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2021/09/01(水)Vol.429

受難の創設100周年を経て
101年を迎えた ザルツブルク音楽祭
2021/09/01(水)
2021年09月01日号
世界の劇場を知ろう
特集

受難の創設100周年を経て
101年を迎えた ザルツブルク音楽祭

8月が終わりました。昨年から続くコロナ禍における世界の「夏の音楽祭」はといえば、開催できたところもいくつかはありました。しかしまだまだ難しい状況があることはたしかです。そうしたなかで、昨年も規模を縮小しながらも開催を実現させたザルツブルク音楽祭は、世界中のファンにとって希望の光をもたらすものだったでしょう。受難の創設100周年を経て、今年101年を迎えた世界屈指の音楽祭について、あらためてザルツブルク市観光局日本代表のモラス彩子さんにご紹介いただきました。

R.シュトラウスが100年前に「街全体が舞台と化す」と語った音楽祭

ザルツブルク音楽祭は、100年前、荒廃したヨーロッパの人々を和解させることを目的とした平和プロジェクトで、演出家マックス・ラインハルト、作家フーゴ・フォン・ホフマンスタール、作曲家リヒャルト・シュトラウスらによって創設されました。彼らが総合芸術の創造の場と芸術家の交流の場として力を注いだ祝祭なのです。リヒャルト・シュトラウスは100年前に「街全体が舞台と化す」との抱負を語りました。その言葉は現在ザルツブルク市観光局のロゴマークになっています。

今日、ザルツブルク音楽祭は世界で最も有名な音楽祭です。
上演スケジュールは、オペラ、演劇、コンサートから構成され、この音楽祭の守り神であるモーツァルトの作品から現代音楽、クラシック作品からアヴァンギャルドな作品、ホフマンスタール作の『イェーダーマン』から現代劇作家や作曲家による世界初演作品まで広範囲に及びます。
1920年8月22日に大聖堂前で野外劇『イェーダーマン』が初上演され、この日が、ザルツブルク音楽祭が誕生した日になっています。そこで去年2020年8月22日の「イェーダーマンの日」で正式にザルツブルク音楽祭の100周年を祝いました。
去年はコロナ禍のもと、世界中の殆どの音楽祭がキャンセルされましたが、ザルツブルク音楽祭は、完全にキャンセルせず、6会場で30日間約90の公演を開催しました。100周年記念として44日間200公演という盛大な祝祭として開催される予定を縮小し、新型コロナウイルス感染対策をとったうえで開催されたのです。
2020年に開催ができなかったプログラムは、この夏に上演されました。

2021年の音楽祭のテーマは「平和」。オペラは新制作、再演、コンサート形式を含めて8作品。新制作は、2020年からスライドしたロメオ・カステルッチ演出、テオドール・クルレンツィス指揮による『ドン・ジョヴァンニ』が注目された。音楽祭のレジデント・オーケストラであるウィーン・フィルのコンサートの指揮者には、フランツ・ウェルザー=メスト、アンドリス・ネルソンズ、クリスティアン・ティーレマン、リッカルド・ムーティ、ヘルベルト・ブロムシュテットが登場した。

ザルツブルク音楽祭2021『ドン・ジョヴァンニ』
Photo: © SF / Monika Rittershaus

ウィーン・フィルのコンサート指揮者

ザルツブルク音楽祭は、長い間に培われてきたホスピタリティーに溢れたこの街に毎年集まって来るすべての人々に楽しんでもらえるように、他の音楽祭より幅広いスタイルとジャンルをカバーしています。
ザルツブルクは比類のない文化と音楽の都で、アルプスの東端において最も美しい芸術の世界の街であると言われています。
かつてザルツブルクを統治していた領主を兼ねた大司教たちは音楽や演劇を愛していましたが、これが音楽の世界において今日まで変わることなくザルツブルクが持ち続ける名声の原点となっています。アルプス以北で初めてオペラが上演されたのはザルツブルクであり、洗練されたザルツブルクの宮廷音楽はヨーロッパにおける最高水準に匹敵し、今日では、音楽の世界におけるトップスターなどすぐれた多くの芸術家たちは、ザルツブルクの舞台に立てることを誇らしく感じています。ザルツブルクは文化と休暇が同時に楽しめる街、またユネスコ世界文化遺産であるこの街は本当に特別な雰囲気があり、一度訪れると忘れる事はできません。

夜の帳が降りる頃、音楽祭会場の周辺はにわかに活気づきます。オーストリアの民族衣装に身を包んだ夫婦、友人同士着飾って開演前にシャンパンを片手におしゃべりに興じる人々、舞踏会に行くような正装をした人達が、あちらこちらを歩いているのをみると、ザルツブルクがいかに華やかな社交の場であるかがよくわかります。開演前にはオーストリアのメディアが会場の入り口を占領し有名人を探してフラッシュをたきます。
開演を知らせるベルを聞いてからホテルを出ていく人もいます。これらの人は会場の斜め前にある超高級5ツ星ホテルに泊まっているというわけです。

この音楽祭は多くのスタッフによって支えられています。毎年沢山のオペラが上演されますがそのための、舞台装置や衣裳を制作するために700名近いクリエイティブチームが働いています。これらの人達は夏休みのシーズンを利用してヨーロッパ中から集まるプロ集団です。働いている人は総勢で約2,000名、そのうち年間を通して常駐している人はなんと120名ほどです。
舞台技術監督は期間中にオペラ、コンサートなどそれぞれの劇場でリハーサル、ゲネプロ、本番を行い、そのたびに舞台も総入れ替え、それを常に同時進行で毎日約40日行うのです。観客に常に最高のものを届けるために努力をしているザルツブルク音楽祭は世界一のフェスティバルといえるでしょう。

今年は会場ではマスクをつける事を条件に、全席を発売。無事8月31日に閉幕したばかりのいま、音楽祭事務局はすでに来年の企画にのりだしています。

モラス彩子 ザルツブルク市観光局 日本代表