英国ロイヤル・オペラ 2015年日本公演 『ドン・ジョヴァンニ』 “色男”への愛と憎しみを抱く美しきエルヴィーラ ジョイス・ディドナート

photo:Nick Heavican

 ロイヤル・オペラ日本公演『ドン・ジョヴァンニ』でドンナ・エルヴィーラを歌うのは、アメリカのジョイス・ディドナートだ。ロンドンや欧州各地をコンサート・ツアー中、ベルリンに電話して話を聞いた。ヒューストン、サンフランシスコ等アメリカの有名歌劇場を経て2000年代初期にスカラ座、パリ・オペラ座、ロイヤル・オペラ等欧州の大歌劇場にデビューした。特にヘンデルやモーツァルト、ロッシーニの解釈で知られる。

―― 日本へいらしたことはありますか。

ディドナート 1997年頃に東京のコンクールに出て、次はサイトウ・キネン・フェスティバルで小澤征爾氏指揮の『カルメル会修道女の対話』(1998)でした。その後東京の新国立劇場で『セビリアの理髪師』(2002)のロジーナを歌いました。

―― 久しぶりの来日ですね。外国の歌劇場とは初めてだし。エルヴィーラはよく歌うのですか。

ディドナート ヤニック(・ネゼ=セガン)と録音したことがあります。舞台で歌ったのはロイヤル・オペラのみ。チャールズ・マッケラスの指揮で、フランチェスカ・ザンベッロの演出でした。

―― ではまだ役作りの最中ですね。

ディドナート 100回歌っても役作りは続きます。

―― 演出が違うと同じ役でも大分変わりますか。

ディドナート アンサンブルが重要なオペラなので、キャストが一人違っても反応の仕方や人間関係のバランスが変わります。相手をよく聴いてリアクションを起こすのも演技者としての仕事ですから、当然その都度解釈も変わります。

―― エルヴィーラはドン・ジョヴァンニに愛と憎しみを感じる複雑な役柄ですが、演じるのは難しいですか。

ディドナート いえ、特には。歌の方はかなり大変ですが、モーツァルトとダ・ポンテはさすがに作劇術に長けていて、特にモーツァルトはエルヴィーラに大きなヒューマニティを与えています。おそらく全人物の中で最も正直でしょう。そしてとてもスペイン的、激しい気性ですから。音楽と歌詞に頼れば演技的にはさほど難しくはないです。彼女のありのままを思いっきり外に出せばいいのですから。

―― そのように演じれば歌いやすくなる?

ディドナート さあ、どうかしら。声楽的には大変です。だからこそリアルで正直で情熱的になるのね。

―― 現在はモーツァルトが多いですか。

ディドナート いつも多いです。ケルビーノ(『フィガロの結婚』)、ドラベッラ(『コシ・ファン・トゥッテ』)、セスト(『皇帝ティートの慈悲』)、そして複雑で音楽的にも難しい大役のエルヴィーラね。バロックやイタリア的なベルカントもずっとやってきたし、一つの方向にのみ力を入れるということはありません。

photo:Simon Pauly

―― ロッシーニでもロジーナとエレーナ(『湖上の美人』)では全く違うのに、どの役も観客を信じさせます。特別な演技の訓練でも?

ディドナート 観客が私の役の感情や行動に没頭してくれることがゴールなのです。音楽的、声楽的要素と演劇的要素が相互作用することによって歌うことが楽になり、演技も滑らかになります。ズボン役でもプリンセスでも闘士の役でも、観客が役の中に引き込まれてほしい。正式な演技指導を受けたことはありませんが、演出家にすべてを頼ってニュアンスや真実を伝えるよう心がけています。

―― 数年前にロイヤル・オペラの『セビリアの理髪師』で、車椅子で歌っていらしたのを拝見しました。すごい迫力でした。

ディドナート これも同じことです。綿密なリハーサルを重ねているし、出演する皆がこのオペラを熟知しているからお互いへの信頼も厚く、即興も多かったです。思えばロジーナが怪我をして車椅子に乗っているシチュエーションだってありうるでしょ。すばらしい思い出になったわ(笑)。

―― ほんとうにあの舞台は今や伝説ですね。ところで慣れているオペラでもいやな演出に出会ったらどうします?

ディドナート もし明らかな間違いがあったり誇張が過ぎたり、いかがわしいことを演出家から要求されたら、その理由や動機をききます。肉体的に意味のないことはできません。理解するまで質問攻めにしますが、これも仕事ね。

―― あなたにとってロイヤル・オペラハウスはどんなところですか。

ディドナート 2003年に『利口な女狐の物語』でデビューして以来、いつでも帰って来られる私のキャリアの中心部です。バービカン・ホールやウィグモア・ホールも含めて、ロンドンは両手を広げて私の情熱を受け止めてくれます。

―― マエストロ・パッパーノはどんな人?

ディドナート 特別な人。特別なピアニストであり指揮者であり、人間的にも特別です。(声を震わせて)彼からは音楽や情熱が溢れ出てくるの。同時に皆にベストを要求し、一緒に音楽を輝かせてくれます。でもコラボレーターとして、決して安全な場所を提供してくれるわけではありません。彼にとって重要なのは音楽体験と演劇体験を後で貼り付けるのではなく、舞台とオーケストラを最初から一つの物として作り上げることなのです。


2015年日本公演
英国ロイヤル・オペラ
ヴェルディ作曲『マクベス』


指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:フィリダ・ロイド

【公演日】

2015年
9月12日(土)3:00p.m
9月15日(火)3:00p.m
9月18日(金)6:30p.m.
9月21日(月・祝)1:30p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

マクベス : サイモン・キーンリサイド
マクベス夫人 : リュドミラ・モナスティルスカ
バンクォー : ライモンド・アチェト
マクダフ : テオドール・イリンカイ

【入場料[税込]】

S=¥55,000 A=¥48,000 B=¥41,000 C=¥33,000  D=¥26,000 
エコノミー券=¥10,000 学生券=¥8,000

*エコノミー席はイープラスのみで、学生席はNBS WEBチケットのみで8月7日(金)より受付。

2015年日本公演
英国ロイヤル・オペラ
モーツァルト作曲『ドン・ジョヴァンニ』


指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:カスパー・ホルテン

【公演日】

2015年
9月13日(日)3:00p.m
9月17日(木)6:30p.m.
9月20日(日)1:30p.m.

会場:NHKホール

【予定される主な配役】

ドン・ジョヴァンニ : イルデブランド・ダルカンジェロ
レポレロ : アレックス・エスポージト
ドン・オッターヴィオ : ローランド・ヴィラゾン
ドンナ・エルヴィーラ : ジョイス・ディドナート
ドンナ・アンナ : アルビナ・シャギムラトヴァ
ツェルリーナ : ユリア・レージネヴァ
マゼット : マシュー・ローズ
騎士長 : ライモンド・アチェト

【入場料[税込]】

S=¥55,000 A=¥48,000 B=¥41,000 C=¥33,000  D=¥26,000 
エコノミー券=¥10,000 学生券=¥8,000

*エコノミー席はイープラスのみで、学生席はNBS WEBチケットのみで8月7日(金)より受付。