日ごとに緊張感が高まるウクライナ情勢。悲惨な状況が報じられています。そうしたなか、ウクライナの音楽関係者の動きも。野外で演奏する姿や、街を守るための土嚢を積みながら国家を歌う姿などもさまざまに伝えられています。
今回は、ウクライナの人々の動き、そして世界中に広まるウクライナ支援のためのチャリティコンサートの情報をご紹介します。

3月9日、ウクライナの首都キエフの独立広場で野外コンサートが開かれたことは、日本のテレビニュースでも紹介されました。「フリースカイ」と題されたこのコンサートは、ウクライナのクラシック・オーケストラのメンバーたちによるもの。もともと70名が在籍していたというオーケストラの団員のうち、およそ20名が参加して、ウクライナの国歌やヨーロッパ連合（EU）を象徴する「歓喜の歌」（ベートーヴェン第九交響曲より）が演奏されました。この模様はウクライナのテレビで生中継されたそうです。
また、ウクライナ南部のオデッサでも、3月12日にウクライナで最も古い歌劇場であるオデッサ・オペラ・バレエ劇場の前の屋外でコンサートが開催され、ウクライナ国歌のほか讃美歌を演奏。その翌日には、オデッサ・オペラのメンバーは市を守るためのバリケードと土嚢壁をつくるボランティアに加わったことが伝えられています。あわせて、歌手たちが、応急処置の訓練やライフルの使い方を学んでいるとのこと。
命の危険が迫るなか、ウクライナの人々の希望と心の支えに、音楽が寄与することを、あらためて知らされました。

オデッサの劇場前で行われた屋外コンサートの模様を報じるニュースより

世界中がウクライナへの思いを寄せながらも、平和への道筋が見えない状況に、もどかしさを抱くとともに、ウクライナ支援のためのチャリティーコンサートの開催が発表されています。
メトロポリタン歌劇場は3月14日に「ウクライナのためのコンサート」を開催。音楽監督のヤニク・ネゼ・セガンのもと、メトのオーケストラと合唱団がウクライナ国歌、ウクライナの現代作曲家ヴァレンティン・シルヴェストロフの「ウクライナへの祈り」、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」、ヴェルディのオペラ『ナブッコ』から「行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って」、ノルウェー出身のソプラノ、リセ・ダビドセンによるR.シュトラウスの「4つの最後の歌」、そしてベートーヴェンの第九交響曲の終楽章をエルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー、ジェイミー・バートン、ピョートル・ベチャワ、ライアン・スピード・グリーンの4人のソリストを迎え、演奏しました。

パリ・オペラ座は3月27日にガルニエ宮でウクライナを支援する慈善コンサートの開催を発表しています。出演者には、ウクライナ出身のソプラノ、リュドミラ・モナスティルスカ、イギリス人テノール、ジョン・ダザック、ドイツのバリトン、ラッセル・ブラウンほかが出演予定。『イーゴリ公』『カヴァレリア・ルスティカーナ』『ノルマ』『運命の力』『マクベス』『ナブッコ』からの楽曲に加え、ラフマニノフやワーグナーの作品、さらにはウクライナの伝統的な歌やバレエも取り上げられる予定とのこと。カルロ・リッツィの指揮。

英国のグラインドボーン音楽祭は4月3日のチャリティコンサート開催を発表。2014年から同音楽祭音楽監督を務めるロビン・ティチアーティとロンドン・フィルが出演。出演者などの詳細は今後発表されるとのこと。

ミラノ・スカラ座は4月4日にリッカルド・シャイー指揮によるロッシーニの「スターバト・マーテル」を「平和のためのコンサート」として開催すると発表。ローザ・フェオーラ、ファン・ディエゴ・フローレス、アレックス・エスポージトらソリストとスカラ座の合唱団、オーケストラの演奏がウクライナで被害を受けた人々に捧げられるそうです。すべての出演者は無料で参加し、収益のすべてがウクライナからの避難民の支援のために、イタリア国際赤十字などに寄付されます。

このほかにも、ヨーロッパでは数々のウクライナ支援のコンサートが開催されていますが、最後に一つ、ベルリン国立歌劇場で3月6日に行われた「平和コンサート」をご紹介しておきます。指揮はもちろん同歌劇場音楽総監督のダニエル・バレンボイム。実はバレンボイムは2月に手術が必要となり、いくつかの演奏会がキャンセルされていました。一部の報道では、"演奏家生命に関わる"といわれたこともあったため、状況が案じられていました。何よりも平和への強い思いを抱くバレンボイム指揮によるウクライナ国歌が、心にしみ入ります。

ベルリン国立歌劇場「平和コンサート」でのウクライナ国歌はこちらから
https://youtu.be/ceehDWana9w