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NBS日本舞台芸術振興会
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2020/09/16(水)Vol.406

英国ロイヤル・オペラ
ライブ・ストリーミングでシーズン開幕!
2020/09/16(水)
2020年09月16日号
世界の劇場を知ろう
特集

英国ロイヤル・オペラ
ライブ・ストリーミングでシーズン開幕!

「オーケストラを客席に入れようと思いついたら、何かが吹っ切れた。
一瞬クレージーだと思ったけれど、このホール自体に美しい精神がありますから」(パッパーノ音楽監督)

イギリスは他の欧州諸国に比べて新型コロナウイルスの感染が広まるのが遅く、対策が遅れたために、今も劇場再開の見通しが立っていない。屋内の公演はソーシャルディスタンスのために、室内楽等が(収容人数の)3分の1ほどの観客を入れて行われるのがやっとという状況だ。

ロイヤル・オペラハウスも各国の歌劇場と同じく、早いうちにオペラやバレエの既存の動画の配信を始めたが、6月半ばからは「ライブ・フロム・コヴェント・ガーデン」という新しい3回シリーズを制作して好評を得た。音楽監督アントニオ・パッパーノのピアノ演奏で、歌手やダンサーが小規模のライブ公演を行う舞台だった。

そして9月4日、新シーズンが始まった。パッパーノがアイグル・アフメトシナ(Aigul Akhmetshina)、チャールズ・カストロノーヴォ、ジェラルド・フィンリー、リゼット・オロペーサ、ヴィート・プリアンテ等の大物歌手を集めて画期的な生の舞台を制作したのだ。出演予定だったソーニャ・ヨンチェヴァが新型コロナウイルス感染防止の渡航制限のために入国できなかったのは残念だが、急遽クリスティーネ・オポライスが参加することになった。

マスクを着けた出演者たち
左から フィリペ・マニュ、クリスティーネ・オポライス、ジェラルド・フィンリー、
アイグル・アフメトシナ、チャールズ・カストロノーヴォ
(ROHのInstagramより)

そしてこの大企画にはオーケストラと合唱が入る! 客席をすべて取り払ってアリーナのようになった1階席にオーケストラを散らばせ、楽団員は舞台に背を向けて並ぶ。指揮者は楽団の前に立ち、はるか向こうの舞台で歌う歌手たちにも指示を出す。歌手(ソリスト)は2重唱の絡みでもソーシャルディスタンスを守る。合唱は1階席を囲む桟敷席に入るのだが、この合唱の使い方がうまい。『マノン』(マスネー)の「ガヴォット」では、男声合唱の熱い視線が桟敷席から舞台上のマノンに注がれる。『カルメン』の最後は、舞台から遠く離れた群衆にカルメンの運命は見捨てられた。最後は『トスカ』の「テ・デウム」だ。スカルピアは遠い桟敷席で祈る人々とはかけ離れた舞台の上で、ただ一人、淫らな思いに耽るのだった。

1階平土間にオーケストラを配置。巨大なオーケストラ・ピットといった感じに。
パッパーノは通常の客席最後方の位置から指揮。
舞台上のセットは動かされることはないが、曲に応じて美しい照明がデザインされる。

パッパーノはこの録画の中で語っている。
「先ず歌手にイギリスに来てもらうことが大仕事でした。オーストリアを経由するために自己隔離しなければならず、来られなくなった歌手が6人います。でもみんなとても熱意がありました。いくら家で練習していても、実際に舞台で感情を出して表現するのとは違いますからね。そしてオーケストラを客席に入れようと思いついたら、何かが吹っ切れました。一瞬クレージーだと思ったけれど、このホール自体に美しい精神がありますから」

ソリストには歌い終わった舞台上で短いインタビューが行われるが、
パッパーノのインタビューは事前に収録されたものが紹介される。

文・秋島百合子 在ロンドン、ジャーナリスト

■ ROHシーズン開幕コンサートのストリーミングは10月4日まで視聴可能(有料)です
こちらから https://www.roh.org.uk