リゴレット』の制作に関わるスタッフに取材! 今回は装置を手がけたデザイナーのサイモン・ホールズワースに聞きました。

「『リゴレット』は暗いお話ですが、だからこそスリリングな演出が可能なのではないかと思います」

――まずはサイモンさんの経歴を教えてください。

サイモン・ホールズワース(以下ホールズワース)ロンドンで生まれてロンドンの大学で学び、ロンドンでオペラのセットデザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。今はベルリンに住んでいるのですが、あちこちで仕事をしていて、実は日本にも2度ほど行っているんですよ。最後に行ったのは兵庫県立芸術文化センターの『メリー・ウィドウ』を手掛けた2021年で、ちょうど東京オリンピックの時期だったので、皆にオリンピックを観に行ったと思われていました(笑)。英国ロイヤル・オペラでは、この『リゴレット』と、2023年11月公演の『イェフタ』の2作を手掛けています。

――『リゴレット』のセットを手掛けるにあたり、演出のオリヴァー・ミアーズさんからはどんなリクエストがあったのでしょうか。

ホールズワース:私たちはもう20年ほど一緒に仕事をしているので、彼のリクエストに応じて私がデザインする、という関係ではないんですよ。初期段階から様々なリサーチを一緒に行い、作品の登場人物や設定について話し合ったうえで、私が提示したスケッチを元に一緒に練り上げていく形が多く、今回もそうでした。『リゴレット』の主人公の一人であるマントヴァ公爵は、強い権力を持ち、女性を蔑視している人物で、女性をまるで物のように扱います。そこで私たちは、彼を美術品と女性のコレクターという設定にして、古い西洋美術の作品を舞台装置のモチーフにすることにしました。ある美術品が途中で別の美術品に置き換わるのは、マントヴァ公爵が女性のことも同じように取っ替え引っ替えしていることを象徴しています。

第2幕より 美術品を品定めするマントヴァ公爵
Photo: ROH

――それくらい分かりやすいマントヴァ公爵に対して、リゴレットとジルダはとても複雑なキャラクターかと思います。

ホールズワース:ジルダはそこまででもなく、この作品の中で唯一の道徳的な人物と言えますが、リゴレットは確かにそうですね。言ってしまえば好感の持てないキャラクターですが、そうなったのは社会から虐げられたためですから、問題は社会にあるとも言えると思います。一方では、そんな社会と距離を置き過ぎた彼自身にも問題はあるでしょうから、やはりとても複雑なキャラクター。観客もまた、彼を見ていると複雑な気持ちになるのではないでしょうか。この物語自体、観ていて決して楽しいものではないですよね。むしろ暗いお話ですが、だからこそスリリングな演出が可能なのではないかと思います。照明、映像など各部門のデザイナーが密に話し合い、チームとして取り組んだ結果、シンプルですが見応えのある舞台になっています。

第3幕より
Photo: Helen Murray/ ROH
第3幕 スパラフチーレの家のセット

――小道具についても少し紹介していただけますか。

ホールズワース:今回の小道具で最も重要なのは、ジルダの誘拐のシーンで使われる人形ですね。リゴレットは、娘の代わりに人形がベッドに置かれていたことで誘拐に気づくのですが、本当にグロテスクなその人形が、事の残酷さを一層引き立てています。この人形も実は、不気味な作風で知られるハンス・ベルメールという人形作家の作品がモチーフなんですよ。

第1幕より グロテスクな人形は人形作家ハンス・ベルメールの作品をモチーフとしている 
Photo: ROH

――セット及び小道具デザイナーの立場から、この『リゴレット』の見どころを挙げるなら?

ホールズワース:最大の見どころはやはり、実物よりもずっと大きい「ウルビーノのヴィーナス」のような絵画。ただ先ほどもお話しした通り、重要なのは絵画そのものではなく、美術品の入れ替わりがマントヴァ公爵の権力とキャラクターを表しているという点です。もう一つ挙げるなら、部屋全体に漂う、どこか紳士クラブのような古めかしさでしょうか。かつて上流階級の男性たちが集った紳士クラブは、今も残る古い考えが培われたとも言える場所。紳士クラブのようにしよう、という明確な意図を持ってデザインしたわけではありませんが、革や木を使ってそんな雰囲気にすることで、感じ取ってもらえることはあるのではないかと思っています。

第1幕より 巨大な「ウルビーノのヴィーナス」はマントヴァ公爵の権力とキャラクターを表している 
Photo: Helen Murray/ ROH

――伝統とモダンの融合、というのもこのプロダクションの特徴かと思いますが、その点についてはいかがでしょうか。

ホールズワース:そうですね。古い美術品をモチーフにしてはいますが、やり方としては現代的だと思いますし、両方の要素を受け取ってもらえたら。でもこの点を主に担っているのは、セットよりも衣裳かもしれません。特に幕開けのパーティーのシーンは、昔なのか今なのかが、衣裳からは分からないようになっている。モンテローネがモダンなスーツ姿で登場するまで、手掛かりが全くないんです。

――最後に改めて、日本の皆さんにメッセージをお願いします。

ホールズワース:この作品が日本の皆さんにどう受け止められるのか、私自身とても楽しみにしています。というのも、西洋美術をモチーフにした、西洋の伝統芸術であるオペラを日本で上演するのは、ロンドンで歌舞伎や能を上演するのに近いものがあると思いますから。もちろん北斎とヴァン・ゴッホの例のように、日本と西洋の美術が互いに影響を与え合ってきたことは知っていますが、それでもやはり両者には大きな違いがある。だからどれだけ理解してもらえるのかに大いに興味がありますし、たとえ細かい部分までは伝わらなかったとしても、なんらかの形で楽しみを見出してもらえることを願っています。

(2023年秋、ロンドンにてインタビュー)

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英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』全3幕
『トゥーランドット』全3幕

公演日

ジュゼッぺ・ヴェルディ
『リゴレット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
6月22日(土)15:00 神奈川県民ホール
6月25日(火)13:00 神奈川県民ホール *横浜平日マチネ特別料金
6月28日(金)18:30 NHK ホール
6月30日(日)15:00 NHK ホール

[予定される主な出演者]
マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ
リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ
ジルダ:ネイディーン・シエラ

ジャコモ・プッチーニ
『トゥーランドット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:アンドレイ・セルバン
6月23日(日)15:00 東京文化会館
6月26日(水)18:30 東京文化会館
6月29日(土)15:00 東京文化会館
7月2日(火)15:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
トゥーランドット姫:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
カラフ:ブライアン・ジェイド
リュー:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

入場料[税込]

S=¥72,000 A=¥62,000 B=¥48,000
C=¥38,000 D=¥32,000 E=¥22,000
U29シート=¥10,000 [全公演対象]
U39シート=¥18,000 [6/22(土)『リゴレット』、6/26(水)『トゥーランドット』限定]
※サポーター席=¥122,000 [寄付金付きのS席 S席72,000円+寄付金50,000円]

横浜平日マチネ特別料金[6/25(火)限定]
S=¥49,000 A=¥42,000 B=¥35,000
C=¥30,000 D=¥25,000 E=¥20,000
U29シート=¥8,000 [全公演対象]
※サポーター席=¥99,000 [寄付金付きのS席 S席49,000円+寄付金50,000円]