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NBS日本舞台芸術振興会
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2026/10/07(水)Vol.551

ジョルダーノ:『フェドーラ』
2026/10/07(水)
2026年10月07日号
オペラはなにがおもしろい
特集

ジョルダーノ:『フェドーラ』

オペラを楽しみたい方のために、1回1作品をご紹介します。音楽評論家堀内修さんが選ぶ3つの扉から、オペラの世界へお進みください。

恋人の家族を滅ぼした真犯人は誰だ? フェドーラがそれを知った時、悲劇が幕をおろす

ざっくり、こんな話

  • 物語は殺人事件で始まる。婚礼を翌日に控えたロシアの皇女フェドーラの婚約者が殺害されたのだ。逃亡した犯人と目される男を追って、フェドーラはペテルブルクからパリに向かった。証拠を掴むため、フェドーラはその男ロリスに近づく。ようやく自白を引き出せたと思ったフェドーラは、関係者を捕まえるよう指令をロシアに送った。2人が熱い恋に落ちたのはその直後だった。もう指令は取り消せない。
    スイスの美しい湖畔の館で、2人は暮らし始めた。そしてロリスの行動が、卑劣な男だったフェドーラの婚約者を罰するためだったのがわかる。だがロシアからの報告で母と兄の死を知ったロリスが、残酷な指示を出した「パリの女」が誰なのか追求した時、フェドーラは死を決意する。すべてを打ち明け、フェドーラはロリスの腕の中で息を引き取った。
  • ジョルダーノ作曲 コラウッティ作詞 全3幕、イタリア語/1898年、ミラノ、テアトロ・リリコ初演

聴いてびっくり


彼は真犯人を知ってしまうだろうか? 愛する人は真相を知っても自分を赦してくれるだろうか? もし赦さなかったら自分はどうしたらいいのだろう?
愛するロリスと美しい湖畔の館で幸福の絶頂を味わっていたフェドーラの運命が突然変わる。不安にさいなまれる。いやその程度では済まない。生きていられるか死ぬべきか、フェドーラはぎりぎりまで追いつめられる。『フェドーラ』第3幕が幕切れに向かって加速して、いよいよオペラは悲劇の様相を露わにしていく。同時にフェドーラがこの悲劇のヒロインとしての全容を現わす。情熱的な愛と不安が入り混った歌が、次第に緊迫の度を増していく。『フェドーラ』はタイトル・ロールが中心のオペラなのだが、その成否は最終場面にかかっている。変化していく気持ちを歌わなければならないし、演技力だって舞台女優の力を発揮しなければならない。フェドーラとロリスの前には毒入りの紅茶がある。やはり飲むほかないのか?
ジョルダーノは演劇のクライマックスを見事にオペラのクライマックスに仕立てた。聴く者は、たとえヒロインが毒をあおり、恋人に抱かれて死んでいくのがよくわかっていても、手に汗握る。

見てびっくり


第1幕があいてすぐ、婚約者の伯爵邸を訪ねたフェドーラは落ち着いている。明日は結婚式だというのにまだ帰宅してないなんておかしい。ちょっと疑問に思う程度だ。だが重傷を負った伯爵が運び込まれると、ミステリ・オペラとも呼ぶべき『フェドーラ』の本領が発揮される。殺人事件の緊張感が漂い出す。もっともフェドーラが復讐を誓って歌う場面では、まだ傷害事件のままだ。「母の形見の十字架にかけて」と決意を歌う歌からは、何かあったらただではおかない、というフェドーラの激しさと、生まれ持った権力者の素姓が、聴く者に伝わってくる。犯人はあいつに違いない。証言から割り出せた。逃げても、婚約者にもしものことがあったら皇女フェドーラがただではおかないだろう。そして、まるで歌の激しさに呼応するように、伯爵が息を引き取る。
第1幕の幕がおりて、犯人を追いつめる物語になりそうだが、オペラはそれでは終わらない。フェドーラのこのアリアは、ミステリの幕あけを告げる歌だった。

この歌を聴け


『フェドーラ』の主役はもちろんフェドーラで、いくつもいい歌があるし、名場面もある。これはソプラノのスターあってのオペラだ。それなのに、最も人気があるアリアを1つだけ挙げるなら、第2幕でテノールが歌う「愛は君に愛さないことを禁じる」ではないか。パリのフェドーラのサロンで、相手が犯罪の尻尾を掴もうとして自分に近づいているとは知らず、ロリスがフェドーラに熱烈な愛の告白をする歌だ。短いけれど非常に情熱的な歌で、初演で伝説的なテノール、エンリコ・カルーソーが歌って以来、テノールのスターの腕の見せ所になっている。何しろこれはヒロインがそれまで敵としか思っていなかった相手を恋するきっかけになる歌なのだ。華やかなパリのサロンで、正体を知らないまま恋をする男と、好意のかけらもない男に魅了されるようになる女の関係は実にスリリングで、アリアだけでなく、その前後も、このオペラの聴きどころになっている。

鍵言葉キーワード

サルドゥーの芝居世紀末パリの人気作家だったヴィクトリアン・サルドゥーのヒット作が原作だった。
女優のドラマ1882年に初演された芝居でフェドーラを演じたのは名女優サラ・ベルナールだった。
オペラ化このヒット作の舞台を観て夢中になった音楽家ジョルダーノがオペラ化を申し入れるが、サルドゥーは即答しなかった。
ジョルダーノウンベルト・ジョルダーノが『アンドレア・シェニエ』で大成功して、一躍人気オペラ作家になってすぐ、サルドゥーは求めに応じる。『フェドーラ』のオペラ化が進行する。
大成功ミラノでのオペラ『フェドーラ』初演は大成功を収める。充実したメンバーによる上演だったからでもあった。
ベリンチョーニ初演でフェドーラを歌ったジェンマ・ベリンチョーニはヴェルディも認めた当時の名ソプラノだった。
カルーソーまだ若いテノールがロリスの役で大評判になる。伝説的な歌手エンリコ・カルーソーだった。
保守的なオペラ19世紀末としても『フェドーラ』はなじみ易い保守的なオペラだった。だが異様な緊迫感や第2幕でのピアノ導入など新しい試みもある。
ピアノ第2幕、パリのフェドーラのサロンには「有名なピアニスト」も登場し、実際に演奏する。
ミステリ・オペラ第1幕での殺人事件から犯人捜しまで、このオペラはスリリングなミステリ・オペラの性格を持っている。
犯人犯人は2人いる。フェドーラの婚約者を殺した犯人はロリスだった。ロリスの母と兄に死をもたらした犯人「パリの密告者」はフェドーラだ。
観光オペラ第1幕の舞台はロシアのサンクトペテルブルク、第2幕はパリ、第3幕はスイスの美しい湖畔だ。『フェドーラ』は観光地めぐりのオペラでもある。
豪華な舞台ヒロインはロシアの皇女で、出てくる3つの邸はどこも豪華にしつらえられている。
豪華な感情このオペラで最も豪華なのはフェドーラの感情だろう。憎悪も愛も思い切り激しい。

監修:堀内修