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2020/08/19(水)Vol.404

最新レポート
ウィズ・コロナ時代のベルリン音楽界
2020/08/19(水)
2020年08月19日号
世界の劇場を知ろう
特集

最新レポート
ウィズ・コロナ時代のベルリン音楽界

例年なら、ヨーロッパ各地では夏のフェスティバルが盛んに開催されている時期ですが、今年は事情が異なることはいうまでもありません。今回は、ベルリン在住の音楽評論家 城所孝吉さんに、ベルリンの音楽界事情をご紹介いただきます。秋からの予定も発表されるなど、明るい兆し!?

「閉める期間」の判断から計画的な再開は
ドイツらしい堅実さ

読者の間では、「ベルリンないしドイツでは、演奏会の再開が滞っている」という印象があるかもしれない。ザルツブルク音楽祭が開催されたのに対し、バイロイト音楽祭は中止。イタリアでも、野外オペラ等の上演が行われているが、ドイツでは、目立った動きはまだない。

実はこれは、主催者が及び腰なのではなく、純粋に政治の問題である。つまり公の衛生基準が、オーストリアやイタリアのそれとは違うのだ。厳密に言えば、ドイツ国内でも州によって基準が異なる。ドイツは連邦制なので、文化政策は州の管轄に当たるのである。

この原稿を書いている8月10日現在、ベルリンでは、屋内イベントの観客数上限は、8月末までは500人、9月末までは750人、10月末までは1,000人と決められている。基準の公布以前には、4月の段階で7月31日までのすべての屋内公演が禁止された。その結果、オーケストラ、オペラでは、シーズンを早期に終了する羽目となった。

ベルリン・フィルのホームページより。
来場者に、建物内ではコンサート開始まではマスクを着用することや指定のルートで入場すること、病気の症状のある人、および過去14日以内にCOVID-19患者と接触した人は、フィルハーモニーに入場できないことなどが表示されている。

しかしこれは、劇場側にとってはむしろ良い決定だったように思う。指針を設けなかった場合、「開ける」「開けない」という議論が、毎週のごとく続けられるからである。それならば、一定の期間は閉める判断をして、規則緩和のプランに従って再開した方が、状況に振り回されずに、計画的にリオープンできる。

こうしたなかで7月31日、ベルリン・フィルは、シーズン開幕から10月末までの改定プログラムを発表した。そこでは演奏会の長さが短縮され、オーケストラも規模縮小。休憩はなく、切符の販売枚数は「通常の20~25パーセント」と説明されている。オープニング(8月28日)は、500人のお客さんで行われるが、チケットは定期会員優先で販売するという。

一方オペラでは、ベルリン・ドイツ・オペラが、9月にガラ・コンサートや短縮版オペラ(演奏会形式)を上演する。国立歌劇場では、ベートーヴェンの交響曲全曲演奏会(バレンボイム指揮)のほか、オペラの舞台上演も再開(『ナクソス島のアリアドネ』9月13日初日)。ベルリン国立バレエ団も、ベルリン・ドイツ・オペラと国立歌劇場の両方でガラを催すという(8月27日初日)

興味深いことに国立歌劇場では、観客数が未定の11月以降のチケットも売りに出している。買い方は、昔ながらにウェブサイトやメール、電話で「購入希望」を出すというもの。基準が発表された時点で注文がコンファームされ、発券と支払いが行われる(応募数超過の場合は先着順)。世界中のチケットが即時ネットで買える時代に超アナログだが、これ以外の方法がないのだろう。

いずれにしてもどの団体でも、まだ手探りの状態である。8月中旬には、11月以降の衛生基準が発表されるが、ホールや劇場がより多くの聴衆を受け入れられるかは、今後の感染縮小にかかっている。

城所孝吉(在ベルリン 音楽評論家)