英国ロイヤル・バレエ団 2008年日本公演 最新情報

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2008年2月 Archive

マリアネラ・ヌニェス(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル) インタビュー

演劇・舞踊ライター、岩城京子さんによる、インタビュー第2弾はマリアネラ・ヌニェス。今回の日本公演で、『シルヴィア』『眠れる森の美女』の両作品に主演するヌニェスの魅力に迫ります


マリアネラ・ヌニェス インタビュー
岩城京子(演劇・舞踊ライター)

彼女が舞台に登場したとたん、花咲き匂うような春がその場に訪れる。現ロイヤル・バレエ団の最年少プリンシパルであるマリアネラ・ヌニェスは、瑞々しく愛くるしくエネルギーに満ちた表現をその強靭な技術力によって視覚化し、劇場中の観客を瞬時に恋に落とすことができる。彼女が『シルヴィア』の最終幕でアミンタとの愛に満ちたパ・ド・ドゥを踊るのを目の当たりにし、知らずのうちに暖かな笑顔がこぼれてしまわない観客はいないだろう。アルゼンチンのコロン劇場バレエに弱冠14歳で入団して以来「ずっとバレエに恋し続けているの!」と目を輝かすマリアネラ。今回の来日公演で日本の観客は、そんなチャーミングな彼女の全幕物をはじめて目にする機会を得る。

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『シルヴィア』 シルヴィア

---あなたはアルゼンチンでバレエを習い始め14歳のときにプロの道を歩み始めました。その早熟なキャリアの経緯をまず簡単に教えてください。

自分でもこれは驚きなんですが、私は6歳のときにすでに「プロのダンサーになる」と母親に宣言していたんですね(笑)。だから8歳でコロン劇場バレエ学校に入学して、5年間スクールに通って、14歳のときにカンパニーに入団したわけですけど。自分としては「着実に自分の目標に近づいているな」と思うだけで、特に早熟であるという意識を持つことはありませんでした。ちなみに私は在学中からカンパニーのリードダンサーであるマキシミリアーノ・グエラと踊らせてもらう機会に恵まれていたんですけど。一度、彼とは日本の『世界バレエフェスティバル』(97)にも参加したことがあるんですよ。あのとき私はまだ...、15歳だった! で、話を戻すなら、そのあと私は年間27公演しか踊れないアルゼンチンのカンパニー状況に少し不満を抱くようになって。シルヴィ(ギエム)やダーシー(バッセル)やヴィヴィアナ(デュランテ)といった私の大好きなダンサーたちがみな在籍していたロイヤル・バレエを目指すことにした。ただ(アンソニー)ダウエルに入団許可をもらったとき、私はまだ15歳だったから。年齢制限から1年間、ロイヤル・バレエ・スクールに通う必要があった。『世界バレエフェスティバル』に出演した2ヶ月後にスクールでバーレッスンを受けている、というのは当時の私にとってはかなり飲み下しがたい現状だったけれど。今となっては逆にとても良い経験をさせてもらったと思っている。もし仮にあのまま何の疑問も持たずにトントン拍子にキャリアを積んでいたら、私はいまある自分の成功をそれほど感謝できていなかったと思う。

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『シルヴィア』 シルヴィアとアミンタ(ルパート・ペネファーザー)

----19歳でプリンシパルに任命されて以後、数々の主要演目を踊られてきました。特にあなたの場合はキトリ、スワニルダ、オーロラ、リーズなど、どちらかというと悲劇よりもハッピーな演目を踊ることが多いですね。

そうなの! というのも私はいつでも舞台に立つと自然と笑顔になってしまう。バレリーナとしてそこに立てていることが嬉しくて嬉しくてしょうがなくて、ハッピーな笑みがこぼれてきてしまう。だから今回日本で踊る『シルヴィア』も、体力的には本当に過酷でズタボロに死にそうな状況になるのだけど。私にとっては舞台にいるときが人生最高の瞬間だから。そのまま本当に疲れ果ててステージ上で死んでしまっても......本望かもしれない(笑)。まあそれは冗談だけど、でも本当にアシュトンの振付は観客が思う以上に技術・体力ともに大変。彼の振付はあまりにも音楽性が美しく、あまりに上半身の使い方が優雅だから、人はどれだけ難しいステップを下半身でしているかを意識することがないんです。けど実は...、特に1幕などは、とんでもなく高度な技術を求められる。つまりアシュトン作品というのは、私の分析では、高難度なテクニックを優雅さの後ろに「隠す」ことであの独自の美しさを生み出しているんです。

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『眠れる森の美女』オーロラ

----日本では『シルヴィア』のほかに『眠れる森の美女』でも主演されます。あなたのオーロラは数年前に劇評で「1946年の初演以後、ロイヤル・バレエ史上最高のオーロラ」と讃えられましたね。

あれは今までのバレエ人生で最高の賛辞でした! でも本当に私はオーロラを踊るのが大好きなんです。とくに技術面や身体面でピークを迎えている25歳の今だからこそ、こうした古典演目には全力で挑みたいと思う。もう少し歳を重ねたら、こうした純度の高いクラシックを踊るのは難しくなってしまうかもしれませんからね。7月の日本公演は本当に楽しみ。私の踊りを観てひとりでも多くの方がいつもより幸せな気持ちになって劇場を後にしてくれたら、これほど嬉しいことはないです。

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ゼナイダ・ヤノウスキー インタビュー

ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでは現在『シルヴィア』を上演中です。主役のシルヴィア、アミンタは、日本公演の主演キャストでもある、ヤノウスキー&マッカテリ、ヌニェス&ペネファーザー、ラム&ボネッリの3組のペアが演じています。先月、演劇・舞踊ライターの岩城京子さんが、日本公演に先駆けて『シルヴィア』をロンドンで観劇し、ヤノウスキー、ヌニェス、ラム、ペネファーザーの取材をしてきてくださいました。これから4回にわたり、岩城さんによるインタビュー記事をお届けします。


