2016年 2月公演 東京バレエ団初演 ブルメイステル版「白鳥の湖」 斎藤友佳理新芸術監督のもと、新たなる挑戦! オデット/オディール:川島麻実子 オデット/オディール:上野水香 オデット/オディール:川島麻実子

 2016年2月、チャイコフスキー記念東京バレエ団は創設以来のレパートリーであるゴールスキー版に代えて、劇的な演出で知られるブルメイステル版「白鳥の湖」を上演する。
 ブルメイステル版と言えばスタニスラフスキー及びネミロヴィチ=ダンチェンコ記念モスクワ音楽劇場の十八番であり、パリ・オペラ座やミラノ・スカラ座でも上演される名演出だ。東京バレエ団の新芸術監督・斎藤友佳理はダンサーとして、またバレエマスターとして永くモスクワで研鑽を積み、モスクワ音楽劇場がラコット版「ラ・シルフィード」を初演した際には振付補佐として招かれている。半世紀ぶりに「白鳥の湖」をリニューアルするに際して斎藤がブルメイステル版を選択したのは、バレエ団が劇的バレエを志向するモスクワ流派を継承することを再確認するものだろう。
 ウラジーミル・ブルメイステルは1904年にペテルブルグ近郊で生まれた。母方の祖父はチャイコフスキーの従兄弟に当たる。音楽の素養があった母の影響を受けて、ブルメイステルは初め音楽を、モスクワに移ってからは演劇を学んだ。その後、恋人に誘われて入った演劇学校でバレエに興味を持つようになったが、踊りを習い始めたのが遅かったため第一級のダンサーになるのは困難だった。彼はバレエにおいて新しいドラマトゥルギーを創造する振付家の道を選択した。
 ブルメイステルのバレエで最も有名なのが「白鳥の湖」であり、1953年4月にモスクワ音楽劇場で初演された。演劇学校時代よりスタニスラフスキー・システムに心酔していた振付家は、群舞からバレリーナに至るダンサーの階級に沿って踊りの妙技を披露する、古典バレエの様式に従ったプティパ=イワーノフ版に依拠するのではなく、可能な限りチャイコフスキーの原曲に立ち返ろうと考えた。
「ダンサーは舞台の上で登場人物の人生を生きなければならない。舞踊によって人生を表現し、人物の感情や心的体験を開示する。」チャイコフスキーの音楽はこれを実現するだけのドラマトゥルギーを十全に備えていた。
 全幕は4幕(または3幕4場)から構成され、これにプロローグとエピローグが付け加えられる。序奏が始まるとすぐに幕が開き、オデットがロットバルトの魔法によって白鳥に姿を変えられるプロローグが演じられる。これにより観客は物語の発端を容易に理解できるようになった。
 第1幕の大きな変更点は、第4曲「パ・ド・トロワ」(ここでは王子の4人の友人による「パ・ド・カトル」)のあと、プティパ=イワーノフ版以来「黒鳥のグラン・パ」として第3幕で踊られていた第5曲「パ・ド・ドゥ」のアントレとアダージオが原曲の位置に戻されたことで、これは王子と宮廷の女官によって踊られる。
 第2幕の湖の情景はイワーノフの原振付に沿ってピョートル・グーセフが若干の改訂を施したが、今回の東京バレエ団の舞台ではイワーノフ版に戻される予定だ。
 第3幕はブルメイステルの独自性が最も際立った幕である。花嫁候補のワルツが終わるとオディールとロットバルトが手下を従えて登場する。各国の民族舞踊はロットバルトの手下たちによって踊られるが、最初のスペインの踊りと最後のマズルカで踊りの合間に女性ソリストとオディールが入れ替わり、王子を誑かす趣向になっている。
 ロットバルトの踊りのあと「黒鳥と王子のパ・ド・ドゥ」が続くが、ここでブルメイステルは、チャイコフスキーが初演第2キャストのアンナ・ソベシチャンスカヤのために追加した「パ・ド・ドゥ」(バランシンの《チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ》で知られる)のアダージョと男性ヴァリアシオンの曲を挿入した。但し、黒鳥のヴァリアシオンとコーダは第19曲「パ・ド・シス」の最後の2 曲を使用している。
 終幕はチャイコフスキーのオリジナルにほぼ忠実な音楽配置だが、王子が湖畔に駆け込んできたあと「パ・ド・シス」の第3曲を挿入して、失意の白鳥たちが退場する情景を描いている。
 エピローグでは王子の献身的な愛により悪魔が滅び、オデットは元の娘の姿に戻って王子と結ばれる。ハッピーエンドで終わるところはチャイコフスキーの原曲に照らして議論が残るかも知れないが、20世紀的な人生の幸せと喜びを称揚する幕切れに賛同する向きも多いと思う。現代の日本の観客が新しい東京バレエ団のブルメイステル版《白鳥の湖》をどのように受け止めるか、今から楽しみである。

東京バレエ団 ブルメイステル版
「白鳥の湖」


【公演日】

2016年
2月5日(金)6:30p.m.
2月6日(土)2:00p.m.
2月7日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オデット/オディール:上野水香(2/5) 、渡辺理恵(2/6)、川島麻実子(2/7)
ジークフリート王子:柄本弾(2/5)、秋元康臣(2/6)、岸本秀雄(2/7)
ほか、東京バレエ団

指揮:アントン・グリシャニン
演奏:東京シティ・フィルハーモーニック管弦楽団

【入場料[税込]】

S=¥12,000 A=¥10,000 B=¥8,000 C=¥6,000 D=¥4,000 E=¥3,000
エコノミー券=¥2,000 学生券=¥1,000

*エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみで2016年1月12日(火)より受付。
※ペア割引あり(S,A,B席) ※親子ペア割引あり(S,A,B席)