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2021/04/07(水)Vol.419

新 起承転々 漂流篇 vol.50 若葉萌え出づ
2021/04/07(水)
2021年04月07日号
起承転々
連載

新 起承転々 漂流篇 vol.50 若葉萌え出づ

若葉萌え出づ

 桜の花びらが風に舞っている。桜の季節がめぐってくるたびに、ああ、また1年が経ったかと、つい溜息がでるのだが、コロナ禍に振り回されつづけたこの1年は、季節感がまったくなかった。季節を感じる余裕がなかったというほうが正しいかもしれない。
 年度変わりの4月1日、新聞の紙面で楽しみにしているものがある。新社会人に向けたサントリーの広告だ。昔は作家の山口瞳氏がコピーを書いていたのだが、作家の伊集院静氏が引き継いで何年か経つ。毎回読むたびに上手いなぁと舌を巻いている。今回はこうだ。「私たちが、企業が、会社が、君たちに何を求めていると思うかね。50年前なら、勤勉で、真面目な働き手を求めた。それも必要なひとつだが、今は違う。何を求めているか。それは、今までにない発想と、君だけの情熱だ。そして何でもやり抜く気力だ。(中略)もう企業を、社会を、大転換させなくてはイケナインダ。金儲けだけの企業じゃダメだ。人を、社会をゆたかにする創造をなすのが企業であり、品性だ。チャレンジ精神を忘れるな。登り坂と下り坂なら登り坂を。追い風とむかい風ならむかい風に立つ勇気と品性を備えて、新しい時代にともに歩みだそう」。そうだ、そのとおりだ。さっそく、その新聞広告をコピーしてNBSの職員全員に配った。
 コロナ禍でいやでも変化対応を求められている。局面が刻々と変わり、とても難しい舵取りを強いられ、次々に重大な決断を迫られている。先に発表させていただいたが、今秋10月〜11月のウィーン国立歌劇場日本公演は迷い検討を重ねた結果、断腸の思いで中止の決断をした。これまで4年間にわたり実現に向け準備を進めてきたので、それがすべて水泡に帰すのはやるせないかぎりだ。だからといってオペラの引っ越し公演はあまりにも経済的なリスクが大きいから、先行き不透明な中、NBSの存続さえ脅かすような蛮勇をふるうわけにはいかなかった。決断した当初はヨーロッパでもワクチン接種が始まり、状況がどんどん好転するのではないかと思われ、秋には完全に終息するくらいの勢いだった。それから3カ月、ワクチン接種は進んでいるのだろうが、変異ウィルスの感染が拡大していて、いまだに混沌としたままで出口が見えてこない。今秋のウィーン国立歌劇場日本公演を諦めるという結論は、今になってみると止むを得ない判断だったと確信できる。
 東京オリンピック・パラリンピックは海外からの観客を受け入れないということに決まったが、今後の状況がどう変わるかによっては、新たにさまざまな意見が飛び交うことになるだろう。ウィーン国立歌劇場日本公演は中止の結論を出したが、その2カ月前の8月に予定している「第16回世界バレエフェスティバル」は、なんとか実現したいと思っている。ちょうどオリンピックとパラリンピックの間の8月13日から22日まで開催する予定だ。ウィーン国立歌劇場日本公演は総勢370人にも及ぶが、世界バレエフェスティバルの参加者は、世界のトップスターばかりだというものの、せいぜいで30人だ。現時点では8月に入国制限がどうなっているか、まだ依然として2週間の待機を課せられるのか何もわかっていない。オリンピック・パラリンピックのアスリートたちが入国できるのだから、「3年に1度のバレエのオリンピック」の出演者たちもなんとか入国できるのではないかと希望をもっている。世界中の劇場関係者は長引くコロナ禍によって舞台芸術の灯が絶えることを危惧している。海外のダンサーたちも苦境に立たされているが、日本はまだ欧米と比べるとコロナ禍の影響は少ないようだ。世界中がコロナ禍にあえぐ中、45年の伝統をもつ「世界バレエフェスティバル」を開催することで、日本から沈滞している世界のバレエ界に向けて元気のエールを送りたい。国内の劇場はきびしい感染対策をとっているので、これまで一度もクラスターが発生したことがない。劇場は安全な空間だと思っている。多くのファンが劇場に足を運び、本フェスティバルをご覧になることによって元気になり、明日への希望を感じてもらえれば、主催者としてそれに勝る喜びはない。
 伊集院静氏のコピーにあるとおり、今までにない発想と情熱、やり抜く気力は、新社会人でなくてもコロナ禍を乗り切りアフター・コロナの新しい世界を切り拓くためには欠かせない。今回のコロナ・パンデミックは歴史的に見たとき、旧時代と新時代の大きな分れ目になるだろうが、折しも今年NBSは財団化から40周年を迎える。舞台芸術を通じて「人を、社会をゆたかにする創造をなす」のがNBSでなければならないと、あらためて思い知らされた。満開の桜がまたたくまに葉桜に変わり、若葉の季節に移りつつある。4月は新しい旅立ちの季節。NBSもチャレンジ精神を忘れずに、創立40年を機に若返らなければならない。舞台芸術の世界も1年以上続いた冬の時代から、心機一転、コロナ禍で疲弊した心に萌え出づる若葉のような活力を取り戻し、1日も早く新しい時代の扉を押し開けたいものだ。

 

髙橋 典夫 NBS専務理事