NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新

2022/02/02(水)Vol.439

新 起承転々 漂流篇 vol.60 疾風録
2022/02/02(水)
2022年02月02日号
起承転々
連載

新 起承転々 漂流篇 vol.60 疾風録

疾風録

 コロナ禍の真っただ中でNBSは財団化40周年を迎えた。コロナ禍で活動に制限が課せられている中で、いったい何ができるだろうと考えた。このパンデミックは世界を大きく変えることになるだろうが、舞台芸術の世界も変わらざるを得ない。この歴史的な転換点に、しばし立ち止まって来し方をふり返ることも必要ではないかと思い、40年史の編纂に取り組むことにした。きっかけは海外からの招聘公演が相次ぎ中止になったことから、これまで長いこと招聘オペラやバレエのプログラム製作に携わってくれていたフリーランスの編集スタッフやデザイナーの生活を守らなければならないと考えたからだ。舞台スタッフも同様で、NBSの公演が中止になったら予定していた仕事を急に失い路頭に迷う人も出てくる。欧米の劇場でもコロナ禍で舞台スタッフを一時解雇したところがあるが、公演活動が再開して呼び戻そうとしても、なかなか戻って来ないという話を聞く。1年以上も別の仕事をしていたら、その職場に定着してしまう人がいても不思議ではない。劇場を再開しても人材不足で公演活動に支障が出ているところがあって、深刻な問題になっているようだ。劇場は小さな社会で、公演を実現するためには出演者だけではなく裏で舞台を支えている専門職が一つのチームになって働いている。必要人材が欠けたら公演を実現するのがむずかしくなる。
 話を40年史に戻すと、NBSの歴史は東京バレエ団とともに発足した株式会社ジャパン・アート・スタッフという舞台制作会社から始まる。年史のタイトルは「NBS疾風録――財団化40年と、それまでの17年の前史」。年史編纂を機にふり返ると、40年という歳月が疾風怒涛のように過ぎ去ってしまったことに呆然とする。
 前身の株式会社ジャパン・アート・スタッフの会社登記は1964年10月10日。1回目の東京オリンピックの開会式の日だ。当時の関係者から、登記所に行く途中空を見上げたらブルーインパルスが五輪のマークを描いていたと聞いたことがある。NBSの萌芽は1回目の東京オリンピックとともにあったのだ。それから2021年の2回目の東京オリンピックの間の57年間の日本の栄枯盛衰とともに日本の舞台芸術の歴史があり、NBSの足跡もそれと軌を一にしている。高度経済成長の時代からやがてバブル経済崩壊、リーマンショック、東日本大震災による経済的な打撃が次々と襲って、日本はだんだん元気がなくなってしまった。日本は日出ずる国から徐々に日が西に傾き、私自身も馬齢を重ねて、いまは夕陽に向かって草笛を吹く心境だ。2013年に東京がオリンピック・パラリンピックの開催都市に決まったとき、再び日が昇るきっかけになるのではないかと期待した。オリンピック憲章にも「オリンピックはスポーツの祭典であるとともに文化の祭典でもある」と謳われているから、舞台芸術にも恩恵があるはずだと思っていた。そこで東京オリンピックに合わせてミラノ・スカラ座を招聘することにした。2020年のミラノ・スカラ座と翌21年に予定していたウィーン国立歌劇場の最高峰のオペラによって、オペラ引っ越し公演の復活を画策したが、難敵コロナの前についえてしまった。
 1981年に文化庁の指導があってNBSが誕生したが、その後、ほぼ10年周期で存続を脅かすような嵐に襲われた。1991年にはバブル経済が崩壊したが、その影響は数年遅れで徐々に舞台芸術の世界に表われることになった。1999年秋には目黒区八雲から目黒4丁目の新社屋へ引っ越したが、そのときあったゴタゴタからNBSは存亡の危機に見舞われた。設立から30年後の2011年に公益財団法人になった。その年は東日本大震災とそれが原因の福島原発事故による放射能流出があり、そのとき来日公演中だったフィレンツェ歌劇場が予定していた8公演中6公演を残したところで中止に追い込まれてしまった。同時にNBSの新館のバレエ・スタジオも建設中だったから、財政的に逼迫していて毎日生きた気がしなかった。それから10年生き長らえ2021年にNBSはコロナ・パンデミックの最中に財団化40周年を迎えたが、このコロナ禍は日本のみならず世界の舞台芸術界にとって最大のピンチだ。
 40年史の製作に取り組んでいてつくづく感じるのは、コロナで停滞を余儀なくされている間に、アフター・コロナを見据えNBSの来し方をふり返り行く末に思いを馳せる時間は必要だったということだ。50周年に向けたこれからの10年を考えたときに、公益財団法人のNBSは、我々当事者が好むと好まざるにかかわらず、公的な色彩を強めることになるのだろうと考えている。それは40年前に財団化したときから決まっていたことかもしれないが、今回のコロナ禍で多くの方々がご支援を寄せてくださったことからも、いっそう身に染みて感じている。今回の経験で舞台芸術の活動にはしっかりした財政基盤が必要だということを痛感していて、今後ますます強固な組織づくりが重要になるのだろうと思っている。
 「NBS疾風録」は3月いっぱいで完成する予定だ。ページをめくっていただくと、NBSが担ってきたのは我が国の舞台芸術史のほんの一部にすぎないにしても、1980年代と90年代半ばまでのオペラ・バレエの黄金時代が鮮やかに蘇ってくるはずだ。長い間、NBSをご支援くださっている方々には、ぜひこの「NBS疾風録」を手に取り追懐にひたっていただきたい。アフター・コロナには、日はまた昇り、あの黄金の日々が戻ってくることを切に願っている。

※「NBS疾風録」の関連情報は下記よりご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/webmagazine/information/20220202-06.html

 

髙橋 典夫 NBS専務理事