NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新

2022/04/20(水)Vol.444

ウクライナ歌劇場とムーティの「友情の道」
イタリアのポスト・コロナ
2022/04/20(水)
2022年04月20日号
世界の劇場を知ろう
特集

ウクライナ歌劇場とムーティの「友情の道」
イタリアのポスト・コロナ

緊張高まるウクライナ情勢、支援・救援活動もさまざまに行われていますが、リッカルド・ムーティ夫人のクリスティーナ・ムーティさんも意欲的な活動を展開していると報じられました。この活動のこと、マエストロ・ムーティの近況、そしてスカラ座やローマ歌劇場など、ミラノから田口道子さんがイタリア現地情報を届けてくれました。

ウクライナ・キーウ歌劇場からラヴェンナ・アリギエーリ歌劇場へ

イタリア国営放送RAIのニュース番組にキーウ(キエフ)歌劇場の音楽家約30名が出演し、ウクライナ国家とヴェルディ作『ナブッコ』の「行け、思いは金色の翼に乗って」を演奏した。合唱団員、ピアニストなど全員がウクライナの民族衣装を着け、ラヴェンナのダンテ・アリギエーリ歌劇場の小劇場からの数分の中継だったが、涙を浮かべながらの演奏は感動的だった。イタリアでは3月初めからウクライナの戦争難民を各地で受け入れている。ラヴェンナ・フェスティバルの名誉会長であるクリスティーナ・ムーティさんは1997年からフェスティバルの一環として「友情の道」という催しを主催し、毎年戦争や天災などで被災した地を訪れて現地の音楽家たちと交流し、芸術と文化の交流で被災者たちを慰問している。夫である指揮者リッカルド・ムーティもまたこの趣旨に賛同して毎年欠かさず参加している。ウクライナの悲惨な現状を目にしたクリスティーナさんはラヴェンナ市や市の慈善団体に協力を求めて、キーウ歌劇場のオーケストラや合唱メンバーの家族を救う準備をし、4月2日に2台のバスでウクライナとの国境の町ポーランドのクロシェンコへと向かった。そして、4月7日に子供を含む60名がラヴェンナに到着した。今後はラヴェンナの慈善施設で、音楽活動の再開を希望しつつ生活するという。

「マエストロ・ムーティの夫人によって救出されたキーウ歌劇場の音楽家たち」の見出しでコリエレ・デッラ・セーラが報じた記事。

一方、マエストロ・ムーティ指揮シカゴ交響楽団の4月5日のコンサートがキャンセルになったというニュースに驚かされた。3日から5日までプログラムされていたコンサートの最終日に行われたPCR検査で、マストロに陽性反応が出てしまったのだ。マエストロは軽い風邪の症状があったそうだが、熱もなくお元気とのことで安心した。昨年10月末、ウィーン・フィルで来日する前に接種した3回目のワクチンから6カ月目になり、効果が薄れていたのかもしれない。陰性の結果が出次第イタリアに帰国し、復活祭休暇になるそうだ。一日も早い復帰を願うばかりである。

スカラ座、ローマ歌劇場 ポスト・コロナの兆し

ミラノ・スカラ座は順調に公演を続けている。5月に上演されるリッカルド・シャイー指揮のヴェルディ作『仮面舞踏会』の準備が始まった。今後は劇場公演のみならずストリーミングも行うことが決まり、受信者は字幕の言語を選択して視聴できるようになる。日本語字幕も加わることになった。

ローマ歌劇場は19日にロベルト・アバド指揮のベッリーニ作『清教徒』が幕を開ける。 イタリアは今もなお1日に5万人の感染者が出ているが、日常生活はすっかりコロナ禍前に戻ったようだ。5月からは劇場に入る観客に義務付けられていたワクチン接種証明書の提示もなくなる。劇場公演も盛んに復活して、観客も少しずつ戻って来ているようだ。

文・田口道子(在ミラノ 演出家)