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2022/10/19(水)Vol.456

リッカルド・ムーティ
シカゴ交響楽団音楽監督としてのラスト・シーズン
2022/10/19(水)
2022年10月19日号
世界の劇場を知ろう
特集

リッカルド・ムーティ
シカゴ交響楽団音楽監督としてのラスト・シーズン

去る9月21日、シカゴ交響楽団(CSO)の2022/23年のコンサート・シーズンが開幕。2023年6月までで退任するリッカルド・ムーティの音楽監督としての最後のシーズンのスタートとなるこの日は2010年の就任以来ちょうど500回目のコンサートとなりました。この開幕に際し、マエストロ・ムーティとCSOの"終わりの始まり"については、シカゴのテレビや新聞が大きく取り上げました。いくつかの記事からご紹介します。

ムーティとCSOの"終わりの始まり"

シカゴでどのように記憶されたいか、というインタビューにムーティはこう答えています。
「多くの可能性があります。忘れられる可能性、悪い意味で私のことを覚えている可能性、そして良い意味で覚えている可能性です」
そしてCSOの音楽家たちを讃える言葉を続けました。
「彼らと私の間には摩擦や意見の相違は一分も無かったので、素晴らしい時間を過ごすことができました。CSOは素晴らしいオーケストラです。フリッツ・ライナーは、このオーケストラを素晴らしいものにしました(フリッツ・ライナーが音楽監督を務めた1953年から63年は黄金時代を築いたとされている)。私は昔ながらの音楽監督で、音楽監督は指揮台に立つだけでなく、父親や兄弟のような存在であるべきだと思っています。私の場合、メンバーたちの祖父かな」
ムーティはCSOを世界の一流オーケストラとして維持することを助けてくれた音楽家たちに感謝の言葉を惜しみません。「彼らのコラボレーションには魔法があった」とも語っていますが、それはCSOの音楽家たちにとっても同様だったようです。
CSOのトロンボーン奏者マイケル・マルケイは「彼がステージに登場すると、空間そのものが変わります。どこに行くかはわかりません。静けさと平和の瞬間があるかもしれないし、大きな興奮と激しさの嵐のような瞬間があるかもしれないのです」と語っています。

「私は自分の文化をオーケストラに持ち込み、オーケストラから彼らの文化を受け取りました」というムーティ、「彼は私たちが彼にしたように、彼は私たちに恋をしました」と言うマルケイ。まさに相思相愛というわけです。深く信頼し合う音楽監督とオーケストラの関係は、素晴らしい演奏を生み出すために最も重要なこと。今シーズンが最後となることへの残念な気持ちが感じられます。が、CSOの将来について「やるべきことはまだたくさんあります」とムーティ。CSOは、通常の演奏活動と並行して、シカゴにおける青少年育成のための活動などにも積極的に取り組んでいますが、ムーティも子どもたちへの教育の重要性を認めています。

シカゴでの新シーズン開幕のほかにも、ムーティ音楽監督&CSOにとって大きなニュースがあります。2023年2月のカナダ公演です。CSOは初のカナダ・ツアーを1892年に行いましたが、1914年が最後となっていました。2023年のトロントでのコンサートは、およそ1世紀ぶりの実現となるのです。ムーティ自身はフィラデルフィア管弦楽団とトロントで演奏したことがあり、「トロントは非常に音楽的な都市であり、音楽を深く愛し、知識をもって演奏を受け入れてくれる聴衆がいます。素晴らしい街で再び演奏できることを楽しみにしています」とのこと。
1世紀ぶりとなる機会が、ムーティのCSO13年間の任期の最後の年となることは、カナダ、トロントの人々にとっても大きな喜びとなっているようです。