ジャコモ・プッチーニ

「トゥーランドット」

photo: Tristram Kenton / ROH

 プッチーニの最後の作品『トゥーランドット』は、ヴェルディの『アイーダ』と同様に、音楽性に加えて、スペクタクル性やエンターテインメント性を備えた作品として人気を集めています。このアンドレイ・セルバン演出の『トゥーランドット』は、1984 年に初演、1986 年の日本公演でも上演され大成功を収めました。階段状の回廊、豪華な玉座に座った皇帝、豊かなイマジネーションをあらわす陰影に富んだ照明などなど、美しく壮麗な舞台装置が人々を魅了しました。
 英国ロイヤル・オペラで愛され続けて40 年、この間には演出が何度かバージョンアップされています。当初からの細部に至るまでのこだわりに、さらに、新鮮さや鮮やかさをもたらす色彩、さらにスピーディになりインパクトが強くなった振付など。印象的な変更は、オペラの開演前にカーテンが上がっており、深紅の吹き流しが滝のように下がっていることかもしれません。パッパーノが『トゥーランドット』をオーケストラ・ピットで振ったのは2023 年春が初めてというのは意外ですが、その時にも「どの指揮者よりも優れている」と絶賛されました。
 日本公演では、パワフルな声がトゥーランドット姫にぴったりのソンドラ・ラドヴァノフスキー、世界で最も有名なアリア「誰も寝てはならぬ」を聴かせるのはカラフ役で世界を席巻しているブライアン・ジェイド、そして現地ではすでに“リュー役の絶対的実力者”と認められているマサバネ・セシリア・ラングワナシャの登場も楽しみです。38 年ぶりの日本再演の成功は約束されています。

トゥーランドット姫

ソンドラ・ラドヴァノフスキー

アメリカ、イリノイ州のバーウィン生まれ。南カリフォルニア大学およびタングルウッド音楽センター、シンシナティ大学音楽院で学んだ。1995年メトロポリタン歌劇場の「ナショナル・カウンシル・オーディション」で優勝し、同歌劇場のリンデマン・ヤング・アーティスト・ディヴェロップメント・プログラムで研鑽を積む。同歌劇場へのデビューは『リゴレット』のチェプラーノ伯爵夫人という小さな役だったが、その後に『ホフマン物語』のアントニア役で一躍注目を集め、英国ロイヤル・オペラ、ミラノ・スカラ座、チューリヒ歌劇場、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場など、活躍の場を広げた。メトロポリタン歌劇場では“常連”というだけでなく、ドニゼッティの「チューダー朝三部作」の主役をすべて歌うという快挙も。また、ベルカント、ヴェリズモと並行してヴェルディやプッチーニも歌うレパートリーの幅広さは驚異的ともいえる。英国ロイヤル・オペラでは、『シラノ・ド・ベルジュラック』のロクサーヌ、『スティッフェリオ』のリナ、『イル・トロヴァトーレ』のレオノーラ、『トスカ』と『マノン・レスコー』のタイトルロール、『運命の力』のレオノーラを歌っている。

カラフ

ブライアン・ジェイド

ニューヨーク生まれ。ニューヨーク州立大学パーチェス音楽院で学んだ。当初テノールとして学び始めたが、一旦バリトンとしてトレーニングを受け、数年後にテノールに戻った。サンフランシスコ・オペラのヤング・アーティスト・プログラムとアドラー・フェローシップ・プログラムで研鑽を積み、2012年プラシド・ドミンゴ主宰の「オペラリア」で第2位を獲得した。英国ロイヤル・オペラをはじめ、バイエルン国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、サンフランシスコ・オペラ、アレーナ・ディ・ヴェローナ、メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、チューリヒ歌劇場、ローマ歌劇場、パリ・オペラ座ほか、著名な歌劇場で活躍し、“注目すべき未来”をもつアーティストとして注目されている。レパートリーは幅広く、どの役も好評を獲得。英国ロイヤル・オペラでの『ドン・カルロ』のタイトルロールは「力強く高音を響かせる素晴らしいパフォーマンス」(フィナンシャル・タイムズ紙)と評され、『トゥーランドット』のカラフはバイエルン国立歌劇場で初めて歌った際に「彼はこのロール・デビューで明らかに世界クラスの英雄的なテノール歌手となった!」(パルテール紙)などはその一例。

