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NBS日本舞台芸術振興会
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NEW2026/06/03(水)Vol.543

ワーグナー:《ニーベルングの指環》全曲初演150周年 
第2夜『ジークフリート』
2026/06/03(水)
2026年06月03日号
オペラはなにがおもしろい
特集

ワーグナー:《ニーベルングの指環》全曲初演150周年 
第2夜『ジークフリート』

オペラを楽しみたい方のために、1回1作品をご紹介します。音楽評論家堀内修さんが選ぶ3つの扉から、オペラの世界へお進みください。
今年は1876年にドイツのバイロイト祝祭劇場で《ニーベルングの指環》4部作が世界で初めて全曲初演されてから、ちょうど150周年にあたります。4夜を連続でご紹介していきます。

剣を鍛え上げ、竜を退治して指環と宝物を手に入れると、眠れる美女を起こして愛を育む。英雄の物語が幕を開ける。

ざっくり、こんな作品

  • 『ワルキューレ』の第3幕で森に逃れたジークリンデが子を産んで亡くなった。ニーベルング族のミーメがその子を育てたのは、指環を奪うのに役立てるためだった。だが育ったジークフリートはミーメの言うなりになるどころか、折れたままだった剣ノートゥングを鍛え上げると、「怖れ」を知るために出かけていってしまった。若者が森の洞窟で出くわしたのが、竜に姿を変えてニーベルングの宝と指環を護る巨人ファフナーだ。ジークフリートはノートゥングを振るってファフナーを倒したが、怖れは得られない。そのかわり宝と指環を手に入れ、口にした竜の血の効果で鳥の声の意味がわかるようになる。おかげでその殺意を知ってミーメを殺すと、ジークフリートは鳥の声に導かれ、火に守られてブリュンヒルデが眠る岩山へと向かった。阻もうとする「さすらい人」(主神ヴォータンの地上での姿)の、神聖な契約の文字が刻まれた槍を二つに折って進む。燃え盛る火を超え、ジークフリートは眠るブリュンヒルデを見出し、その姿に初めて怖れを知ったジークフリートはキスによってブリュンヒルデを目覚めさせ、2人は愛で結ばれることになった。
  • ワーグナー作詞・作曲 1876年バイロイト音楽祭初演 ドイツ語/全3幕

聴いてびっくり


ついに待ち望んだ時がきた。ブリュンヒルデが目覚める。ワーグナー好き《指環》好きなら誰もが胸をときめかせる瞬間だ。武装して眠るブリュンヒルデを見つけたジークフリートは、その武装を解いて驚き、初めて怖れを抱く。意を決して口づけしてからブリュンヒルデが目覚めるまでは、決して短くない。だがワーグナーはここに驚くべき期待の音楽を響かせる。目覚めの音楽のなんと清々しいことだろう。《ニーベルングの指環》のヒロインが目覚めて「太陽に祝福を!」と歌う時、待ち望んだ者は誰だって陶然とするはずだ。そしてブリュンヒルデとジークフリートの愛の歌が始まる。時にためらい、時に落胆しつつ、2人の気持ちは高まり、愛が深まっていく。大悲劇作家ワーグナーは、3部作の第2夜を曇ることのない幸福でしめくくる。たとえ2人を暗い運命が待ち受けているとしても、英雄譚『ジークフリート』第3幕で味わう至福は色あせることがない。

