〈マラーホフの贈り物〉ファイナルへの想い ウラジーミル・マラーホフ インタビュー

 来日した外国人アーティストが覚えてくれる日本語といえば、まずは「オハヨウゴザイマス」「アリガトウ」あたり。ちょっと双方コソバユイながらも、彼らの親しみが感じられていいものだ。だがそれが「ゼッコーチョー!」となると、誰しも驚いて聞き返してしまうのでは…英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、ローレン・カスバートソンが〈アリーナ・コジョカル・ドリーム・プロジェクト〉(2012年2月、東京)に参加した際に、舞台裏で連発していたのがこの言葉なのだそうだ(誰が教えたのでしょう?)。だが、音楽的で生気に満ち、素の自分と地続きのような一枚岩の役作りで観客を魅了する彼女には、じつはこの元気さはぴったりなのかもしれない。  豊かなレパートリーに惹かれて世界各国からダンサーが集う同団にあって、ロイヤル・バレエ学校生え抜きのスターとして期待を集め、今や実力でもトップに立つ一人のカスバートソン。その彼女のために作られたのが、物語バレエの伝統を誇るロイヤル・バレエの最新の全幕作品『不思議の国のアリス』だ。初演者として見たこの作品の魅力は、

 「まず、主人公が原作より少し年上のティーンエイジャーに設定されていること。その年代ならではの淡い恋愛を不思議の国での冒険に絡めることで筋が自然に発展し、舞台作品としての説得力が強まりました。  そして何より、アリスを取り巻く重要な登場人物が、現実の世界と不思議の国でシンクロする、二重の役を与えられていることですね。抑圧的なアリスの母とハートの女王、アリスが思いを寄せる庭師とハートのジャック、そして作者であるルイス・キャロルと白ウサギ。振付家のクリス(クリストファー・ウィールドン)からこの設定を聞かされたときには、興奮しました」

 チェシャ猫やマッド・ハッター(帽子屋)の千変万化の描き方、最新の映像技術を駆使した視覚効果など、一見しての楽しさにあふれている一方で、名作『眠れる森の美女』のパロディとして話題を集めたハートの女王のアダージョ等、バレエ通の観客を思わずニヤリとさせる見せ場も仕組まれている。2011年2月の世界初演は幅広い観客層から喝采を浴び、チケット完売が続いた。カスバートソンはその『アリス』を、

 「これを踊ったんだから、今期限りで引退することになっても平気なくらい!」

 とまで讃える。

 「事態をこんがらがらせるのはアリス自身ではなく、周りの人々なんですよね。アリスを演じる上で大事なのは、いきなり訪れる変化にすぐさま反応できる鋭敏さ。そして初々しくチャーミングなだけでなく、後先考えずに前に進むエネルギーを持っていること。その意味では、原作とバレエでのアリスの本質はとても近いといえますね」

 なるほど。恋愛の要素といえば、アリスとジャックのパ・ド・ドゥは、どれもロマンティックな効果を上げている。特にジャックがハートの女王に裁判にかけられる場面は、オリジナリティの高い動きも満載だ。中でもはっとさせられる“スライディング”は、いったい誰のアイディア?

 「はいッ!私です(と、挙手)。クリスはあの場面の音楽の活かし方をいろいろ考えた末、古典的なステップをベースにすることに決めたの。でもやっぱり見せ場のロン・ド・ジャンブには一ひねり加えたいね、となったときに、私があれを提案して採用されたんです。じつは振付開始の時点で私は体調を崩してカンパニーをお休みしていたのですが、クリスは他のダンサーたちとパ・ド・ドゥの骨格を作りながら復帰を待って、私らしくなるよう変更をたくさん加えてくれました。自分の“刻印”を記すことができて、私も感無量です。  でもこの作品で一番いいのは、幕開きの現実世界から不思議の国、そして現代のイギリスでの幕切れまでが、シームレスに繋がっていること。バレエ作品の中には、全体の流れから浮いている場面が含まれていて、どう演じるべきか悩むものもあります。でも『アリス』にはそれがなく、自分が何を感じてどう動いているのかを常に把握した状態で、最後まで演じきれるの。それが結局、作品全体の豊かな力、美しさに直結しているんですよね」

