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Photo: Marc Brenner / ROH

2024/03/20(水)Vol.490

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『トゥーランドット』魅力のヒ・ミ・ツ
2024/03/20(水)
2024年03月20日号
TOPニュース
オペラ

Photo: Marc Brenner / ROH

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『トゥーランドット』魅力のヒ・ミ・ツ

プッチーニの遺作にして、数あるオペラ作品のなかでもトップクラスの人気を誇るのが『トゥーランドット』。この作品の魅力は?と尋ねたら、有名なアリア「誰も寝てはならぬ」だと言う人、かつて観た舞台の壮大さが忘れられないと言う人、あるいは、愛のために命を落とすリューの姿は涙なくしては観られないと言う人.....さまざまな点が挙がるでしょう。
ここでは、その魅力の源がどこにあるのか、いわば"魅力のヒミツ"を探ってみることにしましょう。

プッチーニはワーグナーの楽劇超えを目指していた!

「このオペラはプッチーニのオペラのなかにおいて異質なものです」とはアントニオ・パッパーノの言葉。2023年春に英国ロイヤル・オペラでは初めて『トゥーランドット』を指揮することになったパッパーノは、上演に先立って行われたトーク・イベント(*インサイト)でこう話し始めました。なにが異質かというと、合唱をここまで本格的に用いたのが初めてであったことだと。そしてそれは、プッチーニがワーグナーの楽劇『神々の黄昏』に匹敵するような、グランド・オペラを超えるものを完成させたかったからだというのです。プッチーニの壮大な構想を、パッパーノは残された作品からこう見つめます。(*インサイト: 英国ロイヤル・オペラで行われるトーク・イベント。新演出などを控え、出演者などが作品について紹介する)
「プッチーニは、2年前に作曲されたストラヴィンスキーの「春の祭典」をはじめ、バルトークの実験的な試み、シェーンベルク、ウェーベルン、ドビュッシーの音楽を聴いていました。それぞれの作曲がそれぞれ違う方向に進んでいることを十分に認識していたのです。まさに音楽、そして芸術そのものがとても豊かに次々と生み出され、花開いた時代だったんです。彼はそういう自分の生きている時代を十分に認識していました。さらに、リヒャルト・シュトラウスも忘れてはなりません。プッチーニはシュトラウスの『サロメ』を観て、魅了されています。『トゥーランドット』には、これらの全ての作曲家のエコーを聴き取ることができます。特にオーケストレーションのそこここにそれが表れています。「春の祭典」の野蛮さ(savage)、『サロメ』の魅惑的な退廃、ストラヴィンスキーやバルトークの大地を感じさせるリズムなど」(インサイトより)
なるほど、『トゥーランドット』の舞台の壮大さに目を眩ませた経験はあっても、プッチーニが抱いていたこの壮大な意欲までは気づいていなかったかもしれません。

英国ロイヤル・オペラ
アンドレイ・セルバン演出『トゥーランドット』第1幕より
Photo: Marc Brenner / ROH

ハッピーエンドに慣れていなかったプッチーニの苦悩

そうした壮大な構想を完成させることなく、リューが死んでしまうところまでを書き、プッチーニは亡くなってしまいました。その後の部分は残されたスケッチをもとに補筆が行われ、初演となったわけです。補筆についての賛否はともかく、「プッチーニはハッピーエンドに慣れていなかった」と言うパッパーノの考えはインタビューからうかがい知ることができます。
「私はプッチーニがその先も書こうとしていたと考えています。3つの謎が説かれ、本来ならばハッピーエンドになるところですが、心を固く閉ざした姫の心はそう簡単に開くものではありません。ましてや、王子をすぐさま深く愛するというのには、無理があります。これらを解決する、矛盾のない愛の二重唱を模索しているうちに彼のがんの病状は悪化して、その先が書けなくなってしまったのだと。つまり書く気がなかったわけではなかった、と私は思うのです。プッチーニは、当時彼の周りの音楽の世界が大きく変化していることも十分に理解していましたし、シュトラウスやバルトークの存在も認識していました。その中で、彼は単に「愛している!」と高らかに歌いあげるだけの二重唱ではなく、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』の愛の二重唱のような、心理描写を伴う、なぜなのか、といったことをもっと具体的に時間をかけて歌うような愛の二重唱を模索していたのだと私は考えています」(2024年1月インタビューより)
パッパーノのこの考えを聴くと、第3幕のリューの死後、補筆された場面の音楽にマエストロの秘めた思いが込められるのだと期待してしまいます。

