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NBS日本舞台芸術振興会
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2020/11/18(水)Vol.410

ミラノ・スカラ座 コロナに降参か...
2020/11/18(水)
2020年11月18日号
世界の劇場を知ろう
特集

ミラノ・スカラ座 コロナに降参か...

リッカルド・ムーティ、首相に意見表明も、
劇場閉鎖撤回されず

10月になって急激に感染者が増大したヨーロッパは再び厳しい外出規制が発令されている。イタリアも今年の4月を上回る感染者数を記録し、コンテ首相は10月26日に劇場、コンサートホール、映画館を閉鎖すると発表した。この決定に対してマエストロ・ムーティは、新聞にコンテ首相宛公開文書を提出した。それは「貧弱な精神は肉体に害を及ぼす」として、健全な精神を保つために芸術がいかに必要であるかを訴えた。マエストロは「国会議員が劇場や音楽活動は必要不可欠なものではないと発言するのを聞いたが、それは無知で非文化的で感性に欠ける表現である」と厳しく批判した。また「劇場が閉鎖されることで多くのアーティストや劇場労働者が困窮するばかりでなく、いかに多くの観客が楽しみや慰めを奪われるか。社会には精神を養う糧が必要で、それが無くなると非人間的な社会になってしまう」と首相に劇場の再開を懇願した。コンテ首相は直ちにマエストロ宛の返事を公表しマエストロの意見に対して同意を示したものの、1カ月間の劇場閉鎖撤回にはならなかった。

劇場の公演は中止にはなったが、ミラノでは例年最大の祭典であるスカラ座のシーズンオープニングの準備が始まっていた。今年の演目はドニゼッティ作曲『ランメルモールのルチア』に決まり、ドミニク・マイヤー総裁は「最大限の観客を入場させたい。それが出来ないなら、観客はゼロでもイタリア国営放送RAIの中継でテレビ放送でのオープニングにする」と発表し、予定通り稽古を始めたのだが、合唱団、オーケストラ、テクニカルスタッフから多数の感染者が出てしまった。オーケストラと合唱なしではオペラ公演はできない。マイヤー総裁は『ルチア』の初日の延期を余儀なくされてしまった。

1940年からミラノの守護神サンタ・アンブロ―ジョの祝日12月7日にシーズンが始まるスカラ座だが、戦後初めてこの日にオープニングを飾るオペラの上演が行われないことになる。マイヤー総裁は「12月7日には是非ともコンサートかガラを行うことを切に望んでいる」と語った。イタリアにとってもヨーロッパにとっても象徴的なコンサートの実現に向けて準備を進めているとのことだ。

しかし、11月6日からロンバルディ州はロックダウンに。現在のところ15日間とのことだが、感染者が増大するようであれば長引く可能性もある。全く先が見えないコロナ禍に世界の劇場が受けた被害は大きすぎる。

田口道子 演出家