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ジョン・ノイマイヤーとマリシア・ハイデ <br>第7回世界バレエフェスティバルより <br>Photo: Kiyonori Hasegawa

2021/08/04(水)Vol.427

第16回世界バレエフェスティバル
アレッサンドラ・フェリとジル・ロマンが踊る「椅子」に注目!
2021/08/04(水)
2021年08月04日号
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バレエ
第16回世界バレエフェスティバル

ジョン・ノイマイヤーとマリシア・ハイデ
第7回世界バレエフェスティバルより
Photo: Kiyonori Hasegawa

第16回世界バレエフェスティバル
アレッサンドラ・フェリとジル・ロマンが踊る「椅子」に注目!

今から40年前、巨匠モーリス・ベジャールがワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』にのせて創作し自ら初演したバレエによる不条理劇「椅子」は、当時21歳のジル・ロマンを圧倒し感動させました。のちに〈世界バレエフェスティバル〉でジョン・ノイマイヤーとマリシア・ハイデが踊って話題となった本作を、今回一緒に踊ろうとロマンを誘ったのはアレッサンドラ・フェリ。奇しくもバレエフェスで引き継がれる名作をライターの實川絢子さんが読み解きます。ロマンとフェリからのメッセージも。

人生とは神によって踊らされ続ける笑劇のようなもの

「椅子」は、劇作家イヨネスコによる同名の戯曲をもとに、ワーグナー作曲『トリスタンとイゾルデ』の「前奏曲」と「愛の死」にモーリス・ベジャールが振付けた長大なパ・ド・ドゥ。95歳の老人と94歳の老婆が、おびただしい数の椅子が運び込まれた舞台で過去を振り返りながら、人生の意味についての重大な発表をするために姿の見えない客を呼び集めるという設定になっているが、彼らを取り巻く状況はどこまでも曖昧ではっきりしない。

老人は、不条理演劇と呼ばれる原作のとりとめのないセリフを時折口にするものの、語れば語るほど言葉の不毛さが暴かれていくようで、それが結果的に舞台上の身体の存在感、表情や動きの一つひとつを際立たせていく。

そして、ベジャール独自の解釈による「椅子」は、ワーグナーの音楽と相まって、年老いたトリスタンとイゾルデのその後の物語のような、どこかセンチメンタルなムードも湛えている。時は残酷なまでに早く過ぎ去り、若き日にトリスタンとイゾルデのように熱く燃え上がったはずの恋は曖昧な記憶の断片となって、ぎこちないリフトに象徴されるような、全く別の形に変わってしまった。そんな失われた〈時〉がもはや決して取り戻せないものであり、人生とは、見えない観客に見つめられる中、神によって踊らされ続ける笑劇のようなものだと気づいた老人に残された道は、それを思い切り笑い飛ばすこと以外にないのだ。

楽園を追放された年老いたアダムとイブのようにも、地球最後の人類のようにも見えるふたりの中には、人の一生におけるあらゆる段階が集約されているようでいて、そのすべてから超越しているような掴みどころのなさがある。そんなふたりを演じることができるのは、戻せない〈時〉の中で必死にもがく人間のどこか滑稽な〈生〉を丸ごと受け入れ、愛おしみ、それが立ち姿に滲み出るようなダンサーだけだろう。

1994年の〈第7回世界バレエフェスティバル〉でマリシア・ハイデとジョン・ノイマイヤーが踊った伝説的な「椅子」を、2021年の今、アレッサンドラ・フェリとジル・ロマンが踊り、またひとつ〈世界バレエフェスティバル〉の歴史を刻もうとしている。踊るとは、見られるとは、生きるとは、老いるとは何か。昨今の舞台芸術業界を象徴するような無人の椅子に囲まれて、これ以上の適役は考えられないふたりが踊る「椅子」はきっと、私たちに再び多くの問いを投げかけてくることだろう。

文:實川絢子(在ロンドン 舞踊ライター)

Message
Photo: BBL / Philippe Pache

「1981年のブラジル公演の際にモーリス・ベジャールは、ローラ・プロエンサと自身のために、イヨネスコ原作に基づく「椅子」を創りました。当時まだ若いダンサーだった私は、ホールの奥に隠れて、この魅惑的なカップルを見ていました。圧倒され、心から感動したことをよく覚えています。同作は数年後に、マリシア・ハイデとジョン・ノイマイヤーという、また別の素晴らしい演者のために改訂されました。アレッサンドラ・フェリが、再演しようと提案してくれたとき、運命であると感じました。ついに私たちが、このどこか滑稽な老夫婦を演じる番が来たのだと......。

世界バレエフェスティバルでアレッサンドラ・フェリとこの作品を演じることを嬉しく、光栄に思います」

ジル・ロマン

Photo: Andrej Uspenski

「『ジゼル』のような過去に踊ったレパートリーを今踊るのは意味がないと思いますし、もう踊りたいとも思いません。過去の自分と常に比較することになってしまいますから。かつての自分と同じにはなりえないのです。だから私は、アーティストである今の自分に訴えかける作品を踊りたいと思っています。私にとって大事なのは、常に前に進み、挑戦していくこと。公演に出たいから踊るのではなく、自分の興味の赴くまま、新しいことに挑戦したいから踊るのです。だからこそ、この素晴らしいモーリスの作品を選びました。この作品は、見られることの意味、そして人生の終わりについて考えさせてくれます。人生と、過去を振り返るふたりについての、力強い作品になっています」

アレッサンドラ・フェリ

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第16回世界バレエフェスティバル

公演日

Aプログラム

8月13日(金)14:00
8月14日(土)14:00
8月15日(日)14:00
8月16日(月)14:00

Bプログラム

8月19日(木)14:00
8月20日(金)14:00
8月21日(土)14:00
8月22日(日)14:00

予定されるプログラム

*プログラム内容の詳細は公式サイトをご覧ください。

指揮:ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:菊池洋子

7月12日(月)から8月31日(火)まで、政府から東京都に対して発令された4度目の緊急事態宣言を受け、本公演は現在販売を見合わせております。詳細はこちらをご覧ください。

また8月25日(水)に予定されていたガラは中止になりました。詳細はこちらをご覧ください。

入場料[税込]

Aプロ、Bプロ
S=¥27,000
A=¥24,000
B=¥21,000
C=¥17,000
D=¥13,000
E=¥ 9,000
U25シート ¥4,500
※2演目セット券あり(S,A,B席)
期間限定発売
※ペア割引あり(S,A,B席)
※親子割引あり(S,A,B席)