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NBS日本舞台芸術振興会
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2021/03/17(水)Vol.418

春だから・・・
『パルジファル』の扉を開けよう
2021/03/17(水)
2021年03月17日号
オペラはなにがおもしろい
特集

春だから・・・
『パルジファル』の扉を開けよう

オペラを楽しみたい方のために、1回1作品をご紹介します。音楽評論家、堀内修さんが選ぶ3つの扉から、オペラの世界へお進みください。

ざっくり、こんな作品

  • 神聖にして深遠なワーグナー最後の作品は、聴く者を夢の国へと誘う魔法のオペラでもある。
  • 傷ついた聖杯王の苦しみを呆然と見ているだけだったパルジファルだが、謎の美女のキスで目覚めた。共に悩む力を得たパルジファルは王を救い、聖杯の輝きを取り戻す。
  • リヒャルト・ワーグナー作詞・作曲/全3幕/1882年、ドイツ・バイロイト初演

酔う


森にやってきたパルジファルは、聖杯の騎士グルネマンツに連れられて、聖杯の城へ向かう。神聖な場所だから誰でも行けるわけじゃない。でも『パルジファル』を聴く者は行ける。火星旅行もかなわない魔法の旅が始まる。魔術師ワーグナーがオーケストラの技の限りを尽くした響きは圧倒的で、「時間が空間になる」不思議な世界に入ってしまう。 この摩訶不思議な旅は、第1幕と第3幕*で体験できる。

*いずれも5分以上の聖杯の城への旅。上演の場合、舞台上には森から城への動きを表す転換や工夫が行われる場合もあるが、不思議体験は聴くことで!

驚く


劇的な力が最も強く働くのは、なんといっても第2幕の、謎の美女のキスだ。悪の魔術師が出現させた魔法の庭で、花の乙女たちを従える美女クンドリにキスされた時、パルジファルは目覚め、共に悩む力*を得る。そして傷ついた聖杯王アムフォルタスの名を叫ぶ。この時『パルジファル』のドラマが音を立てて動く。聴く者にだって、共に悩む心が目覚めないとは限らない。もし王の傷の痛みを痛いと感じられたら、オペラの聴き方を会得したことになるのではないだろうか。

*王の傷を治すのは共に悩む心を得るけがれのない愚か者だと予言されていた。

苦しむ王に無反応だった愚か者パルジファルを目覚めさせるのは謎の美女クンドリの誘惑だった。
[ウィーン国立歌劇場1989年日本公演『パルジファル』第2幕より]
Photo: Kiyonori Hasegawa

この人を聴け


『パルジファル』の最も美しい場面は、第3幕の「聖金曜日の音楽」だろう。歌うのはソプラノでもテノールでもなく、バリトンですらないバスの老騎士グルネマンツだ。ドラマの主役と呼ぶわけにはいかないけれど、音楽的にはまちがいなく主役級だ。おジイさんの声とこの上なく清らかで美しい音楽に浸るのが、『パルジファル』の醍醐味ではないか。

鍵言葉キーワード

聖杯 主の血を受けた杯は「インディ・ジョーンズ」でもおなじみだ。聖杯の城で護られている。
聖槍 十字架上の主を傷つけた聖槍も、聖杯の城で護られていたが、魔法使いに奪われる。
聖金曜日 復活祭前の金曜日で、この日パルジファルが聖槍を取り戻して聖杯の城に向かう。
聖杯の儀式 聖杯の覆いを取る儀式が、王を騎士たちによってとり行われる。

監修:堀内修