リュー

マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

1993年南アフリカ、リンポポ州レボワクゴモ生まれ。幼い頃から学校や教会で歌っており、長じてはケープタウン大学で学んだ。ケープタウン・オペラの“若手アーティスト”としての2年間には『魔笛』『マンデラ三部作』『ポーギーとベス』に出演。2019年に国際ハンス・ガボール・ベルヴェデーレ歌唱コンクールで聴衆賞受賞。 2021年には「BBCカーディフ・シンガー・オブ・ザ・ワールド」で歌曲賞を受賞。アフリカ人として初の受賞者となった。ラングワナシャは、英国ロイヤル・オペラハウスのジェット・パーカー ヤングアーティストプログラムの卒業生でもある。近年の活躍、2022/23シーズンには、ベルン市立劇場での『ウィリアム・テル』のマティルド、『トーリードのイフィジェニー』のタイトルロールに加え、英国ロイヤル・オペラでのパッパーノ指揮『トゥーランドット』のリューでの成功が挙げられる。『トゥーランドット』のリュー役は、彼女にとって当たり役の一つであり、2024年にはワシントン・ナショナル・オペラとハンブルク州立オペラにもこの役でデビューする予定。なお、オペラのほかオーケストラとのコンサート活動も活発に行なっている。

第1幕

中国のトゥーランドット姫は「自分に求婚する者は3つの謎を解かなければならない。挑んで解けなかった者は死ななければならない」と宣言している。今日も、先頃謎解きに失敗したペルシャの王子の処刑が行われようとしている。広場に集まった群衆のなかで、召使いの女に手を引かれていた盲目の老人が転んでしまい、一人の若者がそれを助ける。この老人はダッタン国の元国王ティムール、若者はその息子カラフで、二人は生き別れになっていたのだった。召使いのリューとともに3人が再会を喜ぶ傍らで、広場にはペルシャの王子が連れて来られる。死刑執行人が入場し、王子の死を確認するためにトゥーランドット姫も到着する。トゥーランドット姫を見た途端、カラフは彼女の美しさに魅了されてしまう。ピン、パン、ポンの3人の大臣やティムールとリューが止めるのも聞かず、カラフは謎解きに挑む合図の銅鑼を打ち鳴らす。

第2幕

ピン、パン、ポンの3大臣は、トゥーランドット姫の謎解きが始まってからの切り落とされた首の数を数え、終わりのない処刑を嘆いている。3人はそれぞれの美しい故郷に帰りたいと願っている。
謎解き開始の合図があり、封印された謎の答えの書かれた巻物を持った賢人たちが到着する。カラフはトゥーランドットの父である玉座に座った皇帝アルトゥムの前に引き出される。カラフは自分の名前を明かしていないため、皇帝はこの「無名の王子に、答えられなかったらどのように死ななければならないかを告げ、無謀な試みをやめて立ち去るように、これ以上の死は望まないと説得する。しかし、カラフの決意は変わることはない。
トゥーランドット姫が登場する。彼女は、何故自分がこのような謎を出すことによって、男性の求婚を断ってきたのかを語る。祖先であるロウ・リン姫は異国の男に騙され、屈辱のなかで死んでいった。自分は彼女の生まれ変わりとして、誰のものにもならないと決めた。謎を出すのは私の唯一の譲歩なのだ、と。トゥーランドット姫はカラフに、これまでのすべての結果が死であったことを告げ、彼の死も暗示するが、カラフは謎を解いてみせると主張する。
そして、トゥーランドット姫が出す3つの謎に、カラフは見事答る。
謎を解かれたトゥーランドット姫は、父アルトゥム皇帝に「結婚などしたくない」と哀願するが、皇帝は娘に約束を守るよう促す。そこでカラフは、姫が不本意なまま自分と結ばれることは望まないとして、今度は自分が姫に一つの謎を出すことを提案する。夜明けまでに自分の名前を知ることができれば、そのときは自分が死ぬと。

