NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新

2023/01/04(水)Vol.461

2023年のザルツブルク音楽祭
2023/01/04(水)
2023年01月04日号
世界の劇場を知ろう
特集

2023年のザルツブルク音楽祭

モーツァルトの生地ザルツブルクで毎夏開催されるザルツブルク音楽祭。コロナ禍でほかの数々の音楽祭が開催中止を余儀なくされた2020年も規模を縮小して開催、翌2021年には前年からスライドされたものなども含め、ほぼ通常の規模で開催、2022年は海外から訪れる人の数はコロナ前には戻ってはいないとはいえ、音楽祭の充実した内容は元通りになりました。

そして2023年。例年通り、2022年12月初旬に2023年のラインナップが発表されました。開催は7月20日から8月31日までの43日間。15の会場で179におよぶ公演、さらに34回のユース・プログラムも行われ、合計213公演が行われるとのことです。
新制作されるオペラは『フィガロの結婚』(マルティン・クシェイ演出、ラファエル・ピション指揮)、『マクベス』(クリストフ・ワリコフスキ演出、フランツ・ウェルザー=メスト指揮)、『ファルスタッフ』(クリストフ・マルターラー演出、インゴ・メッツマッハー指揮)の3本。そのほかマルティヌー作曲『ギリシャ受難劇』、コンサート形式パーセル作曲『インドの女王』、ベッリーニ作曲『カプレーティとモンテッキ』、ベルリオーズ作曲『トロイ人』、そして5月から6月に開催される聖霊降臨祭音楽祭の舞台で、同音楽祭芸術監督チェチーリア・バルトリ自身が出演するグルック作曲『オルフェオとエウリディーチェ』が夏の音楽祭でも上演されることに。

音楽祭のレジデント・オーケストラであるウィーン・フィルのコンサートには、クリスティアン・ティーレマン、アンドリス・ネルソンス、リッカルド・ムーティ、フランツ・ウェルザー=メスト、ヤクブ・フルシャという、まさしく世界の頂点に立つ5人の指揮者が登場します。

なお、ザルツブルク音楽祭の創設者の一人である、マックス・ラインハルトの生誕150周年を記念して開催される『ラインハルト・イヤー」のプログラムは、2023年春ごろに発表されるそうです。

さて、クリスマスを目前とした頃、もう一つのニュースが伝えられました。
ザルツブルク音楽祭が維持してきた、音楽祭の80年以上の歴史をカバーする録音や映像のアーカイブが、ユネスコの「世界の記憶」プログラムにもとづく国立オーストリア文書遺産登録簿に登録されたのです。 ユネスコの「世界の記憶」プログラムは1992年に、文書の保存、情報を入手しやすくするための世界的な取り組みを支援することを目的として設立されました。
ザルツブルク音楽祭のアーカイブは、2020年以降ウィーン科学技術博物館のオーストリア・メディア・ライブラリーと協力してデジタル化されてきました。「音楽祭は1920年設立ですが、アーカイブは1930年代から現在までの期間をカバーしている。ヨーロッパの音楽と演劇の歴史のハイライトを含む、音楽祭の歴史に関するユニークなコレクションがつくられた」と、ザルツブルク音楽祭アーカイブのディレクターは語っています。
録音はザルツブルク音楽祭でのアーカイブ使用のみを目的として、パフォーマンスはリハーサルとともに記録されました。1000を超えるドキュメントには、ヘルベルト・フォン・カラヤン、小澤征爾、カール・ベーム、クラウディオ・アッバード、リッカルド・ムーティなど、その時代の最も有名な指揮者のオリジナル録音、そのほか偉大な指揮者による主要な作品が含まれているそうです。ザルツブルク音楽祭は、クラシック音楽、オペラ、演劇において重要なフェスティバルとされているだけに、アーカイブにはウィリアム・シェイクスピアからフーゴ・フォン・ホフマンスタール、ペーター・ハントケまで、歴史的および現代的な劇作家による多数の作品も含まれています。

音楽も演劇も、またあらゆる舞台芸術は「生」で接することに大きな価値や意味があるのは確かです。しかし、それらを保存し、遺すことも大切。ザルツブルク音楽祭に関する貴重な資料が確かに保存され、広くアクセスできるようになるのは喜ぶべきことですね。