 舞台上での彼女の個性そのままに、受け答えも終始率直で、明るいカスバートソン。

 「アリスは忙しいの。最初の10分ほどで3着も衣裳替えがあって、舞台袖は大わらわ」「それに実際に舞台でお菓子を食べる!ただでさえ舞台ではのどが渇くのに、飲みものもなしで呑み込むのに一苦労です。キノコの方では、青い染料が手や口に付くし!」

 等々、茶目っ気たっぷりに“アリスの現実”を解説してくれるが、その合間には、

 「現代のダンサーには、さまざまな振付家の要求に応えられる幅の広さが不可欠。毎日が、全力でのチャレンジです」

 と強いまなざしで語る。

 「私自身は日本ではファンの皆さんに知られ始めたところですが、ロイヤルの公演を熱心に見続けていただいていることに、心から感謝しています。今回の来日公演も、ぜひ楽しみにお待ちください!」

 輝くばかりの「ゼッコーチョー!」を支えているのはまさにその心意気なのだと、改めて感じ入った。


「不思議の国のアリス」(全3幕)

会場:東京文化会館

2013年
7月5日(金)6:30p.m./ 7月6日(土)1:00p.m./ 7月6日(土)6:00p.m./ 7月7日(日)1:00p.m.

【予定される主な配役】
アリス:ローレン・カスバートソン(7/5,7/7)ベアトリス・スティックス=ブルネル(7/6昼)、サラ・ラム(7/6夜)
ハートのジャック/庭師ジャック:フェデリコ・ボネッリ(7/5,7/7)、ルパート・ペネファーザー(7/6昼)、スティーヴン・マックレー(7/6夜)
白うさぎ/ルイス・キャロル:エドワード・ワトソン(7/5,7/7)、ブライアン・マロニー(7/6昼)リカルド・セルヴェラ(7/6夜)
ハートの女王/アリスの母親:ゼナイダ・ヤノウスキー(7/5,7/7)、イツァール・メンディザバル(7/6昼)ラウラ・モレーラ(7/6夜)
マッドハッター/マジシャン:スティーヴン・マックレー(7/5,7/7)未定(7/6昼)、アレクサンダー・キャンベル(7/6夜)


「白鳥の湖」(全4幕)

会場:東京文化会館

2013年
7月12日(金)6:30p.m./7月13日(土)1:00p.m./7月13日(土)6:00p.m./7月14日(日)1:00p.m.

【予定される主な配役】
オデット/オディール:アリーナ・コジョカル(7/12)、ロベルタ・マルケス(7/13昼)、サラ・ラム(7/13夜)、マリアネラ・ヌニェス(7/14)
ジークフリート王子:ヨハン・コボー(7/12)、スティーヴン・マックレー(7/13昼)、カルロス・アコスタ(7/13夜)、ティアゴ・ソアレス(7/14)


たった一夜のスペシャル・プログラム!
<ロイヤル・ガラ>

会場:東京文化会館

2013年7月10日(水)6:30p.m.

【予定される主な配役】
*演目・出演者・発売方法などは追って発表します。


チケット発売日

一斉発売開始 2月16日(土)10:00より

入場料[税込]

S=¥22,000 A=¥20,000 B=¥18,000
C=¥13,000 D=¥10,000 E=¥7,000

エコノミー券=¥5,000
学生券=¥3,000

◆「不思議の国のアリス」「白鳥の湖」2演目セット券[S, A, B券]
◆ペア割引券 ※NBSチケットセンター電話予約のみで受付
S券ペア割=¥43,000 A券ペア割=¥39,000 B券ペア割=¥35,000
◆親子ペア割引券 ※3月12日(火) よりNBSチケットセンター電話予約のみで受付
親子S券ペア割=¥33,000 親子A券ペア割=¥30,000
親子B券ペア割=¥27,000
◆7月6日(土)1:00p.m. 公演限定「アリス」ファミリー券 (※3月12日(火)より、NBS電話予約とイープラスのみで受付開始)
大人=¥18,000(B券相当) + 子ども1名様につき¥3,000)

NBSについて | プライバシー・ポリシー | お問い合わせ