第3幕

北京の街にはトゥーランドット姫から「求婚者の名がわかるまで眠ってはいけない。わからなければ皆処刑する」という命令が出される。これを受け、カラフは「夜明けには私は勝利するだろう」と自信満々で夜明けを待っている。ピン、パン、ポンの3大臣は、美女や財宝を差し出して、姫への求婚を取り下げるように懇願するが、カラフは断る。恐怖におののく群衆たちからも怒りの声が上がり、彼への脅迫も始まる。そうしたなか、前日にカラフと一緒にいるところを目撃されていたティムールとリューがとらえられた。彼の名前を知っていると考えられたのだ。トゥーランドット姫は、彼の名前を明かすまでリューを拷問するよう命じる。リューは「愛ゆえに拷問に耐えることができる」と言い、彼の名前を明らかにすることを拒み、自分で命を断ってしまう。群衆とティムールは彼女の死を嘆き悲しみ、その場を去って行く。残されたトゥーランドット姫と「無名の王子」は二人きりで向き合う。やがて王子は姫に接吻。
トゥーランドット姫の心に彼への愛が生まれたとき、王子は自分の名がカラフであると告げる。
「名前がわかった」と姫は人々を呼び戻す。
皇帝の玉座の前に進み出たトゥーランドットとカラフ。姫は「彼の名は『愛』」と宣言。群衆は愛の勝利を賛美し、皇帝万歳を唱える。

単なるスペクタクルじゃない!
英国ロイヤルオペラが誇るドラマティックな『トゥーランドット』

求婚者に謎をかけ、解けないと殺してしまう「氷の姫君」の前に運命の人が現れるという寓話をもとに、伝説の時代の中国を舞台とする『トゥーランドット』は、『アイーダ』と並んでスペクタクルとして楽しまれているオペラといえるでしょう。
たしかに、このオペラには壮大なスケール感は重要です。とはいえ、アンドレイ・セルバン演出の『トゥーランドット』が英国ロイヤル・オペラで40年にもおよんで人気を獲得しているのは、そこにドラマを物語る魅力があるからにほかなりません。

セルバンの演出は豊かな色彩やダンスを取り入れるとともに登場人物を際立たせるドラマティックな舞台なのです。そして2023年春、新鮮さと壮観さがさらにヴァージョンアップ! 登場人物の心情が伝わるように歌手の一挙手一投足にも磨きがかけられたほか、太極拳や中国武術の動きを取り入れた振付で躍動するダンサーたちの登場など、ドラマの展開をより深くあらわす効果も感じられす。衣裳や装置の細部に至るまで、伝統的な中国を想起させる工夫が満載のこの『トゥーランドット』は英国ロイヤル・オペラが誇る傑作プロダクションです。

3つの謎のナゾ


『トゥーランドット』の謎解きの場面はドラマのクライマックスですが、カルロ・ゴッツィの原作戯曲とプッチーニのオペラでは謎の答えが異なります。プッチーニのオペラでは「希望」、「血潮」、「トゥーランドット」ですが、ゴッツィの戯曲では「太陽」、「年」、「アドリアの獅子」。ゴッツィはヴェネツィア貴族の出身だったことから、第3の謎の答えにヴェネツィア共和国の紋章で あるアドリアの獅子を用いたのだろうと考えられています。

ピン、パン、ポンのナゾ


プッチーニの『トゥーランドット』で、“コミカル部門”を担っているピン、パン、ポンの3人。トゥーランドット姫の“謎かけ”で犠牲者が出ることを嘆く宮廷の大臣です。ゴッツィの原作では仮面付の4人のコミカルなキャラクターでしたが、プッチーニは、イタリアの伝統的なコメディア・デラルテのスタイルを取り入れた3人の役柄としました。3人の名前から、日本ではかつてのテレビ番組「ママとあそぼう!ピンポンパン」が連想されがちですが関連は不明。ただ、実際に歌い始めるのはピン、ポン、パンの順。こうなるとオペラで呼ばれるときのピン、パン、ポンの順の方がナゾといえばナゾ。

リューはプッチーニの理想の女性?


プッチーニは自分の理想の女性像をオペラに登場させることたびたび。恋人の邪魔をしないように別れ話を切り出すミミ(『ラ・ボエーム』)や、可憐でけなげな蝶々さ(『蝶々夫人』)、そして愛する人のために自殺する『トゥーランドット』のリューが続きます。もっともリューに関しては、実際にプッチーニの小間使いだった女性ドーリアがモデルとされています。プッチーニ夫人に夫との仲を疑われたドーリアは自殺してしまったのでした。

photos: Tristram Kenton, Marc Brenner / ROH

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(月-金 10:00~16:00 土日祝・休)

03-3791-8888

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