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2022/01/05(水)Vol.437

新 起承転々 漂流篇 vol.59 片肺飛行
2022/01/05(水)
2022年01月05日号
起承転々
連載

新 起承転々 漂流篇 vol.59 片肺飛行

片肺飛行

 2021年はコロナに始まりコロナに暮れた。2020年と比べ感染者が6倍、死者が4倍に増えたようで、2021年は2020年以上にコロナに振り回された1年だった。このコラムでもコロナの話題を取り上げることが多かったが、コロナ禍が始まってやがて2年。コロナ禍で感じてきたことを記憶しておくためにも、年頭にあたり、いま一度振り返って書き留めておきたいと思う。
 NBSの事業は海外からの芸術団体やアーティストの招聘事業と東京バレエ団の運営が2本柱だが、それは創立者の佐々木忠次がつくったビジネス・モデルだ。それを飛行機の両翼のエンジンのようにしてNBSは創立以来40年(前身の制作会社の時から数えると57年)間飛行を続けてきた。それがコロナ禍によって海外からの招聘が困難になり、片方のエンジンが機能しなくなって片肺飛行に陥ってしまった。片肺だけだから操縦が難しく、いつ墜落しても不思議ではなかった。もう片方のエンジンである東京バレエ団が頼りだったが、幸いにも国内の舞台芸術団体やアーティストには国からコロナ禍対策として特別に各種の助成金が用意されたから、それをうまく利用しながら、どうにか今日まで片肺飛行を続けることができた。
 招聘公演のほうは悲惨だった。悪戦苦闘のすえ実現できたのが〈第16回世界バレエフェスティバル〉とベジャール・バレエ団だけで、6月のイングリッシュ・ナショナル・バレエ、10月〜11月のウィーン国立歌劇場も中止に追い込まれてしまった。中止せざるを得ない一番の原因は入国規制や入国後の隔離だ。いわゆるバブル方式でも3日間の隔離期間が義務付けられ、2週間はバブルの外の人と接触してはならないのだ。入国規制が完全に解除されないと、大型の招聘公演は難しいと感じている。入国規制をクリアしたにしても、公演中にクラスターでも起こったら公演を中止せざるを得ないから、膨大な経費がかかる招聘公演はつくづくリスクが高すぎると思う。
 2022年に入っても1月はリッカルド・ムーティ指揮のシカゴ交響楽団を予定していたが、発表の直前で中止になった。中国・台湾・日本をめぐるアジア・ツアーだったから、それぞれの国で入国するたびに隔離期間がつくとツアーは成立しないと、シカゴ響側がギブアップしてきた。3月に予定していたシュツットガルト・バレエ団も中止を発表したばかりだ。ドイツではコロナ禍が始まって以来、感染者数が最多になり、劇場を統括している州政府の機関から日本公演に行く許可が下りないというからお手上げだ。我々は実現できると信じて準備を進めてきたから、精神的にも経済的にも大打撃だ。
 海外からの団体やアーティストが来日できず、公演が中止や延期に追い込まれる一方、邦人アーティストの活躍の場は増えたのではないか。「コロナ特需」と揶揄する声も聞くが、邦人アーティストが見直される機会になったのはよいことだと思う。デルタ株からオミクロン株へと変異種が現れ、いまだコロナ禍の出口は見えないが、長引けば長引くほど、邦人アーティストに対する注目度が高まるに違いない。
 東京バレエ団も演目を変更したり、公演日を延期せざるを得ないことはあったものの、完全な中止は1公演もなかった。加えて文化庁の補正予算で「アートキャラバン」事業や「ARTS for the future!」などの助成金がついたおかげで、公演数を増やすことができた。東京バレエ団はこの「アートキャラバン」事業で11都市を巡演したが、どこの公演地でも本格的なバレエ公演が少ないせいか、観客がとても喜んでくれた。この事業は芸術団体が地方の劇場を借り、文化庁の助成金を元に芸術団体側のリスクで公演をするのだが、地元の劇場や現地の協力者の助けは欠かせない。せっかく「アートキャラバン」事業で得た経験や地方の劇場と築くことができた有形無形の財産を、今後に活かせないものかと思っていたら、幸いにも2022年度も「アートキャラバン」は継続しそうなのだ。コロナ禍対策の急ごしらえの制度であったにしても、コロナ禍のよいレガシーとして今後も残してほしいものだ。
 コロナがインフルエンザ並みに落ち着くまでには最低でも5年はかかるだろうという見方があるようだ。コロナ・パンデミックは世界を大きく変えるに違いないが、舞台芸術の世界も大きく変わらざるを得ない。我々はいま歴史の大きな転換点に立っているのは間違いなく、状況に合わせて変わる覚悟が必要なのだろう。パンデミックを契機に海外からの招聘公演が衰退していくのではと不安がつのる。海外からの一流団体やアーティストの刺激がないと、日本の舞台芸術が活性化しないのも事実だから、海外からの招聘は必要不可欠だと思う。国もパンデミックによって気が付いたことがたくさんあるだろうから、その教訓を今後の文化行政にも活かした舵取りをお願いしたい。NBSの片翼のエンジンが一日も早く機能することを祈るばかりだが、同時に新しいビジネス・モデルに転換しなければならない時期にきていると感じている。
 先が読めない時代、いったい2022年はどんな年になるのだろうか。心配の種は尽きないが、いつも気持ちだけは前向きに、コロナは陰性、ココロは陽性で、2022年をなんとか乗り切りたいと思っている。

 

髙橋 典夫 NBS専務理事