11月の24日間の東京バレエ団イタリア・ツアーに同行していた演出家の田口道子さんが、ツアーの最終公演直後にミラノに戻り、スカラ座情報を届けてくれました。
11月30日、ミラノに戻った私にスカラ座の友人からニュースが入った。今年はジャコモ・プッチーニの没後100年とあって様々な催しがあったが、スカラ座は11月29日の命日にプッチーニに捧げるコンサートを企画していた。オーケストラ、合唱、児童合唱に偉大なソリスト(アンナ・ネトレプコ、ヨナス・カウフマン、マリアンジェラ・シチリア)が出演し、音楽監督のリッカルド・シャイーが指揮する盛大なコンサートでRAI国営放送もライブ中継する予定だった。
ところが、29日には国をあげての大規模なストライキが予定されていた。労働組合による賃上げ要求のストライキだった。劇場と組合はコンサートを行うための話し合いをしていたが、開演直前になってオーケストラと合唱はストライキに入った。劇場にはすでに観客が入って開演を待っていた。マイヤー総裁が舞台に出て事情を説明し、急遽プログラムが変更されてピアノ伴奏によるゲスト歌手のコンサートになった。もちろん、チケットは払い戻しとなり、テレビ放送は6月にプッチーニの生地ルッカで行われたリッカルド・ムーティ指揮のコンサートの録画に変更されたとのことだった。ストは1カ月も前から予定されていたのだが、スカラ座はどうしても11月29日の命日にコンサートを行おうとしたことで大きな損失を被ることになってしまったわけだ。観客はチケットを払い戻された上にネトレプコとカウフマンの演奏を楽しめて満足したに違いない。
ピアノ伴奏に変更されたコンサートの様子が報じられた。
12月に入るとミラノはスカラ座シーズンのオープニングの話題でいっぱいになる。演目はヴェルディ作『運命の力』だ。12月7日の初日のチケットは3,000ユーロ(約50万円)だが、すでに1月2日までの全公演が完売している。幸運なことに私は12月1日のゲネプロを見ることができた。レオ・ムスカートの演出は回り舞台を巧みに使用して美しく見ごたえのある舞台を作り出している。第1幕は1700年代、第2幕は1800年代、第3幕は1900年代、第4幕は今日の戦争を表しているとはいえ、『運命の力』のストーリーが大変分かりやすく表現されている。プロジェクション・マッピングや映像は一切使われていない。久しぶりにスカラ座らしい舞台を堪能することができた。
ミラノ・スカラ座『運命の力』
Photo: Brescia - Amisano © Teatro alla Scala
レオノーラ役のネトレプコ、アルヴァーロ役のブライアン・ジェイド、カルロ役のリュドヴィク・テジエを始めとする歌手陣が素晴らしい。ネトレプコは見違えるほどほっそりして美しくなり、デビュー当時の姿を思い起こさせた。
12月8日にはスカラ座開幕のニュースが数多く報じられた
マイヤー総裁にとっては最後のシーズンになる。すでに次期総裁オルトンビーナ氏が引き継ぎのためにヴェネツィアのフェニーチェ劇場を去って、スカラ座にオフィスを構えている。フォンターナ総裁の後約20年ぶりにイタリア人の総裁を迎える。
12月7日のオープニングはRAI国営放送を通してヨーロッパ各地で中継されるとともに、映画館を始め北イタリアのいくつかの劇場でも同時放映される。日本でもNHKで録画が放映されるとのことだ。マイヤー総裁における最後のシーズンは順調に滑り出しそうだ。
取材・文 田口道子