見てびっくり


《指環》きってのスペクタクルといえば第2幕の、ジークフリートの竜退治だろう。序夜『ラインの黄金』で指環と宝物を手に入れた巨人ファフナーが、隠れ頭巾によって竜(大蛇)に変身し、洞窟で宝を守っている。ジークフリートがこの竜を殺して指環と宝を手に入れる場面だ。ドイツの英雄伝説がワーグナーによって舞台に出現し、目で見て、音で聴いて味わえるようになった。倒すべきファフナーは恐ろし気だが、死ぬ時には人の好い?ところを示す。
ファフナーの血をなめて鳥の声がわかるようになったジークフリートに、森の小鳥が語りかける。長く聴けなかった女声の登場だ。竜退治前、森でまどろむジークフリートに、鳥は木管の響きで語っていた。だがここに至って聴く者もジークフリート同様に、鳥が何を歌っているのかを聴きとることができるようになっている。高いソプラノによる小鳥の声はジークフリートにも聴衆にも心地よい。鳥の声を聴いて眠るブリュンヒルデの姿を思い描き、導かれて火の燃える岩山へと向かうのは、この上なく嬉しい、わくわくする体験ではないだろうか。
だが第3幕でジークフリートがまず遭遇するのは美女でなく、手強い神だ。行く手を阻もうとさすらい人、つまりヴォータンが槍を突き出す。その槍をジークフリートが真っ二つに折るのは、めざましい場面でないとしても、重要な場面だ。槍には神聖なルーネ文字で契約が刻まれていて、神々による世界の支配を象徴している。ここでその槍が折られ、神々の支配が終わる。舞台の真ん中で活躍してきたヴォータンも、去る。

『ジークフリート』
(ベルリン・ドイツ・オペラ1987年日本公演より)
Photo: Kiyotane Hayashi

この歌を聴け


それまで乱暴な少年や狡猾な侏儒に喜んで付き合っていたとしても、ジークフリートが剣の破片を取り出すと、つい「いよいよだな」と喜んでしまう。そう、「鍛治の歌」の始まりだ。長い第1幕が頂点を迎えようとしている。ノートゥング再生は、念入りに描かれる。剣のかけらを溶かし、さましてからそれを叩いて鍛え上げ、剣は『ワルキューレ』第1幕でジークムントが大木から引き抜いた時の輝きを取り戻す。金床を叩く音は、日常ならうるさい騒音だが、ここでは力強い音楽になる。剣を手に入れた英雄が生まれて第1幕が終わる。

鍵言葉キーワード

英雄譚 ゲルマンの伝説をもとにした英雄譚で、主人公ジークフリートの名も、伝説に由来する。
怖れ ジークフリートは怖れを知らない。怖れを求めて冒険に出かけ、女性=ブリュンヒルデを見て、怖れを知る。
両親 父はジークムント、母はジークリンデで、『ジークフリート』の時両親はすでにない。祖父:両親は兄妹なので、祖父はひとり、ヴォータンだ。主神ヴォータンはさすらい人としてこの作品に登場する。
さすらい人
の対話
前作までドラマの中心にいたヴォータンは、身を引いてからもっぱら対話に励む。第1幕ではミーメ、第2幕ではアルベリヒ、第3幕ではエルダ、そしてジークフリートと対決する。
森の出来事 物語は森の中でくり広げられる。ミーメの住まいから竜の洞窟の前。さらに火の燃える岩山へと移っていく。
ノートゥング 作ったヴォータン自身が打ち砕き、ジークフリートが再生させた剣は、ファフナー退治に役立った。
大蛇と呼ぶべきか。巨人ファフナーが隠れ頭巾で姿を変えている。
動物たち 竜以外にも動物たちが出てきて活躍する。第1幕でジークフリートが連れて歩くのは熊で、第2幕では小鳥がジークフリートにいろいろ教える。第3幕でブリュンヒルデと一緒に目覚めるのは愛馬グラーネだ。熊とグラーネは歌わない。
男声優位 第2幕も半ばを過ぎてから小鳥が歌い出すまで女声は聴こえない。『ジークフリート』は男声がちなオペラだ。
悪役たち アルベリヒとミーメの兄弟もファフナーも、善良とはいえない。ミーメはせっかくジークフリートを育てるが、動機が不純で、あっさり殺されてしまう。
中断 ワーグナーはこの作品を完成させないまま中断し、『トリスタンとイゾルデ』と『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を作る。
ヒーローと
ヒロイン
第3幕で《指環》のヒーローとヒロインが出会う。ドイツ・オペラのドラマティック・ソプラノとドラマティック・テノールの最高峰の顔合わせの誕生だ。
ハッピー・
エンド
至福の時が訪れて全曲の幕が降りる。ハッピー・エンドの極致のあとには愛が裏切られ、世界が炎上する『神々の黄昏』が待っている。

監修:堀内修