ウィーン国立歌劇場2016日本公演 もっと知りたい!3つのオペラ②「ワルキューレ」

2016年5月24日 09:00

今秋の来日公演で上演される3作は、いずれも不滅の傑作。あらためてどんなオペラなのでしょうか。初演までの紆余曲折や面白エピソードまでの「オペラ秘話」を、音楽評論家の石戸谷結子さんに楽しく解説していただきました。

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元祖"指環"の超人気作。
陶酔を誘う、兄妹の禁じられた恋と父娘の別れ ─ 「ワルキューレ」
 
 
 世の中にワグネリアン(ワーグナー・マニア)という言葉が存在するほど、熱狂的なファンに支持される偉大な作曲家ワーグナー。自分は大天才で他とは違うと思い込んでいたような、傲慢不遜な誇大妄想狂的人間だけれど、その作品は圧倒的に素晴らしい。中でも最大の傑作といわれるのが上演(休憩含む)に18時間もかかる超大作《ニーベルングの指環》4部作だ。世界を支配できるという黄金の指環をめぐり、天上界、地上界、地下界で繰り広げられる壮絶な闘いを描いたファンタジーだ。その第一夜が、今回上演される「ワルキューレ」。単独に演奏されることも多く、4部作の中で一番人気を誇る。

 ワルキューレとは戦い乙女のことで、神々の長であるヴォータンの娘たち。彼女たちは戦いで死んだ英雄たちをヴァルハルに運ぶ役目を担っている。甲冑に身を包み、羽のはえた馬に乗り、空を駆け回る。第3幕で演奏されるのが、映画「地獄の黙示録」にも使われた勇ましい「ワルキューレの騎行」。その1幕では幼い時に分かれた双子の兄と妹の禁じられた激しい恋が描かれる。出会ってすぐ、二人は強く惹かれあい、手に手を取って駆け落ちをする。妹は人妻だというのに。そして幕切れでは父と娘の感動的な永遠の別れがドラマティックに描かれる。

 ワーグナーは台本も執筆し、1876年に4部作全曲を初演した時は、演出も手掛けた。全曲上演のため、バイロイトに理想の劇場まで建設したワーグナーだが、1870年にミュンヘンで「ワルキューレ」のみが初演された時には、出席できなかった。ワーグナーに心酔して資金援助を続けた国王ルードヴィッヒ2世が、ワーグナーの反対を押し切って初演してしまったからだ。

 とはいえ、圧倒的な迫力と壮大なスケールに彩られた「ワルキューレ」は、観る人を幻惑の宇宙空間へと誘い込む。その妖しい魔力の虜になった人は、生涯抜け出せないと言われている。

(石戸谷結子 音楽評論家)

Photo:Wiener Staatsoper_Michael Poehn



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