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NBS日本舞台芸術振興会
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NEW2026/09/02(水)Vol.549

ザルツブルク音楽祭2026
グリゴリアン主演『カルメン』
2026/09/02(水)
2026年09月02日号
世界の劇場を知ろう
特集

ザルツブルク音楽祭2026
グリゴリアン主演『カルメン』

今年の夏は、欧州も日本に負けず劣らずの暑さに見舞われたと報じられていました。ザルツブルクも例外ではなかったようです。そんななか、ザルツブルク音楽祭のスタートを飾ったのが『カルメン』です。この『カルメン』には、いまやザルツブルク音楽祭の女王であるアスミク・グリゴリアンが登場するとあって、音楽祭のなかでも注目の公演だったことはいうまでもありません。
ザルツブルクだけでなくいまや世界中のオペラ・シーンで大活躍しているアスミク・グリゴリアン、日本の皆さまにとってはNBSによる2027年6月の『ノルマ』(演奏会形式)が待ち遠しいことでしょう。
彼女のホットな近況ということで、ザルツブルク音楽祭の『カルメン』についてのいくつかの批評から、その魅力をご紹介します。

街に掲示されたザルツブルク音楽祭『カルメン』ポスター
写真提供: N. A.

「ザルツブルクのスター、アスミク・グリゴリアンは、カルメン役デビューで紛れもなく成功を収めている。彼女は今回もまた、主人公の力強い存在感に、抗いがたいほどの輪郭、色彩、そして個性を与えている。カルメン? 彼女は、けばけばしいファム・ファタールとしてではなく、情熱と根源的なエロスをもつ、自然体の女性として演じている。そしてもちろん、徹底的にたくましい存在として。親密な場面では感動的なレガートのフレーズを紡ぎ出すかもしれないが、このカルメンは、津波のような力で自らの自由を守り、時には嘲笑的な口調で、相手の男性を辱める」(クリストフ・イルゲハー、DER STANDARD)

アスミク・グリゴリアン(カルメン)
Photo: © SF/Virginia Rota

『カルメン』のタイトルロールは、基本的にはメゾ・ソプラノが歌うことが多いので、ソプラノのグリゴリアンが歌うということで「?」と感じた方もいるかもしれません。ただし、ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスなど、ソプラノ歌手が歌っている例はあり、ソプラノ歌手の"挑戦"的意欲があらわれるところともいえるでしょう。

「ザルツブルク音楽祭の女王として揺るぎない地位を築いたアスミク・グリゴリアンは、ザルツブルクで初のカルメン役を披露したが、この役は彼女の声質に完全に合致していたとは言えず、一部のパッセージでは低音域の密度が理想的とは言えなかった。しかし、リトアニア出身のソプラノ歌手である彼女は、舞台上での魅力的な存在感と、ニュアンスと抑揚に富んだ歌唱でそれを十分に補い、最後まで自分の愛情と決断に確信を持つ女性像を見事に表現した」(ÓPERA ACTUAL)

ここでは、"彼女の声質に完全に合致していたとは言えない"といいつつ、それを補ってあまりある魅力が発揮されたことがしめされています。

ジョナサン・テテルマン(ホセ)、アスミク・グリゴリアン(カルメン)
Photo: © SF/Thomas Aurin

「声楽面では、グリゴリアンの多才なソプラノは、この役柄にはまだ十分な深みが感じられないが、その力強さは画期的で、この役に求められるメゾソプラノとしての深みと重みをうまく補っている。演劇的な面では、彼女とカリーソ(演出)は魅力的な人物像を作り上げており、ここでも彼女の声は完璧に合致している。若い女性としてのカルメンは、ファム・ファタールや誘惑者とはかけ離れている。彼女は登場アリア「恋は野の鳥」を、まるで子供の歌のように、子供たちに囲まれて歌う。男たちは彼女に媚びへつらうが、彼らの途方もない性的空想の源が何なのか、誰も知らない」(Frankfurter Rundschau)