英国ロイヤル・オペラ
アンドレイ・セルバン演出『トゥーランドット』第3幕より
Photo: ROH

演出の鍵を握るのはピン・パン・ポン?!

指揮者パッパーノによる『トゥーランドット』という作品と作曲家プッチーニについての洞察に続いて、英国ロイヤル・オペラの『トゥーランドット』、実際の舞台の魅力については再演演出家と振付家の言葉をご紹介しましょう。
振付家のケイト・フラットは、このプロダクションが初演された1984年に演出家アンドレイ・セルバンとともに作品をつくる際、古代中国のイメージを出すために太極拳を学んだそうです。「ゆっくりとした動きのヒントになりました。ただし、ダンスは中国風に重きを置くのではなく、あくまで音楽、そして言葉のイントネーションと意味に沿わせました」

英国ロイヤル・オペラ
アンドレイ・セルバン演出『トゥーランドット』第2幕より
Photo: Marc Brenner / ROH

また、2人は1987年のインタビューで、セルバンが「カラフは信頼と心の広さ、率直さをトゥーランドットにもたらす存在。トゥーランドットには愛はなく、降伏するか否か、屈服するか否か、しかない」と語っていたと言います。そして、セルバンはコメディア・デラルテの考え方にとても惹きつけられていたのだと。『トゥーランドット』のなかでこれを担うのはピン・パン・ポンの3人の大臣です。皇帝に仕えるこの3人は常に一緒に行動します。コミカルな面が主だけれど、かなり達観したようなことも言い、さらに自分たちの故郷を思って悲しんだりもします。ちょっぴり複雑で現実的な性格は言葉だけでなく、音楽にも反映されています。演出家がどう扱うかによって上演の成否を担うくらい重要であることを、セルバンはちゃんとわかっていた!

英国ロイヤル・オペラ
アンドレイ・セルバン演出『トゥーランドット』第1幕より
Photo: Bill Cooper / ROH

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英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』全3幕
『トゥーランドット』全3幕

公演日

ジュゼッぺ・ヴェルディ
『リゴレット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
6月22日(土)15:00 神奈川県民ホール
6月25日(火)13:00 神奈川県民ホール *横浜平日マチネ特別料金
6月28日(金)18:30 NHK ホール
6月30日(日)15:00 NHK ホール

[予定される主な出演者]
マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ
リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ
ジルダ:ネイディーン・シエラ

ジャコモ・プッチーニ
『トゥーランドット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:アンドレイ・セルバン
6月23日(日)15:00 東京文化会館
6月26日(水)18:30 東京文化会館
6月29日(土)15:00 東京文化会館
7月2日(火)15:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
トゥーランドット姫:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
カラフ:ブライアン・ジェイド
リュー:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

入場料[税込]

S=¥72,000 A=¥62,000 B=¥48,000
C=¥38,000 D=¥32,000 E=¥22,000
U29シート=¥10,000 [全公演対象]
U39シート=¥18,000 [6/22(土)『リゴレット』、6/26(水)『トゥーランドット』限定]
※サポーター席=¥122,000 [寄付金付きのS席 S席72,000円+寄付金50,000円]

横浜平日マチネ特別料金[6/25(火)限定]
S=¥49,000 A=¥42,000 B=¥35,000
C=¥30,000 D=¥25,000 E=¥20,000
U29シート=¥8,000 [全公演対象]
※サポーター席=¥99,000 [寄付金付きのS席 S席49,000円+寄付金50,000円]