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NBS日本舞台芸術振興会

2020/08/05(水)Vol.403

新 起承転々 漂流篇 vol.42 文化芸術復興計画
2020/08/05(水)
2020年08月05日号
起承転々
連載

新 起承転々 漂流篇 vol.42 文化芸術復興計画

文化芸術復興計画

 新型コロナウイルスの感染者が急増している。ウイルスは湿度や紫外線に弱いから夏場は鎮静化するだろうと言われていたが、予想は見事に外れている。政府は経済を再開するために7月の4連休に合わせて「Go To トラベル」なるものを企画したが、感染が拡大する中、あまりにもタイミングが悪く、急遽、東京だけを除外した。これでは「Go To トラブル」だと揶揄する声も聞く。新型コロナウイルスは未知のウイルスで、このウイルスがメディアに報じられて半年以上たつというのに、いまだ正体を掴み切れていないようだ。
「モーリス・ベジャール・バレエ団」日本公演の中止を発表した。当初は5月中旬に予定していたが、何とか実現すべく、先に公演中止が決まっていた「ミラノ・スカラ座」用に会場をおさえていた9月に公演を延期したのだった。しかし、入国制限が緩和されないので、海外からの芸術団体を招聘できないのだ。外国人アーティストがこれまでどおり日本で活動できるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
 カルチャーという言葉の原義は「耕されたもの」だが、我々の仕事は農作業に似ている。畑を耕し、種を撒き、肥料をやって、日々まめに手をかけなければ良い作物は育たない。放っておいたらすぐに枯れたり腐ったりしてしまうから、活動を停止するわけにはいかないのだ。これまで舞台芸術の灯を絶やしてはならないという一心でやってきたが、いまだコロナ禍の出口が見えず、予定していた公演が次々に中止せざるを得なくなると、さすがに心が折れそうになる。
 ボクシングにたとえれば、強烈なパンチを浴びてダウンを喫しても、そのつどフラフラになりながらも立ち上がり、ファイティングポーズをとってきた。これまで公演中止に何度も直面しながらも、気力を振り絞って起き上がってきたが、さすがにこうもダウンが重なると、ダメージが大きく、そのままマットに沈んでしまいそうだ。
 私はヘナチョコ経営者ながら、NBSや東京バレエ団の運営に責任をもたなければならない立場だから、このところ、いつも如何に生き延びるかで頭がいっぱいだ。自宅の近くの本屋をうろついていたら「コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画」(文藝春秋刊)という本のタイトルが目に飛び込んできた。サバイバルという言葉とともに、復興計画という言葉が心に響いた。著者は経営共創基盤の冨山和彦氏。冨山さんはオペラや音楽がお好きで、NBSの公演にもたびたびお越しいただいているが、最近はバレエの公演でもお姿を見かける。冨山さんのご託宣が気になって、本を手に取った。
 冨山さんは「コロナショックはリーマンショックといった今までの危機を上回る破壊性をもっている」とし、「新たなビジネスモデルの創造や、新たな会社のかたちへの転換を行いやすい状況とも言える。破壊的なショックからのリカバリーは、復旧ではなく復興にしなければならない」と言う。6月に文化芸術に対し500億円余の第2次補正予算がつき、文化庁より「文化芸術活動への緊急総合支援パッケージ」という支援策が提示された。これは当面コロナ禍を凌ぐための応急処置的な復旧策であって、今後の長期戦を想定した復興策ではないと私は考えている。
 たとえば怪我をした当初は緊張しているせいであまり痛みを感じないが、時間が経つにつれ痛みが激しくなる。やがて痛みが和らいだにしても後遺症に苦しむこともある。応急処置はもちろん必要だが、回復するためにはリハビリが必要なのではないか。危機が去った後に反転攻勢に転じる体制を今のうちに構築しておく必要がある。冨山さんは「真の淘汰は危機時に始まり、危機時に決着する。危機が終わったら直ちに、いや危機の最中から次を見据えた改革を始動すべし」とのたまう。いま我々に必要なのは将来の不安を払拭する政策なのではないかと思うのだが、私ごときが言い出すまでもなく、国は当然「文化芸術復興計画」を考えていることだろう。
 ワクチンが開発されたにしてもこのコロナ禍の後遺症は数年続くだろうから、3〜4年単位で復興計画を練らなければならないのではないだろうか。そのためには、約500億円の補正予算を慌てて本年度内に使い切るのではなく、すでに国が立ち上げた「文化芸術復興創造基金」にプールするなどして、やがて苦しみが増すことになる後遺症に備えるべきなのではないか。
 冨山さんは今回のコロナ禍によって「スポーツや音楽、演劇などのライヴイベントの自粛がいかに大きな衝撃、社会的なストレスを生むかも皆が実感した」から、モノからコトへの流れが加速すると書かれている。この危機にコトの重要性が顧みられ、過去の悪弊が淘汰され、良いものだけが残ることによって、反転攻勢をかけられるかもしれない。
 冨山さんはこうも言う。「危機の時代は、まずリーダーの時代である。誰よりも体を張り、リスクを取り、ハードワークし、結果責任を背負うべきはリーダーである。リーダーたちは『今』と『未来』の両方に向けて200パーセント全力投球、200パーセント経営を求められているのだ」と。ヘナチョコ経営者の私は、名指しで冨山さんに叱咤激励されたように感じた。試合終了のゴングが鳴るまで、けっして諦めず、何度でも起き上がってファイティングポーズをとらなければと、気合を入れ直した。

髙橋 典夫 NBS専務理事