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Photo: Yuji Namba

2021/07/21(水)Vol.426

第16回世界バレエフェスティバル
特別インタビュー(4)ユーゴ・マルシャン
2021/07/21(水)
2021年07月21日号
バレエ
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第16回世界バレエフェスティバル

Photo: Yuji Namba

第16回世界バレエフェスティバル
特別インタビュー(4)ユーゴ・マルシャン

〈世界バレエフェスティバル〉出演ダンサーのインタビュー・シリーズ4回目はパリ・オペラ座バレエ団のユーゴ・マルシャン。入団10年となるいま、ダンサーとしての活躍のほか、さまざまな活動に意欲的に取り組み、〈世界バレエフェスティバル〉初参加を控えた彼に、パリ在住の大村真理子さんがインタビュー。

「"第3幕の寝室のパ・ド・ドゥ"は、僕たちの気分やコンディションが大きく作用する振付なので、4公演それぞれ違ったものになると思います」

ユーゴ・マルシャンとドロテ・ジルベールがオペラ・バスチーユで踊った『ロミオとジュリエット』は、カーテンコールで3公演ともスタンディングオベーションに迎えられたことは日本のバレエファンの耳まで届いているのではないだろうか。この夏、ユーゴは〈世界バレエフェスティバル〉に初参加する。パートナーはドロテ・ジルベールである。踊る演目の1つに、彼らはこの『ロミオとジュリエット』の第3幕から寝室のパ・ド・ドゥを選んだ。

「アクロバット的な要素が強いけれど、とても美しいものですよ。踊られることの多い"バルコニーのパ・ド・ドゥ"で見せる無垢、新鮮さから一転し、こちらでは二人にのしかかる状況の重みや愛の絶望といったものが身体の動きに込められています。僕たちの気分やコンディションが大きく作用する振付なので、4公演それぞれ違ったものになるように思います。ドロテと僕は一緒に踊ることに大きな喜びを常に得ていて、昨年の来日公演の『オネーギン』でも''日本の観客にも受け入れられた''と感じることができました。二人が初めて組んだ作品は『マノン』です。もう6年も前のこと。時間が経つのがはやいですね。彼女との間にはとても自然に強い関係が築かれたんです。そうなるには他のダンサーとはとても時間がかかるものなのだけど......。彼女とは言葉がいりません。ダンスに対して、毎日の仕事について同じビジョンを持っているからでしょう」

ドロテとのこうしたパートナーシップも含め、自分の9歳からのダンス人生を彼は今年の2月に出版された『Danser』で語っている。キャリア半ばでの自叙伝というのは珍しく、彼も出版社から提案されたときに驚き、長いこと迷ったそうだ。信頼できる小説家・ジャーナリストのキャロリーヌ・ドゥ・ボディナと共著ならということで引き受け、準備に3年をかけた。

「その間何度も彼女と会って、話し、思い出を語り......僕のそれまでの人生、職業的経歴を振り返る中で、当時の感情が蘇ってきて、涙が溢れてしまうこともよくありました。その時の自分のリアクションも戻ってきて、笑いもあれば、怒りもあって。セラピー的で興味深い仕事でしたね。新型コロナで絶望的な状況下、夢の発見、夢の実現を語る本なので希望を感じさせるからでしょうか、フランスのさまざまなメディアにとりあげられたんですよ」

Photo: Yuji Namba

コロナ禍の辛さと"サバイバル法"

彼がオペラ座バレエ団に17歳のときに入団したのは2011年。この秋で10周年となるのだが、その中で昨年のフランスの外出制限期間は最悪な時期だったと語る。パリを離れて自然に囲まれて過ごせたものの、踊れない状況が不幸せに感じられ、苦労しつつ体調維持のためスポーツに励み、エネルギーの放出のためにひたすら走っていたそうだ。これは彼なりのサバイバル法だったのだろう。

「この間何もしなかったら舞台には戻れませんからね。結果として進歩があったけれど、人との出会いもなく精神的には本当に辛い時期だった。その後、オペラ座のプロセニアム公演で『 ダンス組曲』を踊って、幸福感を味わうことができました。ステージは少し狭かったけど、観客を前にステージで踊れたのですから、それに文句を言う気はありません。素晴らしいチェロ奏者のオフェリー・ガイヤールとステージ上で、まるで夢かと錯覚するような時間を過ごせて。一種スピリチュアルな出会いだったといえます」

今年に入ってから、ユーゴは2つの作品に初役で挑んだ。『ル・パルク』は無観客の舞台の上、振付けたアンジュラン・プレルジョカージュと一緒に仕事をする時間がほとんどなかったので、あまり興味をいだけなかったようだ。一方、『若者と死』は劇場再開後のガルニエ宮で観客を前に踊ることができたし、踊りたいと思っていた作品である。

「これはバリシニコフのはもちろん、いろいろなダンサーの映像をみてリサーチしました。芸術面はその日のバイタリティからくるので、毎回異なる物語となったと思います。踊るたびに大きな喜びを感じることができる作品です」

「若者の死」(ローラ・エケと)
Photo: Ann Ray/OnP

忙しいオペラ座の仕事の合間を縫って、4年くらい前からWhat Dance Can Doという団体のための活動を彼は続けている。最近も『ラ・バヤデール』の煌びやかなコスチュームをつけて、ドロテと一緒にパリ市内のネケール病院の子ども病棟を訪問した。バレエに興味を持つ子もいれば持たない子もいる。ちょっとした微笑みをもらえたら、それだけで感動があるという。

「芸術は人々の心を動かします。感嘆し、夢をみて日常から脱出。これがないのは不幸なことです。文化というのはメンタルヘルスを救います。ダンスもそれに寄与しているんですね」

こう語るユーゴ。久々に日本の観客と再会し、映像を通じてしか知らない世界中のダンサーたちとフィジカルかつヒューマンに出会える機会! と、来月に迫ったフェスティバルでの来日を楽しみにしている。

大村真理子(在パリ フリーエディター)

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第16回世界バレエフェスティバル

公演日

Aプログラム

8月13日(金)14:00
8月14日(土)14:00
8月15日(日)14:00
8月16日(月)14:00

Bプログラム

8月19日(木)14:00
8月20日(金)14:00
8月21日(土)14:00
8月22日(日)14:00

予定されるプログラム

*プログラム内容の詳細は公式サイトをご覧ください。

指揮:ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:菊池洋子

7月12日(月)から8月22日(日)まで、政府から東京都に対して発令された4度目の緊急事態宣言を受け、本公演は現在販売を見合わせております。詳細はこちらをご覧ください。

また8月25日(水)に予定されていたガラは中止になりました。詳細はこちらをご覧ください。

入場料[税込]

Aプロ、Bプロ
S=¥27,000
A=¥24,000
B=¥21,000
C=¥17,000
D=¥13,000
E=¥ 9,000
U25シート ¥4,500
※2演目セット券あり(S,A,B席)
期間限定発売
※ペア割引あり(S,A,B席)
※親子割引あり(S,A,B席)