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2023/12/06(水)Vol.483

「きよしこの夜」を知ろう
2023/12/06(水)
2023年12月06日号
世界の劇場を知ろう
特集

「きよしこの夜」を知ろう

12月に入り、誰もが気忙しいといったところでしょうか。キリスト教圏の国々とは異なり、クリスマスを控えた日本ではさまざまなイベントの賑わいや、キラキラしたイルミネーションの輝きに、うきうきした気分になって盛り上がる時期でもあるでしょう。
イエス・キリストの誕生を祝す日なのですから、世界で最も有名なクリスマスキャロル「きよしこの夜」についてご紹介してみます。

「きよしこの夜」の原詞「Stille Nacht」はヨゼフ・モールという人によってドイツ語で書かれ、フランツ・グルーバーによって作曲されました。誕生したのは1818年のクリスマス、場所はザルツブルクから北西に15キロほどの村オーベルンドルフです。クリスマスイブの前日、オーベルンドルフにある聖ニコラウス教会のオルガンが壊れてしまったことが発端です。音が出ないオルガンではクリスマスに歌う讃美歌の伴奏ができません。困った教会の司祭ヨゼフ・モールは「Stille Nacht」の詞を書き上げ *、教会のオルガン奏者だったグルーバーに、この詞にギターで伴奏できる讃美歌を作曲するよう依頼したのでした。曲は速攻で完成し、1818年12月24日に聖ニコラウス教会でグルーバーがギターを演奏して信者たちに向けて初演されたというエピソードが伝えられています。さらに、壊れたオルガンを直しに来ていたチロルの職人が、この曲をチロル州に持ち帰り、チロル地方の合唱団がレパートリーに加えたことで世界中へと広まったそうです。

* 実際には、ヨゼフ・モールが詞を書いたのは1816年で、ナポレオン戦争後の貧困に苦しんでいたオーベルンドルフの村人たちを癒やそうと書いた6行詩だったとされる。

日本では、牧師で讃美歌作家の由木康による歌詞「きよしこの夜」が1909年に出版された讃美歌集に収録され、1988年まで小学校の音楽の教科書に掲載されていました。近年では1859年に英訳された「Silent night」が、中学校などで英語教育も兼ねて歌われているとか。「Stille Nacht」は、2011年にはオーストリア無形文化遺産となっています。
ちなみに、教会のオルガンが壊れたのは「ねずみにかじられた」など、いくつかの説がありますが、その真偽はともかく、19世紀初頭に取り壊された聖ニコラウス教会の跡地には八角形をした「きよしこの夜礼拝堂」が建てられ、12月24日にはクリスマスのミサが行われているのですが、礼拝堂はとても小さいため、信者は外でミサにあずかるのだそう。礼拝堂の周りには小さなクリスマスマーケットが立ち、教会には博物館も併設されていることもあり、世界中から多くの観光客が訪れているそうです。

実は「きよしこの夜」は、第一次世界大戦中のイギリス軍とドイツ軍の間にクリスマス休戦をもたらすきっかけになったとも言われています。世界の各地で紛争や災害による痛ましい状況が続く現在、「きよしこの夜」に再びの奇跡を願いたくなります。

(「きよしこの夜」の誕生エピソードについては上記のほか諸説があります)