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2020/09/02(水)Vol.405

ダニエル・フロシャウアー氏に聞きました!
今年のザルツブルク音楽祭
2020/09/02(水)
2020年09月02日号
世界の劇場を知ろう
特集

ダニエル・フロシャウアー氏に聞きました!
今年のザルツブルク音楽祭

世界中で劇場閉鎖や夏のフェスティバルの中止を余儀なくされるなか、ザルツブルク音楽祭はかなり早い時点で、期間を短縮し、公演数も減らして開催することを発表しました。厳重な新型コロナ感染症対策をとりながらの開催です。
この音楽祭を担うウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のダニエル・フロシャウアー楽団長が、音楽祭開催中のザルツブルクからメールで答えてくれました。

「私たちはベストなやり方でベストを尽くす。
どうしても、絶対に音楽をしたかったのです」

ーー今年はザルツブルク音楽祭100回を記念する年でしたが、開催決定が危ぶまれました。

フロシャウアー:私たちは、ザルツブルク音楽祭の総責任者(Intendanz)と話し合い、意見を調整しました。音楽祭は大変に良い健康管理施策を提示してくれました。これらによって、ほとんど、奇跡ともいえることが起こった.....。音楽祭が開催できることになったのです。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とザルツブルク音楽祭は、もう98年間の関係があります。ヨーロッパの音楽祭思想を本来の理想とするザルツブルク音楽祭は、私たちウィーン・フィルの基本的理念と一致しています。それ故に私たちはベストなやり方でベストを尽くします。
私たちは、両者の結びつきを誇りに思っています。ウィーン以外でのウィーン・フィルの最初のコンサートは、1877年のザルツブルクだったんですよ。

ーー厳重な感染対策が行われたと聞いていますが、リハーサルや本番で困難なことはありましたか? また、オーケストラの方々は行動などを制限されたのでしょうか?

フロシャウアー:各コンサート群(同じプログラムで複数回が開催される)の初回の前にPCR検査が行われ、私たちが皆、感染していないことが確認されました。
ザルツブルク音楽祭の今回の感染症防止対策には、ウィーン・フィルとしての様々な実験結果に基づく私たちの6月の演奏会指針も取り入れられました。とても感謝しています。
私たちは大変に厳しい規律を設定し、その規律を遵守しています。私たちのプライベートでの接触は最低限に減少させ、公演後は絶対に閉ざされた空間には行かず、全ての公の招待やパーティーを断念しました。
私たちはそれがうまく機能していることを誇りに思っています。

アンドリス・ネルソンス指揮による祝祭大劇場でのコンサート
(8月7日、9日開催)
Photo: Marco Borrelli

ーーザルツブルク音楽祭の今回の新型コロナ感染症対策は、今後の指針としても世界中の劇場やオーケストラ関係者、聴衆が注目していました。実際に、今回の対策をやってみて、良かった点はどのようなところでしょう?

フロシャウアー:定期的なPCR検査、ソーシャル・ディスタンスを取る、できるだけ閉ざされた空間には留まらない、会場にはステージ衣装に着替えてくること、そして祝祭劇場内ではマスクを着用する!
マスク着用は絶対義務ですし、私たちは演奏できるなら、全てを我慢し甘受します。

「客席のムードや雰囲気は尋常ではなかった。
ライヴの音楽を聴きたいという欲求の大きさが現れていましたから」

ーー今年はベートーヴェン生誕250年のメモリアルイヤーでもあり、リッカルド・ムーティ指揮の「第九」もプログラムされました。ウィーン・フィルの皆さんにとって、特別な思いはありますか? 日本では飛沫感染の観点から、合唱が最も問題視されることがありますが、リハーサルや本番はどのようにされたのでしょう? また、ムーティの指揮において、今回特別なことは何かありましたか?

フロシャウアー:ベートーヴェンは、私たちウィーン・フィルのルーツですから、もちろん特別な思いがあります。1824年にベートーヴェンの交響曲第9番はウィーンで初演されましたし、その後それをウィーン・フィルの第3回のコンサートでも演奏しました。
今回、ザルツブルクでは合唱はアクリル板を使いました。ムーティは、ソリストの歌手たちを自分のそばに配置することを望みましたが、その他のアクリル板を立てることは受け入れました。彼もまた、どうしても、絶対に音楽をしたかったのです。

「第九」を指揮するリッカルド・ムーティ
(8月14日、15日、17日開催)
Photo: Marco Borrelli

ーー感染対策により聴衆の数が制限されました。ウィーン・フィルの皆さんにとって、客席に人が少ないというのはとても珍しい体験だったのではないでしょうか。どのように感じられましたか?

フロシャウアー:何人の人々の前でというよりは、とにかく演奏できることが嬉しかったのです。ウィーンではロックダウンの解除後、100人の前でも演奏し、それも素晴らしいと思いました。音楽の体験は常に同じです。観客がどれくらいかは関係なく、それは重要ではありません。

ーー今年は、海外からのお客さんの来訪が困難でした。音楽祭全体の雰囲気は例年とかなり異なるものでしたか? 聴衆の反応はいつもと異なるものでしたか?

フロシャウアー:客席にいたのは、いつもより少ない人たちでした。そしてそのムードや雰囲気はとても尋常でないものでした。それはきっと、ライヴの音楽を聴きたいという欲求の大きさのあらわれだったのだと思っています。

★ザルツブルク音楽祭


第1回開催は1920年。100年前の荒廃したヨーロッパの人々を和解させることを目的とした平和プロジェクトとして、マックス・ラインハルト、リヒャルト・シュトラウスらによって創設された。
今年はザルツブルク音楽祭100周年記念の年として、44日間、16会場で200の公演を予定していたが、30日間、最大8会場で約110の公演を行うことになった。そして今年開催できないプログラムは、2021年夏に延期される。