ゼナイダ・ヤノウスキー インタビュー
岩城京子(演劇・舞踊ライター)

知性とエネルギーと音楽性に満ちた、輝くほど美しいニンフ。ゼナイダ・ヤノウスキーが舞う『シルヴィア』のタイトルロールを目の当たりにして、ロイヤル・バレエが今後後世に受け継ぐべきアシュトン・スタイルの「現代的な神髄」をそこに認めた気がした。52年にマーゴ・フォンティーン主役で初演された本作は、どちらかといえば小柄でか弱くロマンティックな雰囲気の女性のために創られた役とされてきた。だがその真逆の性質を持つ大柄で力強く現代的なヤノウスキーは、見事にこの役柄が要求する柔和な美しさと細かなステップを体現しつつ、そこにモダンな知性をも上乗せしてみせた。しかもレオ・ドリーブの楽曲の流れるようなメロディを身体そのもので体現してみせる、洞察力に富んだ音楽的フレージングも見事。94年にロイヤル・バレエ団に入団してから徐々に昇進を重ね、01年にプリンシパルに昇格したヤノウスキー。そのゆったりとした歩みがあったからこそ、すべてのパに知的分析が行き届いた洗練美の極地ともいえる彼女ならではのスタイルが完成され、いま英国中のバレエファンの心をにわかに射止めつつある。

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―――本格的にバレエを始めたのが、とても遅かったと聞きました。

ええ。私の両親はともにリヨン・オペラ座のバレエダンサーで、カナリア諸島で学校を開いてバレエを教えたりしていたんです。けど、そうしてあまりにもバレエが身近にあったからこそ逆に、踊りが大好きだったにも関わらず、自分が職業的にその道を歩むという選択は考えたことがなかった。むしろ画家になりたいと思っていたんです。でも14歳のときに今はボストン・バレエにいる弟のユーリと共にキューバにバレエ留学することになって。にわかにバレエに惚れ込んでしまった。それで16歳のときに私はヴァルナ国際バレエコンクールで銀賞を受賞して、パリ・オペラ座バレエ団に入ったんです。ただオペラ座の規律だらけの生活はあまり水があわなかったようで(笑)、3年後にはロイヤル・バレエ団に移籍することを決めました。

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―――95年にファーストアーティスト、96年にソリスト、99年にファーストソリスト、01年にプリンシパル。入団数年でプリンシパルに指名されるダンサーもいるなかで、あなたの昇進はとてもゆるやか。それはあなたにとって良いことだったのでしょうか。

少なくとも私個人にとっては、とても良いことでした。というのも私は「スローラーナー(時間をかけて学ぶ人)であること」に大きな信念を抱く人間だから。たとえば急いで走って目的地にたどり着いてもさほどの達成感が得られないのと同じように、ゆったりと時間をかけて一歩一歩ゴールに近づいていったほうが充実度は大きい。それにもし仮に私が20代前半のときに大きな役をもらっていて、しかもそれを10年踊り続けろと言われていたら、多分退屈して窓から飛び降りていたと思う(笑)。でも私は幸運にも、ある程度年齢を重ねたときにそれらの大役と巡り会うことができた。それはとても素晴らしい出会いで、自分の知性が十分に成熟したときに役柄と対峙することができたからこそ、その役をより彩り豊かに解釈することができた。言うなれば若いときの私はアーティストとしてはまだ未完成で、テクニックつまり"単語"を持っていただけだった。でも今は、その単語を使って文章全体をどう彩るかという"彩色方法"を考えることができる。で、私の考えでは、そこにこそアーティスト一人一人の独自性が滲み出てくるんです。

―――シルヴィア役をあなたは見事"彩って"いましたね。

ありがとう。でも最初のころはやっぱりステップとステップをどうつなげたらいいのかわからなくて。まるで「こう・し・て・しゃべ・って・いる・みたい」に踊りがカクカクしていた(笑)。でもいったん音楽のフレージングを自分なりに解釈して、ムーヴメントの軌道の描きかたを決めたら、おのずと自分なりの役柄の色合いが生まれてきた。でもいつも言うんですけど...、本当にシルヴィアは体力的に大変な役なんです。1幕、2幕、3幕とそれぞれまったく異なるスタイルの踊りをものにしなくてはいけないから。『白鳥の湖』がフルマラソンだとしたら、これはトライアスロン! でもそれほどハードでも、踊るたびに喜びが増すとても素晴らしい演目なんです。

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photo:Bill Cooper

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英国ロイヤル・バレエ団 ニュースBlogスタート!

7月に3年ぶりの来日を果たす、英国ロイヤル・バレエ団。このページでは、日本公演に向けての最新情報をお届けいたします。

皆さんご存知のYouTubeに"Royal Opera Houseチャンネル"があるのを知っていらっしゃいましたか?このチャンネルには、現在25のバレエ、オペラ作品のプロモーション映像がアップロードされており、誰もが素晴らしい舞台の一片を楽しむことができるのです。 もちろん、日本公演で上演される『シルヴィア』、『眠れる森の美女』のプロモーション映像も公開中。 ナレーションは英語ですが、二つの作品の魅力を感じていただけるのではないでしょうか。


『シルヴィア』プロモーション映像


『眠れる森の美女』プロモーション映像


最新情報では、現在ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスで上演中の『シルヴィア』の映像も近日中にご紹介する予定です。お楽しみに!

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