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2023/12/20(水)Vol.484

イタリアの劇場便り
2023/12/20(水)
2023年12月20日号
世界の劇場を知ろう
特集

イタリアの劇場便り

「コロナ禍などすっかり忘れてしまったかのよう」と、ミラノの様子を伝える田口道子さん。華やかなミラノ・スカラ座シーズン開幕をはじめ、イタリアの劇場事情、そしてリッカルド・ムーティのミラノでの活動などを紹介してくれました。

豪華キャストによるスカラ座開幕

12月7日、ミラノの守護聖人サンタンブロージョの祝日にスカラ座のシーズンがオープンした。演目は『ドン・カルロ』。久しぶりにヴェルディの作品でオープニングとのことで期待が大きかった。それに応えるように、リッカルド・シャイー指揮、ルイス・パスカル演出に加えて豪華キャストが顔をそろえた。ドン・カルロがフランチェスコ・メーリ、エリザベッタがアンナ・ネトレプコ、ロドリーゴがルカ・サルシ、エボリ公女がエリーナ・ガランチャとオペラファンにとっては夢のような顔ぶれである。フィリッポⅡ世はルネ・パーペの予定だったが、どうもシャイーと合わなかったようでミケーレ・ペルトゥージに変更された。
『ドン・カルロ』は1867年にパリで上演されて以来、ヴェルディ自身によって手を加えられてさまざまな版が生まれたが、シャイーは1884年にミラノ・スカラ座で上演されるにあたってヴェルディが大幅な改定をしたイタリア語の4幕仕立て版を選んだ。
ダニエル・ビアンコの舞台は、中央にある円柱の扉が開くことで場面が変わっていき、扉が閉じている間はうっすらと影絵が浮かぶ。フランカ・スカルチャピーノの衣裳は16世紀の肖像画や絵画から抜け出てきたような時代考証に基づいたもので、読み替え演出が多い中で安心して鑑賞できる舞台になった。最近は合唱団も労働組合の意向で舞台では歌うことが中心で演技のために動きを付けることが制限されているらしいが、さすがにスカラ座の合唱団の音楽的レベルは高いと思える演奏だ。

ミラノ・スカラ座シーズン開幕『ドン・カルロ』トレイラーは下記よりご覧いただけます
https://youtu.be/LtkcOz6z8Mc?si=tAYa_-qCGoiPdglz

緊張状態から開幕へ イタリアの劇場模様

労働組合といえば、劇場労働者も国との契約内容が20年も更新されておらず、生活費が高騰する現状では給料や年金がこのままでは充分ではないと訴え、公共交通機関と共に劇場もストに突入する構えを見せた。10月からイタリア中のすべての歌劇場が初日の幕を開けないと決定したのだ。トリノ、カリアリ、パレルモなどの劇場は10月に上演予定だった演目の初日がキャンセルされてしまった。シーズンオープニングの日にストが決行されたことは歴史上にもないことなので、どの劇場も組合との話し合いで緊張状態だったが、11月24日にヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場が『ホフマン物語』で幕を開け、ローマ歌劇場も11月27日に『メフィストーフェレ』で無事シーズン開幕を終えた。9月の日本公演で実力を発揮したミケーレ・マリオッティの指揮は重厚で壮大なアッリーゴ・ボーイトの作品を見事にまとめ上げた。四角い白い箱の中で繰り広げられるサイモン・ストーンの演出は完全なる読み替えで観客の反応は賛否両論だった。

ローマ歌劇場シーズン開幕『メフィストーフェレ』トレイラーは下記よりご覧いただけます
https://youtu.be/-6NP5umWydc?si=Yya5F2XUPu41IIQt

リッカルド・ムーティ、久々にミラノで指揮

11月29日はミラノのプラダ財団において、リッカルド・ムーティ指揮によるコンサート形式でベッリーニ作曲『ノルマ』が上演された。2015年に若い指揮者とコレペティトールの育成のためにマエストロが創設したリッカルド・ムーティ・イタリアオペラ・アカデミーが今年はミラノで開催され、多くの受講希望者から選出された4名の指揮者と4名のピアニストが、7日間マエストロ・ムーティから直接の指導を受けた。レッスンは公開され、連日午前10時30分から午後6時30分まで休憩をはさんで5時間の特訓だった。11月26日に受講生たちの修了演奏会が行われてレッスンの成果を披露した。29日のムーティ指揮のコンサートはマエストロが久しぶりにミラノで演奏するとのことで会場は超満員だった。 イタリアはコロナ禍などすっかり忘れてしまったかのように、通常に戻って劇場も町も多くの人で賑わっている。

田口道子(演出家)