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2020/09/02(水)Vol.405

パリ・オペラ座バレエ団エトワール
ジェルマン・ルーヴェ インタビュー
2020/09/02(水)
2020年09月02日号
ダンサーズ・トピックス
特集

パリ・オペラ座バレエ団エトワール
ジェルマン・ルーヴェ インタビュー

「王子という、現実にはほぼ存在しない身分の役柄であったとしても、自然である必要があると思います」

今夏〈バレエ・スプリーム2020〉での来日こそ叶わなかったものの、オンライン トーク・イベントでは元気な顔を見せてくれたパリ・オペラ座の人気若手エトワール、ジェルマン・ルーヴェ。
2020年2月、3月に開催されたパリ・オペラ座バレエ団日本公演で、『ジゼル』『オネーギン』という二つのプログラムで客席を魅了したのは言うまでもない。両作品への思いやオペラ座の魅力について話を聞いた。

ーーエトワールに任命されて3年が経ちました。

ジェルマン・ルーヴェ:3年の間に様々な役柄を踊る機会をもらい、新しい出会いもあった。間違いなく成長していると思うし、成熟につながったと思います。

ーー今年の日本公演で演じた『ジゼル』のアルブレヒト、『オネーギン』のレンスキーも、新たに取り組んだ役柄ですね。

ルーヴェ:アルブレヒトは(日本公演の)3週間前に、オペラ座で初めて踊ったばかり! この役は僕にとっての夢でした。表現すべきことがたくさんある、掘り下げがいのある役柄です。『オネーギン』のレンスキーは2年前に初めて踊りました。レンスキーは若い頃のオネーギンとは対照的な存在で、彼にとって理想の姿。とても美しい役です。

レンスキーを踊るルーヴェ
Photo: Kiyonori Hasegawa

ーー3年前は、〈バレエ・スプリーム〉公演にも出演、英国ロイヤル・バレエ団のメンバーたちと競演しました。

ルーヴェ:とても素敵な時間でした。彼らの演技から学ぶことも多かった。ロイヤルとオペラ座にはスタイルの違いはあるけれど、私たちは結構似ているのではないかな、とも。ダンサーであれば誰もが共有しているものがあるし、レパートリーにも近いものがある。でも、あえて「オペラ座らしさ」をあげるとすれば、エレガンス、整然さ、精密さ、動きのわずかな機微を重視するところでしょうか。

ーー今夏の日本での公演に向けて、元エトワールのフロランス・クレールのもとでリハーサルをするそうですね。

ルーヴェ:ヌレエフ版の『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥなどを練習していました。ミラノ・スカラ座でこの作品をスヴェトラーナ・ザハロワと踊った時も、リハーサルをしてくれたのは彼女です! このパ・ド・ドゥはプティパを踏襲している部分が大きいけれど、ヴァリエーションとコーダには、たとえばアチチュードをしながら腕のポジションを変化させるなど、彼らしいボキャブラリーが散りばめられています。

ーーオペラ座のいまの若い世代のダンサーたちにとって、ヌレエフはどんな存在ですか。

ルーヴェ:伝説的な人です。実は、僕が生まれた1993年というのは、ヌレエフが亡くなった年なんです! ヌレエフ自身、芸術の一時代を象徴しているといってもいいかもしれない。ある部分では、当時の社会を象徴しているとも。50年代~70年代の社会は、芸術面で開放的な空気にあふれ、世相も自由でした。一方で、冷戦という背景もその一部。彼は自由を求めて西ヨーロッパに亡命するにあたり、大いに傷つき、苦しんでいたのです。

ジェルマン・ルーヴェ
Photo: Yuji Namba

ーー『眠り』をはじめとする王子役については、どんな思いで取り組んでいますか。

ルーヴェ:何かを演じる時には、その役にフィットするよう取り組むけれど、王子のような、現代にはほぼ存在しない身分の役であったとしても、自然である必要があると思います。お客さんがその役を理解して、自己を投影できるように。そして、観客とダンサーの間につながりを築き、心情の行来ができる余地を作り出すために──。

日本公演で多くの人を魅了したレオノール・ボラックとのパートナーシップについて尋ねると、「特別なことはないよ。いつも二人、自然体でいるだけ!」と笑うルーヴェ。日本での次の舞台が待ち遠しい。

ジェルマン・ルーヴェ Germain Louvet


2011年にパリ・オペラ座バレエ団に入団。2016年12月28日、ジークフリート王子を演じたヌレエフ振付「白鳥の湖」終演後に、エトワールに任命された。実は2017年1月にはプルミエ・ダンスールに上がることが決定していたが、スジェからの飛び級任命。マチュー・ガニオ以来の快挙となった。以来、レパートリーを増やし、パリ・オペラ座エトワールとして活躍を続けている。

エトワール任命のときの模様はパリ・オペラ座ホームページでも紹介されています。