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2021/09/01(水)Vol.429

第16回世界バレエフェスティバルを終えて(1)
2021/09/01(水)
2021年09月01日号
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バレエ
第16回世界バレエフェスティバル

第16回世界バレエフェスティバルを終えて(1)

ダンサーとして、アーティストとして、コロナ禍の中で抱いた思い

コロナ禍という状況下で開催された〈第16回世界バレエフェスティバル〉。来場のお客さまからは、いつもの通り、いえ、より一層の感動を味わったという多くの声が寄せられました。ダンサーたちにとっては、来日前後に多くの規制を受けながらの出演となりましたが、全員が〈世界バレエフェスティバル〉の開催と舞台に立てたことへの喜びを口にするとともに、ダンサーとして、アーティストとして、コロナ禍において抱いた思いや考えなども語ってくれました。今号と次号の2回にわたってご紹介します。

Photo: Charles Thompson

マリーヤ・アレクサンドロワ

今回、開催が実現して本当に幸せです。最後まで、開催できるとは誰も信じていませんでした。私たちの隔離期間が終わって、この会場に初めて足を踏み入れるまで、日本側の皆さんでさえ、とても心配されていました。世界で同時に起こっている難しい状況です。だから私は、このバレエフェスティバルが日本で開催できたことを本当に嬉しく思っています。これは使命のようなものだと思うんです。新型コロナウイルス感染症の猛威は、世界の芸術分野に大打撃を与えました。だから日本がこのフェスティバルを開催したこと、お客さまのために開催したことは、何年も経験を積んできたダンサーにとっても、そしていままだ勉強中のダンサーにとっても、非常に大きな意味を持つものでした。それはある種の文化的使命だと思います。

Photo: James Bort

マチュー・ガニオ

僕にとっていつも、このフェスティバルに参加することはとても重要なことです。今回で5回目の参加となるのですが、毎回次回のオファーを楽しみに待っています。世界中の素晴らしいダンサーたちが集まるこのフェスティバルは、ダンスの世界においてもとても重要なものだと思います。
日本に発つ前には可能性について疑問を感じていました。もしオリンピックがうまくいかなかったら、その影響を受けるのだろうかと、常に情報確認をしていましたし、来日のために非常に多くの手続きをしなければなりませんでした。こうして無事出演することができ、心から幸せに感じています。
この公演の素晴らしく、私が大好きな点の一つとして、様々な文化、様々な国のダンサーと出会えることです。2,3週間にわたって、彼らと意見交換をしたり、一緒に食事をしたり、踊りを見たり、たくさんの交流があります。しかし今回は少し違います。終わったらすぐに部屋に戻らなければならないですし、次に再会するまで、また3年待たなければなりません。もっと交流したいのが本音です。
また、衛生上の制約も同様です。外出はできませんし、マスクは常に着用、3日に一度の検査義務など、かなり拘束されてはいますが、最も大切なのは、舞台を作り上げることですし、そこに結果はついてきます。ダンスに大切なのは、観客に成し遂げることができるという希望のメッセージを伝えることだと思います。

Photo: Yuji Namba

オニール八菜

今回は小さい頃から夢に見ていた世界最高峰のフェスティバルに出演することができ、心から嬉しく思っています。ただ、今年は"特別"な年なので隔離期間もありますし、ホテルか劇場にしか行けない生活で、日本の友人と会うことも、気軽に外食することもできず......ですが、重要なのは舞台で踊るということです。
配信のために無観客の舞台で踊った経験もへて、改めて思うことは、どれだけ技術が進化したとしても、アートというのはライブでないとその芸術性が生きてこない面があるということです。生の舞台は毎回違いますし、ライブを通してしか経験できないことがたくさんあります。その経験が成長につながっていくものですので、私たちダンサーにとっても、コロナ禍を通してライブであることの素晴らしさを改めて感じたと言えるのではないでしょうか。だからこそ、こうしてお客さまをお迎えし、きちんとした形で公演ができることが嬉しくてなりません。

Photo: BBL/Philippe Pache

ジル・ロマン

とりわけこのような状況下で、このフェスティバルに参加できたことをとても嬉しく思います。
アーティストだけではなく、観客、全ての人がスペクタクルを心待ちにしていました。ですからここに来られたこと、そして長い間会うことができなかったアーティストたちとの再会、そして新しい出会いにとても大きな喜びを感じています。
私にとってダンスは、分かち合う、観客と共有するということです。言葉を超えて、全ての人に心に届くものですし、感動させることができます。だからこそ私はこの職業を続けていますし、そこに存在する人々と共有したいと思っています。この公演の場で私が伝えたかったことです。
日本で踊ることは私にとってとても大切なことです。日本の観客、日本が大好きですし、若い時からここで踊ってきました。このような難しい状況下でさらに大切だと思うのは、より一層、共有するということ。だからこそ私たちの職業はより一層必要ですし、有用だと感じます。またこのパンデミックは私たちに人間らしくいること、他者の必要性を思い出させてくれました。私たちは一人では生きていけません。分かち合うことが必要です。今この時、生きていく上でとても重要な時だと思っています。

 

ウラジーミル・シクリャローフ

〈世界バレエフェスティバル〉は全てのダンサーが参加できることを願っている最高峰のフェスティバルです。今年はコロナ禍のため、日本に行く許可が正式に降りたのは出発の2週間前というタイミングでした。それまでは本当に日本に行けるのかと不安な日々を過ごしていましたが、無事にこうして来ることができて嬉しく思っています。
今はこの状況なので、皆さまに「ぜひ劇場にお越しください」とは言うことはできません。もし私がダンサーでなかったら、家族や親しい人々が劇場に行くことをきっと止めたと思います。そのくらい、今の状況は深刻です。ですが、僕はダンサーで、中から見ていますから、こうして活動が継続できることに感謝の気持ちしかありません。
そしてこのフェスティバルは、私たちが力を合わせればどんな困難も乗り越えていけると教えてくれたと思います。その一部になれたこと、このように大規模なイベントに参加できたことは本当に光栄です。楽屋で僕たちはお互いに「We did it!」って言い合っているんです。次のフェスティバルが今から楽しみですし、また日本に来てロシアの芸術の一端をお見せしたいと思っています。

Photo: Carlos Quezada

フリーデマン・フォーゲル

空港について、ホテルに移動するまでの間はいつも訪れる日本との違いをそんなに大きくは感じていませんでした。ですがすぐに、様々な規制があり、いつもの日本ではないということに気がつきました。
人類史上、このように芸術活動を完全に停止しなければならなかったのは今回が初めてのことです。なぜならば、戦時中でもなんらかのかたちで芸術は続けられてきたわけですから。この状況下で、確かに活動を止めなければならない瞬間もあり、その後オンライン配信、やがてごく少数のお客さまに向けての公演へと移行しましたが、だからこそ、アーティスト、観客の双方にとっていかに芸術活動が必要であるかを強く実感しました。もちろん、制限は厳密に守らねばなりませんが、芸術が忘れられないために僕たちはどこに行っても踊り続けることが大切だと思っています。今回NBSが、厳格な感染予防対策を講じてフェスティバルを実現してくれた、その努力に感嘆し、心から感謝しています。
一番大事なことは、僕たちアーティストと観客の皆さんが芸術を通し、対話をすることだと思っています。

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