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NBS日本舞台芸術振興会
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2026/08/19(水)Vol.548

エクサン・プロヴァンス音楽祭
2026/08/19(水)
2026年08月19日号
世界の劇場を知ろう
特集

エクサン・プロヴァンス音楽祭

今年は熱波による猛暑に見舞われたヨーロッパですが、音楽祭も例年以上の盛り上がりをみせたようです。音楽評論家の石戸谷結子さんにエクサン・プロヴァンス音楽祭の様子を紹介していただきました。

エクサン・プロヴァンス音楽祭
夏の音楽祭といえば、ザルツブルグやバイロイトが有名だけれど、わたしの「イチ押し」は、エクサン・プロヴァンス音楽祭。パリからTGVで3時間。あるいは飛行機ならマルセイユからバスで30分の距離だ。音楽祭の歴史は古く、78回目を迎える。今年は7月2日~21日まで開催された。

クラウス・マケラのセンセーショナルなオペラ・デビュー『影のない女』

最大の目玉となったのはR.シュトラウスの歌劇『影のない女』。いま世界で最も注目される旬の指揮者、クラウス・マケラ(30歳)が、国際的なオペラ・デビューを飾ったからだ。2021年から音楽監督を務めるパリ管弦楽団を率いての公演で、欧米各紙が絶賛するセンセーショナルな大成功を収めた。このオペラはテーマが複雑かつ難解で、オーケストレーションの規模は大きく、シュトラウスの後期の傑作といわれる重厚な作品。マケラは冷静な分析力で、繊細かつ色彩豊かで驚くほど透明感のある音楽に仕上げた。パリ管の洗練された響きを生かし、歌手の声とオーケストラのバランスが取れ、作品の魅力が明瞭に浮かびあがる。バリー・コスキーのあっと驚くほど斬新でユーモラスな演出と相まって、4時間の長丁場が短く感じられたほど。

『影のない女』より 第1幕、皇帝役のスパイヤーズ
『影のない女』より 第2幕、バラクの染物屋の家

Photos: Festival-d'Aix-en-Provence 2026 ©Monika Rittershaus

歌手の顔ぶれも凄く、皇帝役のマイケル・スパイヤーズは輝かしい高音を響かせ、皇后役のヴィダ・ミクネヴィチューテの緊迫感ある美声、大歌手ニーナ・シュテンメは、圧倒的な迫力で悪役の乳母を演じた。バラク役のブライアン・マリガンも熱演だったが、カナダ人ソプラノ、バラクの妻役アンバー・ブレイドの厚みのあるパワフルな声にも圧倒された。皇帝の棲む冥界とバラクが住む人間界が追い求めるのは人間性。最後は人間性が勝利して大団円を迎えるようにも見えるのだが。
マケラはもう1曲、演奏会形式のバルトーク『青ひげ公の城』も指揮した。

『青ひげ公の城』(演奏会形式)を指揮したクラウス・マケラ
左は青ひげ役のジェラルド・フィンリー
Photo: Festival-d'Aix-en-Provence 2026

「戦争の中の子供たち」をテーマにした、モーツァルト『魔笛』

『影のない女』は、『魔笛』へのオマージュともいわれる。共にファンタジーだが、大きな戦争が勃発している現代での上演なら、単純な童話にはならない。演出家のクレモン・コジトールは、第二次世界大戦中の悲惨な子供たちの映像を映しながら、戦火の中で成長していく少年タミーノ(後ろでマウロ・ペーターが歌う)と少女パミーナ(歌はイン・ファン)が、大人になり復興を目指して立ち上がるという物語に仕立てている。夜の女王役は、サビーヌ・ドゥヴィエル、指揮は古楽器のスペシャリスト、レオナルド・ガルシア・アラルコンという豪華顔ぶれだった。

『魔笛』より パミーナとタミーノ。中央はザラストロ
『魔笛』より 少年タミーノとパパゲーノ

Photos: Festival-d'Aix-en-Provence 2026 ©Jean-Louis Fernandez

舞台版「レクイエム」と、演奏会形式の『シチリア島の晩鐘』

モーツァルト「レクイエム」のオペラ化?と話題を呼んだ舞台は、昨年急逝した音楽祭の総裁で演出家のピエール・オーディが、2019年に企画したプロダクション。オーディ追悼のために同じキャストで再演された。演出は鬼才として知られるロメオ・カステルッチ。指揮はラファエル・ピションで演奏はピグマリオン。最初に老婆がベッドで死を迎えたあと、若い女性に転生し、最後は小さな赤子に生まれ変わるという過程が描かれる。死と生を賛美する民俗的な踊りと合唱が執り行われ、モーツァルトの他の宗教曲も使ってパワフルに上演される。カステルッチお得意の壊れた車もなぜか出現し、興奮とカオスの祝祭が圧倒的な迫力で繰り広げられた。

ロメオ・カステルッチ演出 舞台版「レクイエム」より
Photos: Festival-d'Aix-en-Provence 2026 ©Monika Rittershaus

1日だけの上演でヴェルディ『シチリア島の晩鐘』を指揮したのは、ダニエレ・ルスティオーニ。名誉音楽監督を務めるリヨン国立歌劇場管弦楽団を率いての公演で、オリジナルのフランス語上演。ルスティオーニは、熱血漢と化してエクサイティングな指揮ぶり。細やかな歌手への指示や、オーケストラへの配慮も行き届き、速いテンポとダイナミックな音楽づくりで、圧倒的な成功を収めた。歌手も深い表現力のメゾ、カリーヌ・デエを始め、ジョン・オズボーン、ミケーレ・ペルトゥージとベテランが顔を揃え、韓国人のバリトン、チェ・インシクが深い表現力と朗々たる美声で、喝采を受けた。

『シチリア島の晩鐘』(演奏会形式)より
ルスティオーニを中心に、左はオズボーン、右はチェ・インシク
Photo: Festival-d'Aix-en-Provence 2026 ©Vincent Beaumeus

バンジャマン・ベルナイムとソーニャ・ヨンチェヴァのリサイタル

ベルナイムとヨンチェヴァは、NBSの「旬の名歌手シリーズ」で2025年と2023年に来日して圧倒的な感銘を残したスター歌手。二人は、それぞれプロヴァンス大劇場でリサイタルを行った。バンジャマンはベルリオーズ「夏の夜」やデュパルクの歌曲などを透明感のある美しい声で歌いあげ、アンコールには「のぼれ太陽よ」と「春風よ、なぜに私を目覚めさせるのか」などを歌い、聴衆総立ちの拍手を浴びた。ヨンチェヴァはガルシア・アラルコン指揮の古楽器アンサンブルを伴奏に、モンテヴェルディなど多くのバロック曲を歌い喝采を浴びた。

バンジャマン・ベルナイム リサイタルより
Photo: Festival-d'Aix-en-Provence 2026 ©Vincent Beaumeus

ソーニャ・ヨンチェヴァ リサイタルより
Photo: Festival-d'Aix-en-Provence 2026 ©Vincent Beaumeus

というわけで、今年のエクサンプロヴァンス音楽祭は、2017年にNBSが招聘したバイエルン国立歌劇場日本公演『タンホイザー』の演出をしたロメオ・カステルッチや2025年ウィーン国立歌劇場日本公演『フィガロの結婚』の演出家バリー・コスキー、ベルナイム、ヨンチェヴァという人気歌手の登場など、NBSゆかりのアーティストが大活躍した。

取材・文:石戸谷結子(音楽評論家)