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2024/02/07(水)Vol.487

ミラノ・スカラ座を沸かせたマエストロ・ムーティ&シカゴ響
2024/02/07(水)
2024年02月07日号
世界の劇場を知ろう
特集

ミラノ・スカラ座を沸かせたマエストロ・ムーティ&シカゴ響

ミラノ・スカラ座を離れた後もシカゴ交響楽団音楽監督として世界中に感動をもたらしてきたリッカルド・ムーティ。シカゴ響音楽監督も昨シーズンで退きましたが、この1月からはヨーロッパツアーを率いています。ミラノ・スカラ座でのコンサートの模様を、田口道子さんが伝えてくれました。

「マエストロ帰って来てくれて有り難う!」

1月27日リッカルド・ムーティがシカゴ響を率いてミラノ・スカラ座に戻ってきた。
2021年5月のウィーン・フィルとのコンサート以来約2年半ぶりになる。この時に、演奏後に楽屋を訪れた現スカラ座音楽監督であるシャイイーと言い争いがあったと大きな話題になったことは記憶に新しい。
昨年のシーズンの終わりで12年間続けたシカゴ響の音楽監督を退いたムーティだが、今シーズンからは終身名誉指揮者として年に数回はシカゴ響との共演が続くという。後任がいまだに確定していないシカゴ響にとってムーティの存在は重要だ。
2024年のヨーロッパツアーは1月11日に始まり、ブリュッセル、パリ、エッセン、ルクセンブルク、フランクフルト、ケルン、ウィーン、ブダペストそして最後がイタリアでトリノ、ミラノ、ローマで終わる11都市を巡る約3週間の長丁場である。
スカラ座の楽屋の前にはマイヤー総裁はじめ、オーケストラ、合唱団やオフィスの人々が集まり、ムーティが到着すると拍手で温かく出迎えた。ムーティはこの歓迎に驚いた様子だったが、嬉しそうに一人ひとりと挨拶を交わしてから楽屋に入った。

ミラノ・スカラ座Instagramより
Photos: Silvia Lelli

プログラムはリヒャルト・シュトラウスの交響的幻想曲「イタリアから」とセルゲイ・プロコフィエフの交響曲第5番で、チケットは発売とともに完売となった。シカゴ響の良さを発揮できる素晴らしい選曲だったと思う。が、これで終わりではなかった。
ムーティはアンコールを用意していたのだ。客席に向き直って「今年はプッチーニの没後100年にあたります。プッチーニを偲んで『マノン・レスコー』序曲を演奏します」とアナウンスした。観客の反応はもちろん凄かった。盛大な拍手の後、客席は静まり返って誰もが集中して聴き入っているようだった。ところが、まだこれで終わりではなかったのだ。

写真提供筆者

「この劇場で私が演奏しないではいられない作曲家がヴェルディです。今日1月27日は彼の命日にあたります。私がこの劇場では指揮しなかったオペラ『ジョヴァンナ・ダルコ(ジャンヌ・ダルク)』の序曲です」とムーティがアナウンスすると客席からは「マエストロ帰って来てくれて有り難う!」「有り難う!」と言う声が飛び交った。奇しくも1月27日は1901年にこの世を去った偉大な作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの123回忌ではないか! 前回ムーティがウィーン・フィルとミラノ・スカラ座で公演したのは2021年5月11日だった。第二次世界大戦後いち早くスカラを修復させたトスカニーニがスカラ座での演奏を再開した日が75年前の5月11日だったことも偶然とはいえ、不思議な因縁と思わざるを得ない。
演奏後の拍手は長い時間続き、観客は満足げに劇場を出て行った。
ムーティがスカラ座を去って19年、音楽監督をしていたのと同じ年月が経った。もう一度スカラ座でムーティ指揮のオペラを観たいと望むファンは多い。82歳とはいえ、まだまだエネルギッシュに世界で活躍するムーティにその日は来るのだろうか?
翌28日にシカゴ響はヨーロッパツアー最後の地ローマに旅立った。29日はローマのフランス大使館(オペラ『トスカ』第2幕の舞台であるファルネーゼ宮殿)でムーティにフランスの最高位のレジョン・ドヌールが授与された。
ローマ歌劇場でのコンサートも大成功を収め、シカゴ響のヨーロッパツアーは幕を閉じた。
ムーティは数日の休暇後、トリノ王立歌劇場で『仮面舞踏会』の稽古にかかる。2月19日から3月3日までの7回の公演はとても楽しみだが、チケットはすでに完売している。

ミラノ・スカラ座Instagramより
Photo: Todd Rosenberg

田口道子(在ミラノ、演出家)