そうそう、「カリーソの「ステレオタイプを拒絶する」というコンセプトにおいて、この役を初めて演じるグリゴリアンはほぼ完璧にフィットしている」(トビアス・ヘル merkur.de)という一文も。たしかに、グリゴリアンもまた、"他に倣う"というタイプではないことはたしかでしょう。

イヴェタ・シモニャン(フラスキータ)、アニータ・モンセラット(メルセデス)、アスミク・グリゴリアン(カルメン)、マイケル・アリヴォニー(ダンカイロ)
Photo: © SF/Thomas Aurin

パク・スンウ(ピーピング・トム パフォーマー)、アスミク・グリゴリアン(カルメン)
Photo: © SF/Virginia Rota
アスミク・グリゴリアン(カルメン)、ダヴィデ・ルチアーノ(エスカミーリョ)
Photo: © SF/Thomas Aurin

(*台上にはエスカミーリョをあらわすパフォーマーが立ち、かたわらでエスカミーリョが歌う)

今回の『カルメン』で、グリゴリアンと並んでファンの注目を浴びたのが指揮者のテオドール・クルレンツィス。個性的な音楽づくりをするこの指揮者には"追っかけ"ファンも存在するとか。

「指揮者テオドール・クルレンツィスのロシアとの関係に対する正当な批判はあるものの、いつものカルメンのヒット曲に飽き飽きしている人々は、彼のアプローチを高く評価するだろう。序曲から、このスター指揮者は細部への鋭い洞察力を発揮し、弦楽器を時にささやくように、時に予想外の激しさで奏でさせる。たとえこの繊細なニュアンスへのこだわりが夜が進むにつれてやや薄れ、また(フェスティバル常連としてある意味名誉なことでもあるが)クルレンツィスが時折奇抜なテンポで驚かせることがあったとしても、彼が率いるユートピア管弦楽団と参加合唱団に与える表現力豊かな推進力は、たとえ舞台が3時間も暗いままであっても、この夜を魅惑的なものにしている」(クリストフ・イルゲハー、DER STANDARD))

ザルツブルク音楽祭の広報誌KULTURに掲載されたクルレンツィスの記事

演出を手がけたのはガブリエラ・カリーソ。ベルギーを拠点とするダンスカンパニー「ピーピング・トム」の共同創設者で、オペラの演出は今回が初めてでした。実は演出については賛否両論が巻き起こっています。もっとも、賛否が起こるのはその公演への関心の高さを示しているということでもあります。
カリーソは『カルメン』の演出にあたり、生地アルゼンチンで35時間に1件の女性殺害事件が発生しているという現実と反父権的なヒロインの幻想を織り交ぜたとのこと。そこには通常の視覚的スペクタクルや民俗的な派手さ、セクシーさは排除され、全編が暗いイメージとしてつくられていたようです。こうした演出家の意図を理解したうえでの批評も。

「カリーソの功績として特筆すべきは、彼女が男性の凶悪犯と女性の被害者という単純な二元論をはるかに超えている点である。彼女はこの家父長制的な対立の根源的な構造に迫ろうとしており、自ら認めているように、それを徹底的に調査した。闘牛士たちの行進における集団的な熱狂は、可愛らしいピンクの衣裳をまとった人々が円を描いて走るレースとして描かれている。冒頭では、ダンサーである被害者が、男性がいかに暴力的に互いを支配し虐待するかを実演してみせる」(DIE DEUTSCHE BÜHNE)

エリアナ・ストラガペーデとバルデル・ハンセン(ピーピング・トムのパフォーマー)
Photo: © SF/Virginia Rota

終演時のカーテンコールでは、音楽メンバーには口笛とやんやの喝采、演出家にはブーも飛ぶなど、盛り上がりをみせたとのことです。

大盛り上がりのカーテンコール。中央にテオドール・クルレンツィス
Photo: © SF/Marco Borrelli

ザルツブルクを拠点に発行されている有力な日刊紙ザルツブルガー・ナハリヒテン(左)
現地の公演プログラム誌(右)
資料提供: N.A.