2026/01/07(水)Vol.533
| 2026/01/07(水) | |
| 2026年01月07日号 | |
| オペラはなにがおもしろい 特集 |
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| オペラ |
オペラを楽しみたい方のために、1回1作品をご紹介します。音楽評論家堀内修さんが選ぶ3つの扉から、オペラの世界へお進みください。
聴いてびっくり 訴えられた罪を晴らすには、自分のために戦う戦士を指名しなければならない。追いつめられたエルザは、いぶかしがる人々に夢の話を始めた。現実離れした話は、エルザの歌とともに不思議な恍惚感を帯び始める。夢に現れる騎士は、まさに若い女性の夢の世界の人物なのだが、その騎士の姿が歌と管弦楽の高まりとともにくっきりとした像を結び始める。まさか? 王も居並ぶ人々も、夢に出てきた騎士など信じる気にはなれない。だがエルザの歌と魔法のような管弦楽は、聴く者に夢の騎士を信じさせ、その登場をいまかいまかと待ち望むようにさせてしまう。
繰り返される呼び出しに沈黙と暗い気分が答える。だがエルザの祈りがついに奇跡を起こす。期待がついに実現する奇跡の瞬間を、劇場中が体験する、というよりまるで聴く者を含めた人々の願望が奇跡を生んだかのように感じられる。白鳥の曳く小舟に乗った騎士が姿を現す。今日の上演では騎士が輝く武具に身を固めていることはまずないが、管弦楽は騎士のまとった白銀の鎧の輝きを必ず響かせる。
(第1幕、「エルザの夢」とそれに続くローエングリンの登場)
見てびっくり エルザは尋ねてしまった。幸福な時は始まったと同時に終わってしまった。王や集まった人々の前で騎士が隠されていた事実を語り始める。騎士は聖杯を護るモンサルヴァートの城からやってきた、聖杯の王パルツィヴァルの子ローエングリンだった。もし許されれば1年のあいだエルザと幸福に暮らせたはずだった。オルトルートの魔法によって白鳥の姿に変えられていたエルザの弟も無事に元の姿で戻ってくるはずだった。だがエルザが禁じられた問いを口にした以上、ローエングリンはエルザをおいて、聖杯の城へ帰らなければならなくなった。
ローエングリンが名乗りの歌を歌い終え、別れが始まる。エルザの弟は魔法が解け、白鳥から元の姿に戻り、ローエングリンから後を託される。ブラバント公となって王に協力するだろう。だが定めによってローエングリンはいますぐ、愛するエルザのもとを去って聖杯の城に戻らなければならない。。小舟は今度は鳩が引いて城へと向かうだろう。残されたエルザは悲しみのあまりその場に倒れ伏す。
(第3幕、ローエングリン「名乗りの歌」と別れの場)
この歌を聴け 第2幕の後半、婚礼を終えたエルザと騎士、そして王たちの行列がブラバントの人々に歓呼して迎えられているところに邪魔が入った。テルラムントとその妻オルトルートだ。2人は名も知れぬ騎士があやしいと王たちにつめよる。合唱も加わった大アンサンブルが繰り広げられるのだが、これが聴きものだ。登場人物それぞれが思いのたけを歌い、それがひとつになる。テルラムントとオルトルートは打ち負かされるのだが、愛する者の名前や素性を知りたいというエルザの願いは高まり、それを知った白鳥の騎士は不安を覚える。ここはドラマが止まった声の饗宴であると同時に、悲劇の導火線に火が付けられる場面でもある。
結婚を祝う音楽として単独でも演奏される第3幕への前奏曲が終わって幕が開くと、よく知られた「婚礼の合唱」が始まる。婚礼を終えたエルザと白鳥の騎士を新婚の床へと導く清らかな歌で、合唱あるいは女声のアンサンブルとして歌われる。新婚の祝いにふさわしい歌で、広く歌われている。ただし歌が終わって一同が去ると、エルザと騎士が残され、悲劇が始まることになる。
| ロマン的 オペラ |
『ローエングリン』は「ロマン的オペラ」と名付けられている。 |
| ドレスデン | ドレスデンの宮廷楽長時代のワーグナーが作った。作曲した「ローエングリンハウス」は記念館となっている。 |
| 亡命者 ワーグナー |
完成後すぐワーグナーは1848年の革命に加わり、逃げて亡命した。 |
| 作者のいない 初演 |
ヴァイマールでワーグナーの友人フランツ・リストが指揮して『ローエングリン』を初演した。ワーグナー自身はドイツに入れず、スイスにいて上演に参加できなかった。 |
| 聖杯城 | 最後の晩餐で使われたとも十字架上のキリストの血を受けたともいう聖杯には神秘的な力があるとされる。この聖杯を護る城がモンサルヴァートで、この城の王がローエングリンの父パルツィヴァルだ。 |
| パル ツィヴァル |
のちにワーグナーは『パルジファル』を作る。この時名称は変えられてパルジファルになった。 |
| アント ヴェルペン |
舞台となるのはアントヴェルペン(アントワープ)近くのシェルデ川(スヘルデ川)の畔なのだが、現在オペラの雰囲気はない。 |
| 王 | 登場するドイツ王はハインリヒ1世で10世紀ごろが想定されている。 |
| 魔法使い | 敵役というべきオルトルートは魔法使いで、キリスト教が広まる前のゲルマンの神々を崇めている。 |
| 白鳥 | エルザの弟ゴットフリートはオルトルートの魔法で白鳥に変えられ、その白鳥がローエングリンの小舟を曳いてやってきた。 |
| ルートヴィヒ 2世 |
『ローエングリン』に夢中になったのがワーグナーのパトロンになったバイエルン王ルートヴィヒ2世で、アルプスに白鳥城(ノイシュヴァンシュタイン城)を建てた。 |
| ローエン グリンの間 |
ノイシュヴァンシュタイン城にはこのオペラの場面が描かれた「ローエングリンの間」がある。 |
| 悲劇 | 『ローエングリン』は悲劇だ。登場人物に救いはもたらされない。 |
監修:堀内修