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NBS日本舞台芸術振興会
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2020/09/02(水)Vol.405

新 起承転々 漂流篇 vol.43 サバイバル・ゲーム
2020/09/02(水)
2020年09月02日号
起承転々
連載

新 起承転々 漂流篇 vol.43 サバイバル・ゲーム

サバイバル・ゲーム

 コロナ・ショックが起こってから、時が止まっているように感じる。かといって、この半年間、公演の中止や延期など次々に不測の事態に追われ、やたらと忙しい。新聞を広げると、コロナによる企業の減収減益の記事や、倒産だ、人員削減だと不安を煽る話ばかりが並ぶ。
 新聞の広告で「エンタメ&スポーツ消滅 コロナで人が来ない! 廃業&生活苦が襲う!」という刺激的な見出しを見つけ、さっそく『週刊ダイヤモンド』を手に入れた。「多くの観客が来ること=密、を前提としているスポーツとエンタメは、もっともコロナに弱いビジネス」として、映画や演劇、音楽、クラシック、美術館など、各界の危機的な状況をリポートしている。すでにサバイバル・ゲームは始まっているのだ。編集後記に「一見、華やかなエンタメ業界ですが、実際に取材をすると、自己犠牲で成り立つ脆弱な構造をしていて、コロナ危機で、その事実がより浮き彫りになってしまった」とあった。
 たしかに自己犠牲によってしか成り立たないことは日々実感している。エンターテインメントの語源は、ラテン語のinterとtenereで、interは「一緒に」、tenereは「保つ、維持する」という意味らしい。エンタメも我々の舞台芸術も、一緒に苦境を乗り越え、維持しなければならないのだ。
 オペラやバレエ、オーケストラ・コンサートとエンタメが決定的に違うのは、自己犠牲で成り立つ脆弱な構造は同じであるものの、国をはじめ公的な助成金を受けていることや企業スポンサーや個人からの寄付金によってこれまでも生きながらえてきたことだ。このコロナ・ショックによって日本のデジタル化が世界と比較して周回遅れだったことが明らかになったが、日本の文化行政も他の主要国と比べ何周も遅れていることがはっきりした。今回のコロナ禍に際し、ドイツやフランス、イギリスなど、まっさきに芸術文化の重要性を訴え、すばやくアーティストに対して救済措置をとっているが、日本の対応は遅いうえに貧しいかぎりだった。この100年に一度ともいわれる危機は、ピンチはチャンスで、100年に一度のチャンスかもしれないのだ。ここで政治がリーダーシップを発揮して、日本の文化行政のシステムを変えなければ、これから先も変えることはできないのではないだろうか。
 この拙稿を書いている最中に、安倍首相辞任の報が飛び込んできた。これも時代が大きく動く予兆なのかもしれない。政治の問題は複雑だが、経済界はコロナ・ショックで大変革が起こることに戦々恐々としているようだ。我々の文化芸術の世界においても、文化庁を文化省に格上げして、文化行政を大胆に改革するくらいのことがないと、この難局を乗り切れないのではないかと私は勝手に思っている。
 スクラップ・アンド・ビルド(破壊と再構築)が必要な時期に来ているのは間違いない。文化芸術に対するコロナ禍対策費として、第2次補正予算で約500億円がつき、文化芸術活動への緊急支援が行われているが、必要なところにうまく回っているようには思えない。あちこちに血栓ができていて、血液がうまく流れないのだ。我が国の舞台芸術界は裾野が広いことが良い点でもあると思うのだが、芸術団体の数が多くプロフェッショナルとアマチュアの境がはっきりしていないことは、これまでも指摘されてきた。このコロナ・ショックによって企業は過酷なまでに淘汰されるだろうと言われていて、我々の世界においても団体が淘汰されプロとアマの差別化が進むのだろうと思っていた。これを機に世界標準に近づくことができると思っていたら、今回の助成金も広く満遍なく配ることに重点が置かれているようなので、結果的にプロにきびしくアマを助けることになりそうなのだ。
 これから数年続くであろう舞台芸術の氷河期を乗り切るために、他力本願だが国の芸術団体に対する助成の仕組みを変えてもらいたい。また、オペラやバレエ、オーケストラの団体はほとんど公益財団法人だが、寄付税制を変えてもらい、企業や個人がより寄付しやすくすることが重要だと感じている。
 NBSもコロナ禍対策として「緊急寄付のお願い」を始めたが、支援者からの寄付は物心両面で大きな支えになっている。ご寄付くださった方には、心より感謝申し上げたい。日本の文化予算は、世界の主要国に比べ極端に少ないが、このコロナ・ショックで経済恐慌が噂される中、文化予算が増えることは望めないので、国はこれを機に、助成金や寄付税制のシステムを変えることで、プロの芸術団体が生き延びる道を示してもらいたいのだ。
 むろん、国ばかりに頼るつもりはなく、我々も新たな収益源を見つけなければならない。公演の映像をネット配信し、課金によって見てもらう試みが盛んに行われていて、当方も映像の配信に積極的に取り組んでいる。これからは劇場ビジネスも大きく変わるのだろう。公演は出演者と観客が劇場に集い、一緒になって「感動空間」をつくるものだ。今後ますますライブと映像のネット配信のハイブリッド方式が定着することになるのだろうが、舞台芸術の場合、映像配信はあくまでライブの魅力を喧伝するためのツールである。ライブの感動は何物にも代えがたいものであって、それを共有するために劇場に行きたいと人々に思ってもらわなければならないのだ。
 この未曾有のコロナ禍を乗り切るには、生半可な覚悟では無理だ。いまは耐え忍ぶ時期だが、アフターコロナの世界を想定してモデルチェンジを迫られている。何としても生き残るという強い意志をもって、このサバイバル・ゲームに勝ち残らなければならないと私自身に言い聞かせている。

髙橋 典夫 NBS専務理事